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Posted by ブクログ
自分がいつ死ぬか知らないから、わたしたちは人生を、尽きせぬ泉であると思ってしまう。しかし、物事は無限回起きるわけではない。ごくわずかな回数しか起きないのが実際だ。子供のころのある午後をあと何回、思い起こすであろうか?それがなければ自分の人生がどうなっていたかわからないほどふかいところで、いまある自分の一部になっているそんな午後であってさえ、たぶん、あと4回か5回だろう。いや、もっと少ないかもしれない。満月がのぼるのを見ることは、あと何回あるだろうか?たぶん、20回か。そして、それなのに、無限回あるかのように思っている。
…坂本さんが音楽を担当した1990年の映画『シェルタリング・スカイ』(ベルナルド・ベルトルッチ監督)の最後に登場した原作者のポール・ボウルズが、モロッコの場末のカフェにまよいこんだ主人公のキットを演じたデブラ・ウィンガーに、「迷子になったのかね?」とたずね、「イエス」とこたえたかの女に、原作となった1949年の同名の小説中にある上記の部分を、棒読みするように語ったのだという。
この本の中には、こういうすごいセリフがあるかと思えば、坂本さんはその母に厳しく育てられたんだという村上龍の言葉もある。
本当にこの人は物理的には70数年の人生だろうけれど、一体何人分の人生を生きたのだろうと思うほど、この本に中心的に書かれている、8年余りの時間は濃密で刺激的で、語り口は淡々としているけれど実はヒリヒリするような2800日余の日々だったんだろうな…合掌。
Posted by ブクログ
音楽家 坂本龍一の自伝。2009年の自伝「音楽を自由にする」以降の活動を口述筆記したもの。
若い頃は、気力体力に自信があって、健康も問題なく活動していた彼が、2014年に最初の癌に犯され、その後寛解して復帰したものの、2021年に転移再発して2023年3月に亡くなってしまう。前回の自伝上梓後の音楽活動とこれまでの節目となった出来事、地震や原発反対活動及び自身のルーツ、癌との闘病生活など、これまで語られてこなかったエピソードや思想を綴る。
テレビで見る彼の姿は、いつもすごく冷静で頭脳明晰な芸術家のイメージがあったけれど、実際は熱い心の持ち主だったようだ。様々な出来事に対する喜怒哀楽の感情が文章から伝わってくる。2011年の東日本大震災以降は政治的な活動も行ったようだが、これは怒りの感情が原動力になっている。また感情が高ぶってよく号泣することもあったようで、それは自分にとっては意外だった。自身の作品、演奏や共演した人達に対する彼の本音も語られていて、とても興味深かった。素晴らしい作品を発表し、良い友人知人や出会いもあって、自分にとっては羨ましくなるような充実した人生に見えるけれど、本人には道半ばでやり残したことも多かったのだろう。ただ仕事一途で人生を全うできたことは、幸せだったかもしれない。日本の偉大な作曲家の一人だったと思う。
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