【感想・ネタバレ】こちらあみ子のレビュー

あらすじ

あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した、第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の異才のデビュー作。書き下ろし短編「チズさん」を収録。

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今村夏子さんのデビュー作で話題の一冊。昨今注目度の高い、学習や感情面での障害についての問題提起的なものも感じつつ、自分の理解できない人間に対して「気持ち悪い」と感じてしまうことについて考えさせられる。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

今村夏子さんは、世の中の “ 普通 ” とは、ずれた人たちをただ、そのまま書く人、という印象。そこが好きです。
絶対に忘れられない小説を書く作家。

あみ子はもうまさに。少し風変わり、なんて可愛いものではない。
周りのチョコだけ舐めあげたクッキーを、好きな男の子にあげるのですよ。。クッキー食べようと思ったけどまわりのチョコ全部舐めたらお腹いっぱい→のり君が好きだからこれあげよう!…なんという完璧なあみ子理論。
のり君に告白するシーンは壮絶の極み。

あみ子にロックオンされたのり君が不憫でしょうがないし、再婚相手の子供があみ子だった母親にも同情してしまう。なのに。

なぜだか、「あみ子に傷ついてほしくない」という気持ちになる。
父親から祖母の元に厄介払いされたあみ子が、たくさんの人を忘れていて、よかった。

あみ子が坊主頭君に、自分の気持ち悪いところを教えてほしい、とまっすぐに問う場面が忘れられない。

「こちらあみ子」以外に「ピクニック」「チズさん」という短編も収録。

「ピクニック」が今村さんらしい、やばい人の周りもこれまたやばかったパターンで、一気に読みました。

今村さんの小説を読むと、人間はおもしろいけれど怖いと感じる。
普通だと信じている自分も、そうじゃないかもしれない。

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2025年11月27日

Posted by ブクログ

現在の私がこの作品と出会ったタイミング・環境があまりにもドンピシャリすぎて、この上ない没入と共鳴を体験した表題作《こちらあみ子》。
本書は3つの短編が収録された作品集であるが、もうこの《あみ子》だけで星5をつけちゃうくらいに素晴らしい読書だった。久々に夢中になりすぎて電車を乗り過ごしちゃう本でした。しかも3回。ほんとに。
ただし、その他の話《ピクニック》と《チズさん》はそこまででもなかったかな。《ピクニック》はともかくとして《チズさん》は如何とも言い難い。

そもそも《チズさん》の話、最初に通読した時はもしかして2話目に登場した〈七瀬さん〉のスピンオフ的な話かな?と思って読み返したけど「全部、私がチズさんの代わりに、英語で答えた。」(p212)というくだりから七瀬さんはそんなんじゃないな、と思い直し、ではまさか1話目の〈あみ子〉か?と思ったけどそれはないな、というところで話の意味がわからなくなってしまいハマらず。

《ピクニック》は「仲間」(p207)が裏テーマの大人の青春ストーリー風な建て付けであるが、そこはかとなく漂う「残飯」(p180、p182)の腐臭は隠しきれない。物語中のところどころに散りばめられたこの腐臭は言い換えれば「悪意」もしくは「侮り」「嘲り」ということになるのだろうか。我々はこういった腐臭の中をサバイヴしていかなければならないのだな、という真理めいたものを感じた一作。赤ちゃんを連れていた上品なお母さんが川に残飯を流すシーンは衝撃。

