ミネット・ウォルターズのレビュー一覧
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実に5年ぶりのお目見えとなる作品。値段の割に邦訳が遅いのが気になる。この作家を思い出すのに、以下の前作『悪魔の羽』についての我がレビューを少し振り返りたい。
(以下前作レビュー)
中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。
事件そのものは『遮断地区』でも特に強く感じられるのだが、時代性と社会性を背景にした骨太のものながら、庶民的な個の感情をベースに人間ド -
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ネタバレ2002年、シエラレオネで5人の女性が殺害され犯人も逮捕されたが、ロイター通信社の記者コニーはイギリス人のマッケンジーを疑っていた。
マッケンジーは女性に対して非常に暴力的な男だった。
コニーはシエラレオネを立ち去るが、去り際、マッケンジーに脅迫めいた言葉を告げられる。
そして2年後、バグダッドでマッケンジーと出会ったコニーは拉致監禁されてしまう。
3日後、一見無傷で解放されたコニーは、その間にあった事を黙して語らない。
コニーの狂言だったのではないかという見方も出る中で、コニーは行方を晦ます。
コニーがマッケンジーから逃れるように身を潜めたのはイギリスのとある谷あいの村だった。
そこでコニー -
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本作では、人生における危機や悲劇を乗り越えた人たちの「その後」を心理的に解き明かしていく。
冒頭、英国系ジンバブエ人の主人公がアフリカで取材中に拉致され、3日後に解放される。普通のミステリーならそれだけで1冊終わってしまいそうだが、本書ではこれは、言うならば起承転結の「起」だ。
しかも、ここから端を発する事件は「転」が足早にやってくる。ところがこのシーンを迎えてもまだ、物語はどんどん続いていく。
そう、だって、それが人生だからだ。大きな危機を乗り越えて命は救われた、めでたしめでたし、で終わるなんて、現実は許さない。
一人称によって語られる物語だが、なにせこの「わたし」が信用ならない語り手なので -
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中編集『養鶏場の殺人・火口箱』を読んでから、少しこの作家への見方がぼくの方で変わった。≪新ミステリの女王≫と誰が呼んでいるのか知らないが、この女流作家はミステリの女王という王道をゆく作家ではなく、むしろ多彩な変化球で打者ならぬ読者を幻惑してくるタイプの語り部であるように思う。
事件そのものは『遮断地区』特に強く感じられるのだが、時代性と社会性を背景にした骨太のものながら、庶民的な個の感情をベースに人間ドラマをひねり出し、心理の深層を描くことにおいて特に叙述力に秀でた作家なのだと思う。
本書はミネット・ウォルターズとしては最もページ数を費やした大作長篇であるのだが、種火は西アフリカ、シ -
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ネタバレイギリスの地方の街で起こった少女の失踪事件を追うミステリーとその事件を受けてパニックに陥る別の街を描いた融合的小説。
ベースとしては小児性愛者への偏見がテーマとして有、ミステリーサイドは王道的に小児性愛を利用する犯人を追及していく。
一方の街の事件は、そのテーマが前面に押し出され、パニック状態へ加速していく様、暴動を鎮めようとする主人公たちの善行、最後に失ったものの大きさと残ったものの大きさが見事に描かれている。
特に群像劇的に始まったアシッド・ロウの話は、思わぬ登場人物が主人公的に浮かび上がってきて、普段の行動とは異なる行動により人たるもののあり方を訴えているように思いました。
ページ数は -
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二つの風変わりな中編作品を収録した新ミステリの女王ミネット・ウォルターズの初の中編集である。序文は作者本人によるもので、そこで証されていることにより、ぼくは「風変わりな」と称したのである。
『火口箱』は1999年、オランダでのブック・ウィーク期間中、普段ミステリを読まない読書家を誘い込むために無償配布された掌編だそうである。
『養鶏場の殺人』は2006年イギリスのワールドブックデイにクイックリード計画の一環として刊行されたとある。普段本を読まない人に平易な言葉で書かれた読みやすい本として提供されたものであるらしい。
どちらも読書促進運動という目的をもって書かれた珍しい作品であり、