ミネット・ウォルターズのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレイギリスの地方の街で起こった少女の失踪事件を追うミステリーとその事件を受けてパニックに陥る別の街を描いた融合的小説。
ベースとしては小児性愛者への偏見がテーマとして有、ミステリーサイドは王道的に小児性愛を利用する犯人を追及していく。
一方の街の事件は、そのテーマが前面に押し出され、パニック状態へ加速していく様、暴動を鎮めようとする主人公たちの善行、最後に失ったものの大きさと残ったものの大きさが見事に描かれている。
特に群像劇的に始まったアシッド・ロウの話は、思わぬ登場人物が主人公的に浮かび上がってきて、普段の行動とは異なる行動により人たるもののあり方を訴えているように思いました。
ページ数は結構ありますが、一気読みしてしまいました。 -
Posted by ブクログ
二つの風変わりな中編作品を収録した新ミステリの女王ミネット・ウォルターズの初の中編集である。序文は作者本人によるもので、そこで証されていることにより、ぼくは「風変わりな」と称したのである。
『火口箱』は1999年、オランダでのブック・ウィーク期間中、普段ミステリを読まない読書家を誘い込むために無償配布された掌編だそうである。
『養鶏場の殺人』は2006年イギリスのワールドブックデイにクイックリード計画の一環として刊行されたとある。普段本を読まない人に平易な言葉で書かれた読みやすい本として提供されたものであるらしい。
どちらも読書促進運動という目的をもって書かれた珍しい作品であり、そういえばミネット・ウォルターズはこれまで長篇以外は邦訳されていないので、こういうウォルターズはどうなのかと興味津々でページを開いた次第。
さて『養鶏場の殺人』は、二人の男女の悲劇であるが、どちらが被害者か加害者かわからないほどの悲惨な関係が、養鶏場経営という悲惨な生活を背景に描かれることで、事件の背景にある真実を曝け出したものである。1924年という古い時代に実際に起きた事件のノベライズであるのだが、ウォルターズの筆力が、「読みやすいように平易な文章で書かれている」ゆえにこそ、際立って見える。
どうして四年後にこの人がこの人を切り刻むことになるのかという、事件のあからさまな紹介から遡っての年月を追っての物語だけに、読む側の追い込まれ感がたまらない。そしてその皮肉な結末への雪崩れ込み方が、まさしくウォルターズ流なのである。
『火口箱』はミステリーでありながら、やはりジャンル外読者向けのサービスに満ちており、とりわけアイリッシュの一家に襲いかかるソウアーブリッジ村という偏見に満ちた小さなコミュニティーの見えない恐ろしさが圧巻である。どこがミステリーなのかわからないうちに、導かれてゆくところに意外な真相が潜んでおり、なるほど、ミステリーとはこういうものでもあるのかと感じさせるようなサービス精神にあふれた書きっぷりである。もちろんこちらも筆力の素晴らしさが見えるウォルターズらしい作品。
二作ともいつもの長篇の重厚感から解き放たれていながら、コンパクトにむしろ密度の高まるクライム小説となっている。中編の一気読みの快感を味わうには手頃な一冊と言えよう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ中編のミステリー2編を収録。
「養鶏場の殺人」はミステリーというよりはホラーっぽい感じだろうか。
若い男女、人生にも恋愛にもあまりにも未熟なのに互いに「恋愛」を意識しあうも、理想や意思がかみ合わず、若すぎるゆえに相手に思いが伝わらない、相手を思いやることもできず、最後にはあまりにも悲しい結末が待ち受ける。。。
実際に起こった事件を小説化されたようです。二人の悩みや気持ちを真摯に聞いてくれる家族や友達が周りにいればこんな事件は起きなかったかもしれない。
それに、女の子の結婚への焦りや家族からのプレッシャーは万国共通なんだなぁ。。。そういう面ではエルシーに少し同情を感じてしまった。彼女のあまりにも強烈すぎるが純情な心がとてもやるせない。
「火口箱」は、ある小さな田舎の村での殺人事件。差別や偏見でがんじがらめになっている住民たちの思い込みや誤解が生んでしまった悲劇。
証言者と警官の会話の場面、火事の場面、ご近所同士の言い争いの場面など、過去や現在が飛び時系列がごっちゃに描かれているため、前半は頭が混乱してしまったが、後半部分は意外な展開に一気読みだった。
両方の作品とも直訳っぽく、淡々と抑揚なく文章が綴られている感じ。しかしその文体が、この両作品で起きた事件の悲しさと孤独と怒りを表現してくれていると思った。 -
Posted by ブクログ
英国ミステリの女王ミネット・ウォルターズの新刊。
趣向のある中編2本です。
面白く読めました。
「養鶏場の殺人」は実話をもとにした作品。
クイック・リードという企画で、本をあまり読みつけていない人にも楽しんでもらえるような作品として書かれたもの。
1924年に実際に起きた殺人事件で、裁判で主張がわかれ、あのコナン・ドイルが疑義を申し立てたこともあるという。
エルシーという女性がノーマンという年下の若者に教会で出会い、声をかける。
親しくなった二人だが、ノーマンが失職、二人の将来には暗雲がたれこめる。
エルシーの性格にもかなり問題があったのだが‥
実名のままに経緯を手さばきよく描き、鬼気迫るシーンへ。真相も推理しています。
はたして、何が真実だったのか‥?
