作品一覧
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4.2王に名を消し去られた風、部族ひとつを溺れさせる砂の海、泳ぐ人々が壁一面に描かれた泉の洞窟――妖しくも美しい情景が、男の記憶には眠っていた。砂漠に墜落し燃え上がる飛行機から生き延びた彼は、顔も名前も失い、かつて野戦病院だった屋敷で暮らす。世界からとり残されたこの場所に、一人で男を看護する女性、両手の親指を失った泥棒、爆弾処理班の工兵と、戦争の癒えぬ傷を抱えた人人が留まり、男の物語に耳を傾ける。それぞれの哀しみは過去と現在を行き来し、記憶と交わりながら、豊饒な小説世界を展開していく。英国最高の文学賞、ブッカー賞五十年の歴史の頂点に輝く長編。/解説=石川美南
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4.21巻1,430円 (税込)デビュー前の若き日々から現在にいたるまでの問題意識、思い出の中の日本について、そして現代社会の諸問題にどう立ち向かっていくか。日系イギリス人作家カズオ・イシグロのノーベル賞受賞記念公演を書籍化。原文と土屋政雄による日本語訳を収録した対訳版!
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4.0
ユーザーレビュー
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Posted by ブクログ
イギリスの執事として、自身の持つ美学に忠実に職務を遂行してきた。時代の変化によって価値観が変わり、過去の選択を悔やんだり、自分が信じていたものが誤りだったのではないかと悔恨する。
それでも最後には新しい価値観のもと前向きに生きていこうとする。
印象に残った場面
◯邸宅で民主主義に関する議論が交わされている場面
国際問題のような複雑で重大な問題について、知識も十分でない国民が決定を下そうとする、それが民主主義なんだ。それが正しいことでそれが国民の品格というべきものなのか。国民は静かな日々の暮らしを望んでいる。目の前の生活で精一杯なのに、世の中の問題を全て理解し意見を持たねばならないのか?それが -
Posted by ブクログ
カズオ・イシグロ作品は読んでる時より読み終わった後に残るものが大きい。
アンドロイドと人間の世界を描いた『電気羊』などは「人間の目線」で語られていた。
この作品はクララという「アンドロイドの目線」で物語が進む。
「人間目線」と「アンドロイド目線」でこんなにも感じるものが違うとは…。
この物語に出てくる人間は、アンドロイドを完全に「モノ」だと考えている。
対してクララは誰に対しても深い愛情を持っている。それは人間以上に感じた。
自分は小さい頃からいつも一緒だった犬のぬいぐるみを今でも大切にしている。
喋れないぬいぐるみでも大切な存在なのに、どうしてクララのような子を「モノ」扱いできるのか -
Posted by ブクログ
『わたしを離さないで』と同様にずっと心に残る本だった。
これから更に歳を取って子供達が自立した後に、旅先でゆっくり再読したい。
執事が旅に出て人生を振り返る。
仕事に忠実過ぎる、仕事以外には不器用過ぎる主人公。『コンビニ人間』を思い出す。
特別大きな事件が起きることもないし、ミステリーもSF要素もゼロ。
それなのに不思議と話に惹き込まれる。翻訳も素晴らしくてとても読みやすい。
ページをめくるとイギリスのノスタルジックな世界に没入できる。
歳を取った今だから共感する部分が多かった。何の悩みもない若い時に読んでもこの本の良さはわからなかったと思う。
本を閉じた後にじわじわくる読後感の良さにし