黒岩重吾のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ7世紀中葉から8世紀前半まで生きた、石上朝臣麻呂の伝記小説です。
爽やかな表現をすれば、一人の男のサクセスストーリーかな。
でもタイトルにも闇とある通り、男にはいつも翳が付き纏う……それが物部連麻呂こと後の石上朝臣麻呂の血に染み付いた宿命だったのかも知れません。
支族とは言え、当時「敗者」「負け組」と言う不名誉な言われ方・扱いをされていた物部氏に生まれた麻呂は、負い目を感じて成長します。
物部氏の祖・邇芸速日命の伝承もあいまいって、たびたび自分の内側の暗い血を意識して苦しみます。
その鬱積は屈折となり、麻呂の性格に影を落としていましたが、積み重なった屈辱は次第に反骨の糧となり、いつか麻呂の胸の中で燃え上がるようになった。
麻呂の出世欲に、火が点いたのです。
しかし、物凄い反骨精神ですね。
挫折、成功、また挫折の繰り返し。
しかも麻呂には、「裏切り者」「卑怯者」と言う白い目がまとわりつく。
普通なら卑屈になって身動きもとれなくなりそうですが、麻呂は転んでもただじゃ起きない性格でした。
まさに、鋼の肉体&心臓ですね゚д゚;
苦労しながらもコツコツと働き、官位を上げ、なんと最終的には臣下の最高位・左大臣まで上りつめるんです。
平の公務員から始めて、総理大臣になったようなものです。
とんでもない、叩き上げ人生!
立派としか言いようがないです。
しかも、苦労ばかりだったはずなのに、78歳まで生きて大往生してるし。
当時は40歳で死を意識したらしいですから、倍ぐらい生きてます。
ただ生きてるだけじゃなく、バリバリ政治も執って、妻を何人も持って子供も作ってたようだし…。パワフルだ。
しかし、臣の頂点まで上りつめた時の麻呂の胸中は……。
複雑。ものわかりの良い爺さまになった麻呂、いっきに小さくなった感じがしました。
詠了後は、本当にお疲れ様!ってつぶやいてしまいました。
実は(他の作品の影響や、やっぱ疑惑が多くて)物部麻呂はあんまり好きじゃなかったし、タイトルを見た時に、暗黒面のパワーで「おぬしも悪よのう」的に汚く且つセコくのし上がって行く過程を想像していたのですが、いい意味で裏切られました。
完全な史実ではないにしろ、その生きざまに、すっかり納得させられてしまいました。
本当に面白かったです。
ちなみに、この作品は黒岩重吾氏の遺作です。
人間を人間らしく描くって、当たり前のようでいて結構難しいと思うのですが、歴史物…しかも古代ものでそれをやってのける黒岩氏って本当に凄いと思います。
絶筆の作品に相応しい、スケールの大きい歴史人間ドラマでした。 -
Posted by ブクログ
ちょこちょこUPしてますが、やっと40冊!
黒岩氏だけでもまだ10冊近くレビュー残ってるし…。
歴史物だけの紹介で1年が過ぎていきそうな予感です。
さて、今日の紹介は黒岩重吾氏の歴史小説の中でも最長の作品、ヤマトタケルの物語です。
本書は「大和の巻」「西戦の巻・上下」「東征の巻・上下」「終焉の巻」全6巻構成となっています。
長い!
でも私は、面白くて一気に読みました!
言うまでもなく、ヤマトタケルは半分想像上の人物と言われています。
大和政権が各地を平定していく過程の、様々な王子や将軍による英雄伝が、ヤマトタケルと言う人物に集約され、ひとつの物語になったと言われてるらしいです。
本書、黒岩版のヤマトタケル英雄伝は、いわゆる「記紀」で語られている荒唐無稽なおとぎ話ではなく、一本の筋が通った人間ロマンになっています。
もちろん神秘的な部分もありますが、あくまで現実と言う認識で、有耶無耶にはせずに描かれています。その現実と非現実の匙加減がまた巧妙なこと請け合いなのです。
有名な兄殺し、女装劇、焼津の草薙の剣の逸話がどうなっているのか、ぜひ読んで頂きたいです。
「記紀」の本筋とはちょっと違う、一味も二味も風味増しされた、新しいヤマトタケル観が味わえる小説だと思いますよ。
もちろん本筋を知らなくても、楽しめると思います。
個人的には宮簀姫がすごい事なってるやん!って驚きました。
そう来たかと…。魔性の女ですね゚д゚;
あとは黒岩氏のこれも得意技(笑)、王子を補佐する人物たちがあまりに魅力的すぎます!
ヤマトタケルの話と並行して描かれる彼らの物語も、ものっすごく濃いぃです。
特に猪喰。惚れてまうやろー。
宮戸彦や七掬脛みたいなお調子者キャラも好きですが、私はいつも、猪喰みたいな「影」のキャラに味を感じてしまいます。
オダギリジョーか松山ケンイチあたりで映像化してほしいわー!