そして《こちらあみ子》、これがあまりにも私がいる現状に近いというか、実娘とあみ子の様子があんまりにもダブって見えることから、まるで未来日記を読んでいるかのような感覚で目が離せなかった。幼い頃は‘不思議ちゃんだな’で済ませられていた事が年々そうも言っていられなくなり、「右腕を伸ばし、その先の手のひらで父はなにも言わずにあみ子を押した。左の鎖骨のあたりをとん、もう一度同じ場所をとん、とやられたら、体はもう両親の寝室の外にあった。」(p72)という父が娘を拒絶するシーンは申し訳ないが痛いくらいに良くわかってしまった。家族だから理解出来る、乗り越えられるという事じゃないんだという事を書いて下さったのかな、などと冷静に思ったり。
あみ子は辛い中学時代を送るのだが、幸いにして理解者…というほどの大袈裟なものではないが、無視をせずに関わってくれるひと、「さてはあみ子をよく知っとるひと」(p118)が現れてくれて、どうにか一筋ばかり社会との繋がりを保つ事が出来ているのは救いではある。描写的にも、両親・兄と暮らしていた時は「青葱の植えられたプランタ」「青葱の横にはなにも植えられていないプランタ」(ともにp53)、「からの植木鉢」(p67)といった舞台装置が孤独さ・空虚さを醸していたが、親元を離れ祖母の家に移ったのちには「脇に植えられた一株のつつじが満開の白い花を咲かせている」(p9)、「坂の上の平地には小さな畑が広がっていて、季節ごとに植えられるきゅうりや三つ葉、茄子や大根など」(p10)など、他にも色とりどりの植物が描写されていてなんとなくあみ子の心の平穏や満ち足りた心情を感じ取れるように思われた。ラストは歳の離れた「友達」(p121)と呼べる存在もいて、ああよかったと思う一方、竹馬に乗ってよちよち近付いてくる友達に対しては「だいじょうぶ。あの子は当分ここへは辿り着きそうもない。」(同)と、いつかあの子が物事をわかるようになった時には離れてしまうのかもな、と薄々察するあみ子の寂しさを漂わせる。
更に、ラストシーンであみ子が「すみれの入った袋を落とした。」(同)という場面があるのだがすみれの花言葉には「小さな幸せ」という意味があるそうで、それを「落とした」というのは何の暗示なんだろうか…と不穏な気持ちになりました。

あみ子は自由で囚われない生き方をしている、と映ると共に、絶えず孤独や誹謗のなかを生きていくことになるのかな…などと、我が子の将来に想いを馳せるヘビーな読後感でした。ひねくれすぎかもしれないが。
ひとつわかることは、あみ子はいわゆる‘無敵の人’ではないので、ちゃんと傷ついていると思うよ。
それを適切に打ち明けられる・キャッチしてくれる存在が近くにいないだけで。


14刷
2025.9.20

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2025年09月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「こちらあみ子」映画版よりもあみ子の頭の中や心情がよく分かって切なくなった。引っ越した後にできた友達が映画にはいなかった存在で気になる。
「ピクニック」最初は優しい先輩たちだなと思ってしまった。虚言癖の人に付き合うのは優しさなのか悪意なのか分からなくなったが、楽しんでるのは後者だと感じる。淡々とした文章が恐ろしさを増幅していた。
「チズさん」左側に傾いてしまうチズさんというお婆さんの家に時々行って、買い物を手伝ったりしている主人公。ヘルパーさんではない。ある日チズさんの家族が家に来て、咄嗟に隠れようとするが寧ろ堂々と出て行こうかと考える主人公の一瞬の気の迷いとか、お誕生日ケーキを持ってきた自分に反応がないため床を踏み鳴らしてチズさんの気を引こうとする場面が狂気的で面白かった。チズさんの家族たちが家の中にいるにも関わらずチズさんを自分の家へこっそり連れて行こうとするところが、チズさんへの愛?執着?がみられて、今村夏子の作品に出てくる女性っぽいと思った。

