今村夏子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
表題作はアヒルの『のりたま』を中心とした人々の様子が、主人公の視点から淡々と語られるお話です。
作中で一番遠くからのりたまを眺めているのが彼女なのですが、誰よりもよくのりたまを見ていたのも彼女だったかもしれません。
資格取得を目指して試験勉強中の主人公は、のりたまを構いに来る近所の小学生達が自宅の敷地内で騒いでいても、勉強の妨げになると腹を立てるようなことはありません。
自室(二階)から様子を窺うだけで子供達に直接干渉することもなく、家が賑やかになって喜ぶ両親を何も言わず静かに見守りながら、遊びに来る子供達が好きそうなお菓子をコッソリ買い足しておいたりなど、陰からそっと、さり気ないサポートをするようなタイプです。彼女の言動からは、物静かで冷静な人物像や、周りをよく見ていてるなぁという印象を受けます。
物語には特に起伏もなく平坦で、終始静かなのに何故か不気味っていう、今村さんらしいお話なのですが、動物と一緒に暮らした経験のある人に刺さるような箇所がいくつかありました。主人公がのりたまの体を丁寧に清めてあげるシーンは思わずグッときてしまいました。
もう一つ印象的だったのが、他人と家族との線引きがはっきりと描写された場面でした。誕生日会のエピソードは、その差を酷くあっさりと、情け容赦なく突き付けるもので、謎の少年が主人公の想像通りであってほしいと願わずにいられないです。
『あひる』の他に二篇の短編も収められていまして、こちらは是非、間を開けず続けて読むことをお薦めしたいです。
ふたつのお話はお互いにリンクしていて、内側から見たおばあちゃんと、外側から見たおばあちゃんの違いに注目して読むと面白いです。おばあちゃんの複雑な境遇を想うと、おばあちゃん子の私は非常に胸が痛みます……。それにしても、おばあちゃんに訪れた本当の変化点は一体どこだったんでしょう……??
そして三作品通して、作中に登場する子供たちの解像度がとにかく素晴らしいです。
小説の中でこんなにも生き生きとしたガキンチョ共を描く作家さんに出会った事がなかったので、とても新鮮で驚きました。本当に目に浮かぶようです……! -
Posted by ブクログ
ネタバレあひる、おばあちゃんの家、森の兄妹の三遍。
あひるで、お誕生日会の夜にやってきたのは、ただの
図々しい子どもだろうと思っていたら、翌朝主人公が
あひるに感謝していたので驚いた!そんな純粋な思考は生まれなかった笑 両親と子どもたちの振る舞いに
もやもやしながら読んでいた。そして兄夫婦の赤ちゃんが産まれたことで、あっけなく壊されるあひる小屋。
安心や幸せな気持ちを得る為に、何かに依存するのは
普通のことなんだけど、こうして物語として淡々と
語られると、結構怖いことをしているんだなあと思う。
おばあちゃんの家では、おばあちゃんの足腰が弱いはず
なのに、そうとは思えないエピソードが出てくる。
すぐ隣に住む、血の繋がりのない息子夫婦に何か遠慮しているの?認知症かなにかで、そのストッパーが外れて自由に振る舞えるようになった?なら良かった。
話し声やおはぎの件は、森の兄妹とのお話の繋がりで多分モリオにあげていたんだろうと真相が分かって少し安心。
森の兄妹のモリオはいじめられっ子。おばあちゃんとの
交流を戸惑いつつ楽しんでいた。でも、拾った汚い手袋でマンガを読んでいるのをお母さんに見られたことで、
(多分)全巻買ってもらうことができた。それから二度と
おばあちゃんに会いに行くことはなかった。
あひるや、おばあちゃん。人はそのとき自分に、
より必要なものを選んで、それまで依存していたものを
切り捨てる。捨てるという意識すらないかも。自分も
無意識に、いろんなものを捨てて生きているんだなあ、と怖くなった。 -
Posted by ブクログ
表紙がかわいい。3篇の短編。
「あひる」以外の2編はハッキリと連作なんだけど、「あひる」の主人公は「おばあちゃんの家」のみのりだったり、モリオも学校でのりたまの噂を聞いてたんじゃないかとか。この不穏な雰囲気で、勝手にゴチャゴチャと繋がってしまう。
「あひる」
主人公もその両親も不穏。自分達には縁がなくボンヤリ諦めていた事、でも実は喉から手が出るほど欲しくて毎日祈りさえしてた事。
それが小さなきっかけで手が届きそうになったら…なんだか身につまされてくる。だいたいだんだん暴走していくのも、両者の想いの差みたいなものも切ない。唯一弟の存在が希望のような気もしますが、この先どうなるのかな。
「おばあちゃんの家」「森の兄妹」
おばあちゃんと兄妹が出会う話が両方の視点で描かれます。
家族の誰とも血が繋がっておらず離れで暮らしているおばあちゃんの、一見穏やかに見える生活と
何かを患っている母をもつ、妹想いのいいヤツ・モリオの決して明るくはない日常。
胸をざわざわさせるトリガーがこれでもかと仕込まれています。ホントに盛り盛りでもう、お腹いっぱい!