黒岩重吾のレビュー一覧
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兄、中大兄皇子(天智天皇)の皇太弟として次期天皇を期するも、天皇の子の大友皇子が新天皇に指名され、出家して吉野に隠遁する大海人皇子。
敢えて忍従しつつも東国の反近江朝廷派の力を集積し、機が熟したところで反撃の狼煙を上げる。
672年に起きた大海人皇子と大友皇子による「壬申の乱」をテーマにした壮大なドラマ。高校生の頃に年号と名前だけを丸暗記しただけのことを50年たった今、あらためて事の真相を知る素晴らしい時間だった。
数年前、関ケ原と垂井町を歩き回ったときに、なぜここに壬申の乱の史跡があるのかと不思議に思ったがその理由がよく分かった。その時の土地勘があったので内容も楽しく読めた。
ただ黒岩 -
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ネタバレ一時、直木賞作品をすべて読もうと思い立ち、かなりの数を集めた。まだコンプリートはできてないが今も古本屋などで持ってないものを見かけるとテンションが上がる。もっともまだ手元にないものは、かなりの古書価がつくものが多く、購入には二の足を踏んでしまうが・・
さてこの作品、昭和三十年代半ばの受賞作。高度成長期への入り口時代の作品になると思う。全体として重苦しいので好みは分かれる作品かもしれない。
格差や差別偏見は今からは考えられないレベルであるのが作品を通してよく分かる。ただ底辺に生きる人々も活気だけはあり、逞しく貪欲に生きる人間の力強さを感じる。
ストーリーは自分を殺そうとした犯人を探すのがメ -
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上巻に引き続き、大海人皇子は石橋を叩いて叩きまくりながら、対中央朝廷の準備をすすめる。そして、待ちに待った兄の天智天皇の死。大海人皇子は味方にした地方豪族たちを率い、三万の軍勢で近江宮を目指す。
著者は限られた資料や当時の戦場の地形、人々の体力や走力などを分析し、壬申の乱の局地戦を詳細に描き出す。下巻のほとんどがこの戦乱描写なのだが、あまりに詳細すぎて読むのがつらかった。あまり知られていない将軍や舎人に比べて、額田王や大友皇子の登場が少なく、人間ドラマそっちのけの下巻は、小説というより歴史書に近い。
と、そんな不満は置いといて、本作品を読んでわかった大海人皇子が圧勝した理由は2つ。一つは緊 -
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戦後間もない昭和の大阪。
社会の落伍者が集うアパート「飛田ホテル」
光の当たらない暗がりで悲しく交わる男女の情と性。
今日日、男女の愛憎という言葉が最早昼ドラで使われるのか怪しいくらいに、陳腐な響きになってしまったように思うが、時代と共に、貞操観や死生観というのは移ろいでゆくもの。
平安から江戸期はもちろんのことだが、戦前、戦中、全てが焼け野原になった直後からやや落ち着き始めた時期、貞操観や死生観が現代と異なるのは当然。
そんな時代を最底辺で生活している、男と女の六編の物語。
なんだろう、重いはずなんだけど、暗い気持ちにはならないな。人間の根源みたいな原始的な、生きるって要素が滲み出てるの -
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なにかの書評で高評価だったので読んでみた。
読み始めて、あまりの昭和感と薄暗さに全部読むかどうしようか悩んだのだけど…
読んでいくうちに、なんかこ~じわじわとおもしろさがにじんできて、最後まで一気に読んでしまった。
戦後の大阪(関西)を舞台にした男と女の短編物語集
と、こう書くだけでなんかジメジメする感じだけど…
このジメジメ感がなんかいい。
社会の落伍者が集まるアパートで繰り広げられる男女の愛「飛田ホテル」
神戸の怪しいクラブと息子の死の真相を探る「口なしの女たち」
コールガールの姉妹を描いた「隠花の露」
お金と人生と愛を描いた「虹の十字架」
愛した女の過去を探る「夜を旅した女」
女の愛 -
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ネタバレ下巻では、大友皇子に天皇位を奪われ、出家して吉野に隠遁していた大海人皇子が綿密すぎるほどに計画し、挙兵するまでの様子を描く。宮滝に落ち延びてからも決して態度を変えず大海人に寄り添い続ける勝気な妻、鸕野讃良との絆の深さも印象深い。
身分に隔たりのある舎人たちと心を通わせるなど、懐の大きな大海人に心を寄せるものは東国にも王族にも朝廷内にも多く、彼らは近江朝廷に愛想を尽かしてしばしば大海人を慕い、挙兵を促す。しかし大海人は舎人たちにさえギリギリまで本心をひた隠しに隠して、水面下で準備を推し進めていく。
決戦の日に備え、部下たちに土地勘を養わせたり、より強力な武器を製造させたり、まだ皇太弟として権威 -
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ネタバレ壬申の乱をテーマとした小説で、大海人皇子の視点で描かれる。
この上巻では、主人公・大海人皇子は、兄である中大兄皇子の政権下で、「武人肌で政治にはあまり興味のない皇太弟」として過ごす。
中大兄皇子は、ブレーンである鎌足から独立して「大王」ではなく「天皇」という新しい観念の独裁者になることを望み、着々と実行していくが、白村江の惨敗を経て自信を失う。その頃から、老いとともに我が子大友皇子を溺愛するようになる。そして皇太弟である大海人から大友へ天皇位がわたるように巧妙に操作していく。
天智天皇の心変わりや大海人の野望が育っていく様など、心理描写は巧みで人間を深く描いている。「老い」というものに対す -
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ネタバレ蘇我入鹿を主役として、きのとみのクーデターで暗殺されるまでを描いた作品。
私の中で、蘇我氏のイメージって、まんが日本の歴史で、蝦夷と入鹿が「天皇なんてお飾りさ」ってがははと笑ってる絵が、30年近くたった今でも鮮明に覚えてて。あとは、山岸さんのまんが、日いづる処の天子の、聖徳太子に翻弄される蝦夷像。
そんな貧弱な蘇我像だったので、とても楽しめました。
唐の制度の研究、啓蒙が進む中で、蘇我氏としては自身が大王になるか、現在の大君家への中央集権を指をくわえて見てて没落するか、の選択肢だったということにとても納得。
あとは、鎌足がイヤな奴で、とっても好み(笑)
推古女帝の恋の話が読みたい。
あ