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2025年08月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あみ子は、「悲しみ」「寂しさ」「怒り」などの感情があまり見られず、周りの人が当たり前のようにこなす「空気を読む」こと、「気を遣う」ことができない少女だ。発達障害だと思う。そのずれが、あみ子の意図とは関係なく、周囲との対立やすれ違いを生じさせていくところに、どうしようもない切なさを感じた。
このような子供に強い感情が生じる時、周りが押さえられないような特有の爆発性がある。心理学でも習った気がする。例えばのり君に「殺す」と言われてもなお「好きじゃ」と叫びながら伝える場面だ。「あみ子のこころは容赦なく砕けた」という文章からは、他の場面では感じられないあみ子の感情の昂りが伝わってくる。
私の周りに、特に小学生の頃、あみ子のような子供がいたら、私はあみ子に優しくできるだろうか。自信を持って「できる」と答えることができない。そしてそれが間違ったことなのかも分からない。あみ子の母親やのり君のように、あみ子の言動によって傷つく人はどうしてもいるからだ。
そして、私が小学生の頃同じクラスにいた発達障害の男の子のことを思い出した。周りからの怒りやいじめに気付かず、でも突然泣き叫んだり怒りを爆発させる。私の気持ちや態度は、やはりあみ子の周りの子供と同じだったと思う。
完読後、
「なんで誰も教えてくれんかったんじゃろう。いっつもあみ子にひみつにするね。絶対みんなひみつにするね。」
というあみ子の言葉を何度も反芻して、空虚な、埋まらない寂しさを感じた。

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2025年08月13日

Posted by ブクログ

3作どれも好きでした。ゾクゾクしながら、なんとなく不穏な雰囲気を感じながら一気に読みました。
ピクニックはタイトルこそ平和だけど、中身は全く平和じゃないよね、、途中からルミたちの見え方が変わってくる。

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2025年08月07日

Posted by ブクログ

すごくいい。
あみ子、世の中の普通じゃないところを背負ったあみ子は
堂々としていて、悲しくて、かっこいい。
痛いな、と思う、その痛さが自分に向かってきて、
あみ子になりたいというか、
自分の中にあみ子がいることに気づく。
あみ子の周りにいる人たちもそれぞれ痛くて、痛みを知っている。
とても好きな物語だった。

ピクニックの七瀬さんも痛い。
ルミたちという塊で表された一人格も痛い。
その痛みの心地よさ。
チズさんと、関係性がはっきりしないヘルパーも不思議な解放感が痛くてよかった。

いろんな感想をもったけれど、すべては町田康さんの解説に言い尽くされている。
愛のある素敵な文章。
穂村弘さんも、この小説にゾクゾクしたのだと感じた。

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2025年07月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

映画『花束みたいな恋をした』に登場する『ピクニック』が気になり、読むことにした。

短編3作。どれも核心にふれる部分は触れられずに、物語は展開していく。

「こちらあみ子」
あみ子のお義母さんは本当に生きてるのか、お兄ちゃんはどこにいるのか。夜中に怪しい物音がするが、それは一体何なのか?不穏な様子が漂う。

「ピクニック」
七瀬さんの恋人の話は本当か?

「チズさん」
私はチズさんにとってどういう存在?

今村夏子さんの別の作品も読んでみたいと思う。

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2025年05月24日

Posted by ブクログ

衝撃の作家にまた出会ってしまった。

『こちらあみ子』の周りの環境から弾かれた存在の生きづらさ。個人的な問題だけでなく、周りへの影響力まで切り込んで描いてる作品である。
この浮遊感、ファンタジーを読んでるような掴めなさがあるけどまた同時に寂しさとやるせなさを現実感を帯びて胸に迫る。
不思議な作品である。言葉では言い表せないけど中毒性がある。

『ピクニック』は、ホラーである。何が怖いってルミたちの顔と本心が見えない。話が進むにつれて、こちら側の異常さが際立ってきて恐ろしくなる。何もかも気づいているのに、分かった上で掌で転がして面白おかしく享受してしまおうという冷淡さ。同時並行の晴れやかな日常。人間の業の深さが炙り出される。