オグナは塚本高史あたりが良いかなとか妄想。
歴史ものとしても、戦記ものとしても、人間ロマンとしてもおすすめの一冊です。 -
Posted by ブクログ
黒岩重吾氏による古代小説。
壬申の乱を軸に天武帝=大海人皇子の生涯を描いています。
彼の統治以後、日本は「日本」になったと言われていますね。
とにかく面白い。
時代を辿るのはもちろん楽しいですが、登場人物が活きています。
古代日本を舞台にした小説は、なんとなく人物描写が薄くて感情移入しにくいものが多い。
しかし、黒岩氏による登場人物への肉付けは素晴らしいの一言。
生々しいと言っても過言ではないかも。
だから好き嫌いも分かれるかも知れませんね。
・大海人皇子=豪放磊落。日に焼けて頑丈なスポーツマンタイプ。いつも舎人たちと野山を馬で走り回っている。意外としたたかで感情もうまくコントロールできるので、謎めいた一面もある。
・中大兄皇子=頭脳明晰。隙のないタイプ。白皙の貴公子。かなりの美男子で遊び人。沈着冷静に見えるけど意外と熱血漢・直情的でわかりやすい一面もある。
こんな感じ。私の中でもこのイメージで定着してしまってるので、他の設定の作品を読んだ時に違和感を感じる事になります。
サブキャラクター=大海人皇子の舎人たちの人物像も大好き。
男依、雄君、恵尺、根麻呂…みんなキャラがあって凄い。
彼らを描いた短編集もおすすめ。(後日レビューします) -
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この作品は黒岩重吾氏が初めて古代史に取り組んだ歴史長篇である。
昭和51年(1976)より連載され、昭和54年(1979)に刊行された。
作品が発表される数年前に奈良県の明日香村で高松塚から壁画が発見され
タブー視され続けていた天皇家及び古代への感心が高まっていた時期であった。
一部の人を除き古代への感心が今一つなのは当時のことが謎に包まれて、
未だに研究者達の間でも論争が続いてはっきりしないことや、
その当時の人々の姿が思い浮かばないからであると思われる。
実際古代史好きのあたしにも、当時はどんな服装だったのか、
どんな住居でどのように暮らしていたのか、想像でしかないので
こういった古代史作品を読んで、文字と雰囲気でしか分からない。
しかし黒岩氏の作品のどこがすごいのかと言うと、
登場する人物一人一人が実に活き活きとしていて読んでいる時も
映像として想像できるところだと思う。
戦が行われた場所も、行った事も見た事もないあたしでも
その文字を追うだけで映画館で見るような迫力ある映像が頭に浮かぶのだ。
登場人物も顔の細部までは想像出来ないけれど
その時々にどんな表情をしていたかまで思い浮かべることが出来る。
一人一人がとても魅力的なので、読んでいて目頭が熱くなる。 -
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この作品は黒岩重吾氏が初めて古代史に取り組んだ歴史長篇である。
昭和51年(1976)より連載され、昭和54年(1979)に刊行された。
作品が発表される数年前に奈良県の明日香村で高松塚から壁画が発見され
タブー視され続けていた天皇家及び古代への感心が高まっていた時期であった。
一部の人を除き古代への感心が今一つなのは当時のことが謎に包まれて、
未だに研究者達の間でも論争が続いてはっきりしないことや、
その当時の人々の姿が思い浮かばないからであると思われる。
実際古代史好きのあたしにも、当時はどんな服装だったのか、
どんな住居でどのように暮らしていたのか、想像でしかないので
こういった古代史作品を読んで、文字と雰囲気でしか分からない。
しかし黒岩氏の作品のどこがすごいのかと言うと、
登場する人物一人一人が実に活き活きとしていて読んでいる時も
映像として想像できるところだと思う。
戦が行われた場所も、行った事も見た事もないあたしでも
その文字を追うだけで映画館で見るような迫力ある映像が頭に浮かぶのだ。
登場人物も顔の細部までは想像出来ないけれど
その時々にどんな表情をしていたかまで思い浮かべることが出来る。
一人一人がとても魅力的なので、読んでいて目頭が熱くなる。 -
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大化の改新よりも何十年か前、
当時の二大勢力蘇我氏(馬子)と軍事を司った物部氏の対立。
蘇我氏の血を引く豊御食炊屋姫(とよみけかしきひめ、後の推古天皇)が
敏達天皇の皇后になった時から少しづつ権力が片寄りだす。
物部氏と蘇我氏が権力争いをする様と物部氏が滅んでいく様を描く。
この前後の物語は多々あり、
そのどれもが蘇我氏の目から見たものだ。
聖徳太子もこの物部との戦いの時の偉業が伝えられていて
それを主軸とした話にするためには物部は悪役だ。
持統天皇の物語も血の根底にある『蘇我』のために
知力を尽くすのだが大元は稲目であり、馬子である。
その後に編纂された日本書紀も蘇我系の天皇が書かせたものだ。
そう思うと守屋はどうやってもいい風には書かれない。