「火口箱」のほうは、ブック・ウィークにオランダで無償配布された作品。
読書好きの人に、普段は読まない分野のものを読んでもらう狙いだそう。
とある住宅街で老婦人と看護師が殺され、出入りしていた無職の男性パトリックが逮捕された。
その後、パトリックの両親は、村の誰かから嫌がらせを受け続ける。
相談された女性シヴォーンは、見兼ねて警察に出向くが、取り合ってもらえない。
パトリック一家はアイルランド系で貧しく、村の美観を乱すようなガラクタを庭に放置し、イングランド人のひんしゅくを買っていた。
シヴォーンはアイルランド出身の女性だが裕福で、もしアイルランドにいるままだったら一家とは縁がないような関係。
一筋縄ではいかない登場人物に、村に渦巻く偏見と誤解が、どう絡み合っていくか。
緊張が高まっていくあたりはちょっと「遮断地区」を思わせます。
感じのいい女性シヴォーンの善意と意志が貫かれるのは、いかにもウォルターズらしい。
でも彼女にもすべてが見通せているわけではないんですね。
意外な展開を楽しめます!
初めてウォルターズを読むのにも良いかもしれません。 -
Posted by ブクログ
<新ミステリーの女王>としては、何ともミステリーらしからぬ作品を書いたものだ。それもいい意味で。
タイトルのとおり、本書は暴徒に遮断された地区とそこで起きた真実について描かれた作品である。舞台は、最下層の人々の住むバシンデール団地、通称アシッド・ロウ。道路は扇形の外周を回るが、隣地とは壁によって隔てられ、一旦中に入り込むと、外界との交点は非常に少なく、そこが暴徒に制圧されると警察さえも踏み込むことができなくなる厄介な地形である。
暴動が主題となるのだが、暴動の原因は、小児性愛者の父子が他の団地で犯罪を犯し転入してきたという風評。そう、あくまで風評である。風評の原因となった機密事項の暴露者は福祉系の巡回保健師。件の父子の転出元の団地では、あろうことに少女失踪事件が判明しニュース報道でも大きく報じられていた。風評はさらに事実を超えて肥大していった。
暴徒の構成は、残念ながら最下層に住む不良がかった少年たち。幼年たちを含む。そして扇動者は、ヤクでいかれたおよそ一名のサディスト青年。それでも暴徒と化した群衆の圧力は凄まじい。死者11名を出した明石の花火大会歩道橋事故を思い出すといいだろう。その圧力を逃すために家の中を通り抜けて外側に出てゆける人々の流れを作らねばならない。
この種の物語は言わば群衆小説となるのだが、主人公らしき存在がいる。小児性愛者父子の家に知らず踏み入れ監禁されてしまった女性医師ソフィー。小児性愛者の情報をもたらされ、デモを行うことを呼びかけ、暴動のきっかけを作ってしまったことを悔やむゲイナとメラニーの母娘。メラニーの恋人でムショ帰り、更生を誓って八面六臂の活躍を見せるジミー。彼らが思い通りに動けず、暴徒に囲まれ、警察は役に立たず、コントロールを失った現場で動き戦う様子を活写しているのが、本書、なのである。
それと同時に、別の場所、別の団地で、風評の原因となった少女失踪事件についてが、主たるテーマとほぼ同量の扱いで描かれる。複雑に絡み合った事件の真相を執念で追い続ける刑事タイラーの容赦ない捜査が心地よいが、隠蔽しようとする離婚した弁護士の父、そのクライアントで小児性愛者の疑いのある企業家、自立し切れずに混乱する母親と、失踪少女を取り巻く環境は、まるで情念と欲望の坩堝である。こうした環境のもたらす悪徳、といったところを両方の事件を通して、作者は描きたかったのかもしれない。
例によって翻訳の遅い出版社なので、不幸にもこの作者の作品が日本にお目見えするのが相前後するばかりか、非常に年数がかかっている。当時の英国が抱えた真実なのか、今も解決されぬ普遍的な環境悪であるのか、そのあたりの判断がし難いあたり、海外ミステリに手を伸ばそうとせず、こうした重厚な物語の紹介時期を逸してきた出版各社の、まさにこのことこそが環境悪と言いたくなる部分であるのだが……。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久々のミネット・ウォルターズ。安定感があるなあ。解説をみると、すでに読んだ『囁く谺』と『蛇の形』の間に発表された作品らしい。どうして邦訳が遅れたのかは、謎。さらに、『病める狐』と『蛇の形』の間に発表されたAcid Rowという未邦訳も。そして、2003〜2007年までに3作。その後は…ないのか??
地味だけど人間味のある、好感が持てる警官たちと、被害者・被疑者たちの様々な鬱屈、アンバランスな人間性の対比がくっきり。
所々に出てくる、シンプルだけど含蓄のある言い回し、文章にはっとさせられた。奇をてらわず、勢いだけもなく、地に足の着いた、そういう文章がぐっとくる。