『チズさん』は一番設定が現実離れ。めちゃ短い作品。
自分の世界とは隔離された日常性の薄気味悪さがなぜか感じる。逃避しても幸せにはなれない絶望が余韻で染みる。

形容し難い作品です。でも癖になります。
癖といえばちくま文庫版の町田康の解説。いまいち何が言いたいのか分からない文体が好き。合わせておすすめ。

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2025年05月10日

購入済み

ずっとゾワゾワ

表題作「こちらあみ子」ではハッキリとした怖さ、ピクニックではなんなのかわからない違和感がずっと続く

#怖い

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2024年12月27日

ネタバレ 購入済み

小説とは

小説とは、読者に気づきを与えきっかけを作るツールなのだなと改めて気付かされた。
ただただ、現実。
誰も悪くないけれどそれが現実で痛い。
あみ子なりに感じ傷つき、忘れ、喜び、悲しみ。彼女の事は誰が1番理解をしてくれてだんだろう、と想像した。各々の関わりの深さと関係性。
家族ってそれでも家族。生きる上で色々な問題が起こるし、あなただったらどう解決する?と聞かれているような気もした。もし、自分が登場人物の母だったら、同級生だったらと想像した。
私自身、あみ子の幻聴と決めつけていて面くらい、
ただの読者としてもあみ子を信じていなかった事に気付かされた。
天晴。

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2021年02月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「こちらあみ子」
発達障害、知的障害と思われる主人公あみ子。
両親、兄、同級生ののり君はいずれも寄り添う姿勢で接しているが、あみ子の言動に振り回され、のちに離れていく。
何が起こっているか、何が問題かも分かっていないあみ子。
何がまずかったのか教えてあげれればよかったのかな。教えてあげたら、彼女は理解できたのかな?周りのキャラクターたちには、とっくに諦められてしまっている。(諦めていない同級生もいるのだ泣。あみ子は興味なさそうだけど)
彼女は一応幸せそうに暮らしているようだから、そこは救い。

いつまでも幼い子供のように純粋で素直なあみ子に憧れる、という方も多いようであるが、私はどうしても周りのキャラクターたちに肩入れしてしまう…
あの子は変わってるから仕方ない、とはいえ、チョコレートを舐めとった湿ったクッキーを食べさせられたりしたらさぁ、たまったもんじゃないよ…

「ピクニック」
七瀬さんみたいな人にどう接したら良かったのか。
ルミたちのようにするしかない気もする。
決して虐めてる訳ではない、無視する訳でもない、なんとなく優しくしながら、どこか小馬鹿にして…
この構図はどこでも見かける。

「チズさん」
私の読解力が足りず、意図が読み取れなかった。
主人公は何なんだよ。こえーよ。チズさんに何を求めてるんだ。

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2025年10月27日

Posted by ブクログ

いわゆる普通から外れた女性たちの人生を描いた短編集。良くも悪くも彼女たちの言動は周りを巻き込み、周囲の人たちの“普通”を揺さぶる。
こんなにも読み手の感じ方で印象が変わる本は初めてかもしれない。読む人の経験や価値観によって、まるで違う物語になると思う。読んだ人同士で語り合いたくなるそんな一冊。

こちらあみ子』
 おそらく何かしらの障害があると思われる主人公・あみ子の無邪気な言動は、周囲の人たちの心に鋭く突き刺さる。壊れていく家族の中で、ただ一人、純粋なままのあみ子。あみ子の目を通した世界と、客観的な視点が交互に描かれることで、人と人との微妙な距離感や、理解し合えないもどかしさが浮かび上がってくる。
『ピクニック』
 「ピクニック」という柔らかいタイトルが、物語の残酷さを際立たせている。明確な悪意のない意地悪ほど怖いものはない。そして現実にもありそうな人間関係が印象的だった。

今村夏子さんは、“普通”の枠に収まりきらない人たちを突き放さず、優しく、でも甘くは描かない。そのまなざしに人間への深い理解と温かさを感じた。

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2025年10月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