「火怨/高橋克彦」
「吉備真備陰陽変/片桐樹童」
「石上朝臣麻呂/黒岩重吾」などで
すっかり物部ファンになってるあたしとしては面白くない。
それをこの黒岩物部が覆してくれた♪
更に物部熱が上がった模様(* ̄m ̄)プッ -
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大化の改新よりも何十年か前、
当時の二大勢力蘇我氏(馬子)と軍事を司った物部氏の対立。
蘇我氏の血を引く豊御食炊屋姫(とよみけかしきひめ、後の推古天皇)が
敏達天皇の皇后になった時から少しづつ権力が片寄りだす。
物部氏と蘇我氏が権力争いをする様と物部氏が滅んでいく様を描く。
この前後の物語は多々あり、
そのどれもが蘇我氏の目から見たものだ。
聖徳太子もこの物部との戦いの時の偉業が伝えられていて
それを主軸とした話にするためには物部は悪役だ。
持統天皇の物語も血の根底にある『蘇我』のために
知力を尽くすのだが大元は稲目であり、馬子である。
その後に編纂された日本書紀も蘇我系の天皇が書かせたものだ。
そう思うと守屋はどうやってもいい風には書かれない。
「火怨/高橋克彦」
「吉備真備陰陽変/片桐樹童」
「石上朝臣麻呂/黒岩重吾」などで
すっかり物部ファンになってるあたしとしては面白くない。
それをこの黒岩物部が覆してくれた♪
更に物部熱が上がった模様(* ̄m ̄)プッ -
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大化の改新で蘇我入鹿を倒して一躍歴史上の舞台に踊り出た中臣(藤原)鎌足の子、不比等の話である。
藤原不比等は、父・鎌足に比べると、以外と知ってる人が少ないかもしれない。
大化の改新は645年の出来事だが、不比等が歴史の表舞台に登場するのは、700年前後であり、時代も、天智・天武朝を経て持統天皇の時代である。
鎌足は、天智と天武の仲が悪くなりだした頃に死に、その後兄弟の仲は次の天皇位問題で仲が悪くなり、天武は吉野へ隠遁し、天智の死後、息子の大友皇子が位を次いだが、間もなく天武は挙兵し、壬申の乱が始まる。
物語は、この少し前の時代に遡って、不比等の少年期から始まるのだが、作者は持統朝に急に台頭し、位人臣を極めた不比等の出生の秘密などを推理して、不比等の非凡な才能や魅力、不遇の中で如何にしてのし上がっていったかを巧みに描いている。
黒岩重吾は、栄華を極めながらも滅びていかなければならない人物をよく取り上げていて、その男の滅びの美学のような感じで描かれた作品が多いのだが、今回は珍しく、どん底から身を起こし、後の藤原家の栄華の基礎を築いた人物を取り上げている。
先にも述べたが、藤原不比等の前半生は、謎に包まれている。
歴史上に初めて登場したのは、彼が31歳の時で、持統天皇の時にこの年齢で判事の役職についた事が記録されている。それ以前の記録は、一切ない。
父の鎌足は、死ぬ間際、天智天皇から大織官と言う、臣下では最も栄誉ある位を貰い、尚且つ、藤原の姓も貰った。不比等はその子だから、歴史上に登場して、位冠があがっていくのは当たり前のような感じがするが、壬申の乱で勝った天武側からしてみれば、天智の寵臣だった鎌足の子は、敵側の人間と言う事になる。
壬申の乱の時に不比等は少年だったので、彼の動向の記録はない。
作者は、作品では、中立の立場をとらせているが、戦終了後、天武から嫌悪され、学識が高く、有能であるにもかかわらず、30歳まで用いられなかったようだ。そんな不遇時代に、勉学にいそしみ、自分に力をつけ、強靭な精神力に鍛え上げ、
持統天皇に気に入られたのを機に、チャンスを最大に生かし、権謀術数を使い、徐々に階段を上り詰めていく様が、よく描かれていた。また、この時代は、律令政治への移行期でもあり、時代の変革期だった。倭国から日本国と言う呼び名に変り、時代は古代から奈良時代へと向かっている。戦の時代から政治の時代になり、新しい時代についていけない武功派はどんどん、取り残され、これまでの身分に関係なく、有能な人物が登用されていく時代でもあった。壬申の乱は関が原の不破の関だし、なんだか戦国から江戸への変化と、ちょっと似てるかも。
今回の作品では、まず不比等の出生の秘密が一つのカギになっている。鎌足の子となっているが、その出自は謎である。鎌足は、天智から彼の愛人を何人も貰い受けているので、不比等の母もその中の一人であり、既に天智の子を宿していた可能性も
高いと言う事が、作品の中で示唆されている。だから、不比等は、もしかしたら、天智天皇の子供かもしれない、そんな仮説からこの話は成り立っている。作者は、そうすれば、天武の時に不遇だった不比等が持統朝から目覚しい採り立てで出世して
いくのも頷けると解釈したようだ。持統天皇とは異母姉弟という事になる。
私にとっては、ちょっと無理があるのでは?って感じもしなくはなかった。
だが、人間臭さとか、生臭さとか、そういう雰囲気が黒岩作品にはあって、単なる歴史小説と言うよりも、人間ドラマって感じで、グッと話に引き込まれて一挙に読んでしまい、読後はそれこそ大河ドラマでも見終わったような気分になる。