Posted by ブクログ
2011年12月21日
昭和史の対論という表題に惹かれて読んでみたが、鶴見俊輔という巨大な知性が光った本であると感じた。
鶴見俊輔は、ベ平連で有名なリベラリストであるとは知っていたが、本書でその生まれや過去、考え方がよくわかった。鶴見俊輔は、後藤新平の孫にあたり、戦争前の1938年(昭和18年)16歳時にアメリカに単身...続きを読む留学し、1942年(昭和22年)日米開戦後に交換船で帰国するなど、いいとこのぼっちゃんである一方で冒険的な人生を謳歌した過去を持つ。リベラルといっても、様々な過程があることを伺えさせ、多種多様の多くの知人を持ち、幅の広い人間であることが対談の内容からもよくわかる。それにしても、この知識の広さ・深さはすごい。
たとえば「日本国憲法」の話題が出れば、打てば響くように、その周辺事情を詳細に語り、関係者の個人名もスラスラ出てくる。その内容も、一家言あり、読んでも面白い。知性とはこういうものかと驚嘆した
鶴見俊輔は、昭和32年の総理大臣吉田茂の防衛大第1期卒業生の訓示についても語る。「君たちは自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり歓迎されたりすることなく終わるかもしれない。非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を変えれば、君たちが『日陰者』扱いされている時の方が、国民や国家は幸せなのだ。耐えてもらいたい」。こう言う言葉を語る吉田茂もすごいが、この言葉がスラスラ出てくる鶴見俊輔もすごい。多くの歴史的エピソードを語る時も、出てくる歴史的人物の多くが個人的知り合いであることは、当時の日本のエスタブリッシュメントのインナーサークルの狭さも伺える。
「教育勅語」について語る時も、単純な批判ではなく、教育勅語を書いた元田ながざねや、その先生である横井小楠について語ると共に、その内容の「諌争」について、また「軍人に賜りたる勅愉」についても語る。とにかくすごい知識だと感嘆した。
上坂冬子氏は、小説家だが、その鶴見の知性をふんだんに引きだす力は、やはり知性のひとつのあり方と感じた。二人の長い人生がところどころでクロスするところがこれもまた面白い。
本人たちも楽しんで対談している雰囲気がよくわかるし、読んで、あまり記憶に残る内容ではないが、歴史のエピソードを知ると共に、より広い視点と知識を得ることもできる本であり、本書は、素直に面白い本であると感じた。