映画『花束みたいな恋をした』の作中で登場した絹ちゃんの「あの人はきっと、今村夏子の『ピクニック』を読んでも何も感じないんだろうな。」といった趣旨の、嫌味を効かせたセリフに出てきたお話が入っている本書を、五年前映画館の入っている商業施設の本屋で購入した。当時は受験期で忙しく本棚にしまわれたままになっていたが、この度読んでみることにした。
三作品が一冊となっており、まずは『こちらあみ子』。あみ子は素直で純粋な子だった。何か病名を付けることはできるだろうが端的に言うと、誰しもが心の中にかつて持っていた幼く素朴な心を小学校、中学校、そして卒業後にも変わらず持ち続けている子だ。それは、生まれ持った性質か、はたまた彼女の家庭環境が幼少期の彼女に影響を与えたのかは分からないが、彼女の純朴さからは赤ん坊の温もりを感じ、彼女に関わる人々からは大人になるにつれ気付かなくなった人の冷たさを感じた。あみ子はたしかに普通の子ではなかったが、彼女の視点に入り込むと真っ直ぐな心で物事を受け止め、感じるままにうごき、しゃべっていた。ただ、あみ子の周りの大人や同級生はもちろんあみ子を避け、煙たがり、いじめていた。そんなあみ子に対して唯一対等に接してくれていたあの男の子、小中と同級生だったがあみ子は気にもとめず名前も知らなかったあの男の子、「お前臭いぞ?風呂入っとんか?」「俺の字も綺麗じゃろう?」とあみ子のことを変なやつと思いながらも、それを個性として受け止めていた男の子。あみ子視点と三人称視点を持つ私にとって、彼の接し方はとても嬉しく、彼のような人間になりたいと思った。

次に『ピクニック』。七瀬さんとその彼氏の話。物語が進んでいくにつれ、七瀬さんは彼氏とは妄想の中で付き合っているにすぎないことが明らかになっていく。そんな彼女の話を楽しそうに聞き、否定したり馬鹿にしたりすることなく接する職場仲間たちの優しさが心に染みた。何とも不思議な話で、言語化することがかなり難しいが、とにかく情に溢れていて職場仲間たちと共に働きたいと思ってしまうほどだった。

3作目は『チズさん』。これは分からん。これから解説見てみる。

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2025年09月19日

Posted by ブクログ

今村夏子さんの本をこれですべて読んだ。いつも、不気味なのに上品にも感じるような、不思議な体験でページを巡る手が止まらない。『こちらあみ子』『ピクニック』は、これまで読んだものと比べると難しい、と思ったけれど、どちらも、普段生活しているだけなら向き合わないで済むような自分の心の一部を目の前に持ち出されるようで、ちょっと苦しくなった。けれど、それでもどこか爽やかに感じたのが印象的だった。

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2025年09月08日

Posted by ブクログ

現代なら誰かが療育児とその家族のカサンドラ症候群に気づき専門家に繋げたのかもしれない。
でも、あみ子の無垢な言動の方がよほど人間らしく見えるからこそ、異物のように周りから取りこぼされていく姿が痛ましかった。
映画も併せてオススメしたい。

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2025年09月05日

Posted by ブクログ

純粋な魂のかたちはきっとこの世界には馴染まなくて、がたごとといびつな音をたててしまうのだろう。本人はただひたすらに生きているだけ。けれどそれは人間社会という複雑な仕組みの中では異物で、どうしても弾き出されてしまう。
その在り方の悲しみが前編に満ちていて読み終えた後にずっと心の底に重い悲しみが残る。

しかし、彼女たちのような存在が隣にいたとして、受け入れることが出来るだろうか。

私にはできない。
彼ら彼女らの心が素直で純粋であればあるほど、いたたまれない気持ちになって目を背けたいと思うだろうし、実際にそうして来た。

本当は(私だって好きなことだけをしたい)
本当は(私だって好きな人とだけ話をしたい)
本当は(私だって嫌いな事を我慢したくなんて無い)
だけど、そうしなくちゃ生きていけないから、苦しいけど自分のかたちを歪めて生きているのにどうしてあんな風な生き物がいるのかって、そう思ってしまうのだ。

私たちは歪だ。
それぞれの形で歪で、その歪さをどうにか丸ながら生きている。そんな事を思った。

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2025年08月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

