鶴見俊輔のレビュー一覧
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先年,呉の大和ミュージアムに行ったとき以来,読もうと思っていた本を読む.
大和の最後の出撃となった沖縄特攻に学徒出身士官として乗り組んだ著者の経験を基にした小説.短い文を重ねた明晰な文語での記述に,必ず負ける,生きては帰れないと知りながら出撃し,まさしく懸命に戦う人たちの姿がうかびあがる.戦後70年を振り返り,今の日本がどうなろうとしているかを考える上でも,読んでよかった.
文語文としては難しくはないが,私には読めない漢字や意味のわからない漢語は少々あるので辞書はひかないといけなかった.若い人が読めるようにルビ付き,注つきの手軽に手に入るエディションがあってもいいと思う. -
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著者の鶴見さんの半生を振り返りつつ、
教育というものの真の意味にたどり着こうとする論考エッセイです。
むずかしい言葉でがちがちになっていなくとも、
ちゃんと物事の深みを表現して伝えることができるという
良い見本のような文章でした。
むずかしいことはむずかしいという部分はあるのですが、
時間をかけて読むことできっとイメージはつかめるという感覚。
巻末の芹沢俊介さんの解説を読むと、
ああそうか、とそれまで読んできた言葉がすっと胸に入ってクリアになります。
まず、痛みによる教育の試みだといいます。
痛みは身体的なものも心的なものもどっちも。
そうして、著者が自分で経験した痛みからくる教育を披歴して -
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・驚くべき博識、柔らかい感受性、抑制の利いた名文。まさに範とすべき珠玉の文章群だ。しかし、そのような賛辞ですら本質的ではないと思えてしまうのは、氏が本物の思想家であるからだろう。
「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした」(p34)
「日米交換船に乗るかときかれたとき、乗ると答えたのは、日本国家に対する忠誠心からではない。なにか底に、別のものがあった。国家に対する無条件の忠誠を誓わずに生きる自分を、国家の中に置く望み」(p225)
・その「気」や「なにか別のもの」について、氏は、「ぼんや -
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1931〜1945年の日本が、どのように軍国主義化したか、それに対抗した人々はどのような人々で、どのようにしたのか。いわば、日本転向史である。15年戦争観からの国内イデオロギー史としてわかりやすく、読みやすくまとまっていると思う。講義録というものの性質上あまり強いメッセージが投げかけられてくるわけではないが、訴えられていることは重要である。それはつまり、この著者がリリアン・ヘルマンを引用しているところによれば、「まともであること」とはどういうことか、ということである。社会の潮流や大きな権力を前にしても、「まともであること」。
戦争の教訓は何か、それは多様に語ることができようが、この本から得られ -
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戦中、戦後を通して出会ってきた多くの人、本、出来事について語る。歯に布着せぬ物言いで読んでいて心地よく、簡素な文体であるにもかかわらず非常に滋味溢れている。気が利いたこと、本質を突くようなこと、その鋭さは、二人は全く違ったタイプの人間であるが小林秀雄先生を思い起こさせた。
吉本隆明の『追悼私記』「三島由紀夫」には、こうある。
「知行が一致するのは動物だけだ。人間も動物だが、知行の不可避的な矛盾から、はじめて人間意識は発生した。そこで人間は動物でありながら人間と呼ばれるものになった。
<知>は行動の一様式である。これは手や足を動かして行動するのと、まさしく同じ意味で行動であるということを -
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[ 内容 ]
戦後思想史に独自の軌跡をしるす著者が、戦中・戦後をとおして出会った多くの人や本、自らの決断などを縦横に語る。
抜きん出た知性と独特の感性が光る多彩な回想のなかでも、その北米体験と戦争経験は、著者の原点を鮮やかに示している。
著者八十歳から七年にわたり綴った『図書』連載「一月一話」の集成に、書き下ろしの終章を付す。
[ 目次 ]
1 はりまぜ帖
2 ぼんやりした記憶
3 自分用の索引
4 使わなかった言葉
5 そのとき
6 戦中の日々
7 アメリカ 内と外から
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー -
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[ 内容 ]
恐慌、侵略戦争、そして敗戦。
この苦悩にあえぐ現代日本の現実を、何らかの形でゆり動かしたものは何か。
その代表として、白樺派、日本共産党、生活綴り方運動、北一輝らの昭和維新の運動、戦後世代の五つをあげ、そこに体現された諸思想――観念論、唯物論、プラグマティズム、超国家主義、実存主義――の性格と役割を明らかにする。
[ 目次 ]
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
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ネタバレ[ 内容 ]
雑誌『思想の科学』への投稿がきっかけで交流が始まった二人。
半世紀ぶりに再会し、語り合った昭和の記憶とは?
「戦時体制にも爽やかさがあった」と吐露する上坂氏に対して、「私もそう感じた」と応える鶴見氏。
一方で、「米国から帰国したのは愛国心かしら?」と問う上坂氏に、「断じて違う!」と烈火のごとく否定する鶴見氏。
やがて議論は、六〇年安保、べ平連、三島事件、靖国問題へ。
護憲派、改憲派という立場の違いを超えて、今だからこそ訊ける、話せる逸話の数々。
「あの時代」が鮮明によみがえる異色対論本。
[ 目次 ]
第1章 戦時下の思い出(戦時体制の爽やかさ 張作霖爆殺事件の号外 ほか)
第 -
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名前も知っているし、原稿を読んだこともある。
けれども、自分にとっての読み時があると言うのか、
突然、その人の文章が身体に沁み込んでくる感覚がある。
鶴見俊輔『思い出袋』を読む。
岩波の雑誌「図書」に著者80歳の時から
7年かけた連載をまとめた新書である。
鶴見はハーヴァードの哲学科に学び、
戦時中はシンガポール、インドネシアで短波放送の解読や
幹部向けの新聞づくりなどの任務を果たした。
後に鶴見がベ平連の活動として
良心的兵役拒否の米兵を助けたことは
幼少から大学時代、そして戦時中の体験に連続した行動であった。
僕が鶴見に共感するのは、
国家から意識の距離を置き、国家の過ちも見逃さないこ