こちらあみ子
読み始めと読後の感情がかなり変わるお話。
読み進めるたびに不穏な空気に包まれて
ゾクゾクする感覚になる。

ピクニック
途中までは仲間同士の素敵なお話の様に見えるが、
結末に向かうにつれ印象が変わる。
こちらもゾクゾク感がすごい。

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2025年08月21日

Posted by ブクログ

3編収録された短編集。
表題作は発達障害の女の子の物語です。
映画化されたので知ってる人も多いはず。
読む人によってはあみ子に憧れを抱くようですが、私は終始辛かったです。
きちんとした支援を受ければこんなことにはならなかったのに。
どうして大人の誰もが何もしないで放っておくのだろう。
ネグレクトじゃん…って思ってしまいました。
周りがあみ子に振り回されて不幸になっていくのも悲しいです。
誰も悪くないからこそ苦しかったです。

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第26回太宰治賞&第24回三島由紀夫賞 W受賞
読む人のたましいを揺さぶる、
芥川賞作家・今村夏子の衝撃デビュー作

あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示したデビュー作。短編「ピクニック」「チズさん」を収録。
解説:町田康・穂村弘

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2025年08月11日

Posted by ブクログ

「こちらあみ子」
「ピクニック」
「チズさん」三話収録。

今村夏子に逢いたくてデビュー作を手に取る。

あみ子は発達障害の女の子。
近年ようやく発達障害という病名が認知されて来たけれど、今から14年前の2011年にこの物語を書き上げられた今村夏子さんは凄い。

あみ子の一途な愛情と、容認出来ない人達との気持ちのすれ違いがとても哀しい。

あみ子の取った行動で傷ついた人達もいる。
理解しようとか寄り添おうとか、そんな綺麗事で収まらない関係性が苦しかった。

おかしみと哀しみを混在させる稀有な作家、今村さんの新作をひたすら待っている。

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2025年07月25日

Posted by ブクログ

あみ子を異常と一言で片付けたくない。
自分の目で見て、感じたことを素直に言葉に出来る真っ直ぐな子で、家族を思う気持ちもある。
毎日を楽しく元気に過ごして、興味が湧くものにはつい熱中してしまう。
何がいけないのか、どうして自分は叱られるのか、間違っているのか。モヤモヤする、、

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2025年06月15日

Posted by ブクログ

いつも周りから酷い仕打ちを受けるあみ子。あみ子にはそれらをものともしない。それをみていると読んでいる自分が耐えられず泣いてしまった。

周りの変わっていく環境。おかあさんの子供が生まれてくることなく?亡くなってしまい精神面でかなり弱っていく様は自分にとってかなりつらく刺さった。

物語が唐突に終わるようにこれはあくまであみ子の人生の一部の切り取りでしかなく、生活はこれからも長く続いてくということを突きつけられている気がして辛くなった。

解説にあった、あみ子の一途さはそれを受け取る側の方が壊れてしまうというのは読み手側にも強く影響させていることを身をもって感じた。



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2025年05月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

⬛︎こちらあみ子
映画を観てから小説を読みました。
他の方の感想でも見かけた通り、ほとんどのセリフがそのまま映画に採用されていて読みながら想像しやすかった。あみ子は明言されていないが多くの方がそう思うようにいわゆる発達障害なのだろう。
まだ発達障害というものが浸透していないのか周りからはやっかまれたり無視されたり鼻つまみ者のあみ子。常に感じたままに自由に振る舞っている。その純粋さ故に引き起こしたことによって家族がバラバラになった。純粋さって尊いものであるというイメージがあるけどそれは純粋さに社会性や相手への気遣いがプラスでついているから。純粋って実は恐ろしさすら感じるものなのかもしれない。私には小さな子供がいますがたまに純粋さからくる残酷なセリフがあります…。
今作最初あらすじをみて『あみ子は少し風変わりな女の子〜純粋なあみ子の行動が周囲の人々を否応なしに変えていく過程〜』とあったので風変わりな女の子が活躍ほっこりハートフルストーリー⭐︎って思って映画から観たのでズガーンッと裏切られました。(良い意味で)
観た後も読んだ後もしばらく頭でぐるぐる思考が巡ります。スルメ小説、ぜひ。

⬛︎ピクニック
???精神を患ってる人の日記を読んでいるような気分。七瀬さんはイタイ過激ファンというかいわゆる嘘松なの??周りの人も脳内で生み出したイマジナリーフレンズ??新人も?と終始『?』が浮かぶ不思議な話。なんか嫌だな気持ち悪いなって気持ちになるお話でした。

⬛︎チズさん
いやチズさんと一緒にいる人だれやー!引き継ぎって書いてあったしホームヘルパー?とも思ったけど家族が来た時隠れてるし認知症っぽいチズさんを利用して暮らすならずもの的な…?それを何代かかわるがわるしてるってことなのかなと思ったり。

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2025年05月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

太宰治賞と三島由紀夫賞をW受賞した、今村夏子さんのデビュー作。

解説で町田康さんが書かれているとおり、いろいろな読み方のできる作品だと思いました。さらにいえば、その解釈の仕方によって、それぞれの人の持ち味があからさまになるのではないか。そういう、優れた試薬のような性質を隠しもっていそうな作品で、こうやって感想を書いていくと僕という人間が底の方からバレてしまうだろうなあと思われるのですが、まあ気にせず書いていきます。

僕にはそこまで降りていけていなかったようなところまで作者は降りていっていて、さらにそんな地点にいる人物と同じ目線でモノを見ている。混沌や混濁を飲みこみながら、ある種の特別な明晰さで表現しているし、巧みなギミックも用いてもいる(はじめて書いた小説がこれだなんてすごいですね)。小学生の頃、あみ子と重なり合うところのあるような気がする女の子がいた。僕は、その子を嫌だと思っていた、この小説に登場するのり君みたいに。その子の側に立ってみるなんてことは思いもよらないまま、そこの部分は凍結されて僕はオトナになっていた。それを『こちらあみ子』から知りましたねえ。

あみ子は枠からはみでた子なんですよね。枠からはみ出た子は枠からはみ出ていることには気付けない。自らはのびのびしていても、知らずしらずのうちに周囲の者たちのこころを切りつけていたり。でもそんな周囲の者たちは、ぐっと一呼吸おいたスタンスであみ子にまあるく触れる。そういう営みがあった。まあるく触れるといっても、みんな余裕があるわけじゃないですからある種のいびつさを内包したまま触れるんだけれども。

あみ子のほうはというと、たぶんタイトルの「こちらあみ子」のとおり、ほんとうに生のコミュニケーションを他者としたいとずっと思っている。ストレートにお互いのこころ同士で話をしたい、というような。中学生になって調子が悪くなっていくところは、成長して大人に近づいて、無意識にその切実さが深まったからだと僕は解釈します。

で、つづく「ピクニック」と「チズさん」を読むと、作者に対してさらにつかみどころがわからなくなりました。愛情とも悪ノリともわかちがたいような感覚が、そこにはあるように感じて、やっぱり混濁と混沌を飲みこんで書いているような気が僕にはしました。なんていうか、謎なんですよね、どっちに転ぶのかっていうのが、ちょっとこれだけではわかりません。でも、その分かちがたく溶け合っているような、そこのところがおもしろいのでしょうね。あえて未分化でやってます、みたいな感じがしました。

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2025年07月26日

Posted by ブクログ

生々しくて、リアルだったからこそ胸が痛くてズキズキ感じた
決してハッピーエンドにならない、結末までもしっかり描かれていないところがまたリアル 
現実と向き合う

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2025年10月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

こちらあみ子
あみ子のことを大切にしてくれていた人たちがあみ子自身の行動によって離れていってしまう。あみ子の親も兄も周りの人間も壊れてしまう。
あみ子はあみ子として人と接しているだけ。救いようのない絶望感、誰もあみ子の事を理解できる人はいないのかと思うと、読んでいてきついものがあった。

ピクニック
虚言癖のある七瀬さんとそれを知らない会社の同僚、虚言癖だと知っている新人の物語。
ドブの掃除をしてうまくいったらピーナッツを投げるシーンが水族館のイルカショーとかを連想できてしまって、気味が悪かった。
何も知らないことは罪になるなと思った。

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2025年09月28日

Posted by ブクログ

どう評価すれば良いか。芥川賞に近いような重いようで、もっと軽いタッチで現代のやるせなさを描いているようだ。難しい。主人公は素直に物事を見る性格でそれをそのまま伝え、その言動が周囲から浮いている女の子。義理の母をその素直さから傷つけて、でもそれが分かっていなくて、だからといって女の子が悪いともいいきれず、もし母親がそれを受け止める懐の大きさがあればハッピーエンドになったのかもしれない。でも母親の気持ちも分かるし、やはり主人公の振る舞いには、周囲を不幸に陥れる悪があったのかもしれない。とかく分かりやすいのが、食パンの白い部分だけ、ゼリーの果肉だけ食べて残りを人にあげる、残すというわがままさ。それを家族は受け入れるがあるとき、チョコクッキーのチョコだけ舐められて残りのクッキーだけ食べさせられていた知人は大激怒。それでも主人公はめげない。。。あまり共感ができないため星3つ。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

切ないとかの感情は湧かない。
どうしょうもない感じをどうしょうもないと実感させられる感じで、読んでいて楽しくない。

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2025年09月15日

Posted by ブクログ

なんで一生懸命生きてるだけのあみ子が嫌われるんだろうって思った。理由は分かるけど、それをあみ子が理解できてないのが苦しい。自分も悪意なく相手を傷つけてるかもしれないから気をつける。映画も見てみたいな。

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2025年07月04日

Posted by ブクログ

「こちらあみ子」
あみ子という名前がぴったり。
あみ子は全く悪くない、けど、あみ子以外にならないんだよなぁ。ブレない。それがこの世の中にはうまくハマらないんだろうな…。
あみ子の同級生の男の子はあみ子のこと好きだったのかな?

「ピクニック」
今回の三編の中で一番好きかも。七瀬さんがどぶさらいしているときに残飯を捨てるおかあさんがゾワゾワする。今村夏子っぽい。

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2025年06月20日

Posted by ブクログ

あみ子は不思議な子だった。子供のような純粋さを常に持っていた。何を考えているのかわからなかったが、あみ子のすることに納得してしまう自分もいた。
父や母、兄やクラスメイトの方が自分と近い人間であることはよくわかった。
あみ子はずれていたので、周りと衝突し不幸な目にあっていた。しかし、なぜか嫌な気持ちにならなかった。あみ子の視点で描写される不幸はいつもの日常のように過ぎていく。あみ子自身も深く落ち込む様子がなく、あっけからんとしている。
あみ子という変わった人間を味わっているような感覚があった。

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2025年06月18日

Posted by ブクログ

「『好きじゃ』『殺す』と言ったのり君と、ほぼ同時だった。『好きじゃ』『殺す』のり君がもう一度言った。『好きじゃ』『殺す』『のり君好きじゃ』『殺す』は全然だめだった。どこにも命中しなかった。破壊力を持つのはあみ子の言葉だけだった。あみ子の言葉がのり君をうち、同じようにあみ子の言葉だけがあみ子をうった。好きじゃ、と叫ぶ度に、あみ子のこころは容赦なく砕けた。好きじゃ、好きじゃ、好きじゃすきじゃす、のり君が目玉を真っ赤に煮えたぎらせながら、こぶしで顔面を殴ってくれたとき、あみ子はようやく一息つく思いだった」

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2025年06月13日

Posted by ブクログ

こちらあみ子、読んでいて苦しくなった。
ピクニック、途中までルミたちの悪意に気付かず読んでいて、気付いた時ゾッとした。怖い。
チズさん、主人公が不審者すぎる。
3編とも不思議な怖さや不穏さが良かった。(3.5)

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2025年05月19日

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