雛倉さりえのレビュー一覧
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以下ネタバレ含みます。
天才的な画家だった母を、記憶にない事故とはいえ、自分が殺してしまったことを苛む柑。
慎ましく、求めない暮らしを続ける中で、彼は母の絵が飾られている与那国島の美術館を訪れようと決意する。
そこに付いてきたのが、甥の伊吹だった。
二人と一つの人形の旅を読んでいると、巡礼の旅という言葉を思い出した。
目的地は決まっているのだけれど、そこに辿り着くまでに、自分の手触りを何度も確認し続ける柑。
そして、そんな柑の側で、彼にガイダンスし続ける伊吹の存在が面白い。
きっと、ミミズクは伊吹だったんだろうな。
取り返しのつかない罪を、背負ってしまえば、誰かが下ろしてくれる -
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十代の、恋愛とも呼べないような性の熱。あの頃特有の渇き、脆さ。友達には話せない、ひっそりと心のうちに秘めた激情。大人になると忘れてしまう感覚を、鮮やかによみがえらせてくれる作品。
短編『ジェリー・フィッシュ』を読み終えたあとの、胸を掻きむしられるようなせつなさを、この『もう二度と食べることのない果実の味を』の読後感でも味わいました。まさに、もう二度と触れられないあの頃の感情の純度に、泣きたくなる。
主人公の女子中学生・冴は受験生。成績は学年2位、毎日決められたことをやり、正しい道を進もうと心がけている。
成績1位は同じクラスの土屋くんで、彼は何かにすがるように勉学に励んでいる。
理科準備室の -
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装丁に惹かれて本屋で衝動買いした。
自我が芽生える前の出来事によって、罪の意識とともに生きてきた主人公。
幼き日の自身は自分であり、他人でもある。記憶がないからこそ向き合いきれなかった過去から、前に進むために旅をする話だ。
旅の中で出会う人々は、そんな彼を導くガイドのような役割を果たす。共に歩く甥っ子伊吹は年齢に似合わずどこか達観している。まるで主人公とは真逆だ。気丈に振る舞う伊吹にも彼なりの痛みがあり、「こうしたいではなく、どうしたら良いのか」を基準に判断する姿勢においては2人に共通していると感じた。
誰ひとりとして、望んでここにいる者はいない。
生はまさに、拒むことの出来ない不条理 -
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【日常の中にいる、クララとドロッセルマイヤー】
ミュージカル、2.5次元、バレエ、ストレート・プレイ……様々な舞台を題材に描かれた5編が収録された短編集である。
ただ、「華やかで遠く感じる『舞台』というその空間は、自分という役を生き、誰かの人生に思いを馳せる私たちにとって、意外に身近な場所なのかもしれません。」という扉に書いてある触れ込みって、読んでみたら結局、3編目の白尾悠「おかえり牛魔王」だけの話なんとちゃうのん?と感じた。
毎日定時で退社する、社内の人付き合いも忖度もへったくれもない後輩の派遣社員、桐ヶ谷を探るうちにその演劇の指導者しての並々ならぬ実力に触れ、自らも演劇に助けられた -
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舞台をテーマにした5作の短編。
舞台を見る人なら、いろいろとわかる!と思うことあって楽しく読めると思う。
『ここにいるぼくら』
2.5次元舞台に出演することになった主人公。しかし、その役はシリーズもので、彼はいわゆるキャス変だった。
いやー、2.5のキャス変は私も経験あるからわかるなー。(見る側だよ、もちろん)演者側からの立場として読んでて面白かった。
『宝石さがし』
バレリーナと衣装デザイナーの話。
舞台の衣装って、いろいろなことを考えて作られているのと同時に、演者にとってはその役になるために、舞台に立つ上ですごく大切なんだなって感じた。2人の関係性がとても素敵だった。
『おかえり牛魔 -
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久々に文学を味わった気分。
臨時校舎──少女たちは戦火を逃れるため、疎開のようなかたちでそこに集められている。生活に不自由はないが、外の世界からは隔絶され、恋人とも会えない。
「あなたたちは幸せで、恵まれているのだと、まずは自覚してください」
「この状況下にもかかわらず、静かな安全地帯で、何不自由なく学びに打ち込むことができるなんて、通常なら考えられないことです」
やがて、生徒たちのあいだに「森をひらく」という遊びが流行り始める。むせ返るような、青々とした森。文字通りの森。自分だけの空間に、彼女たちは思い思いの森をひらく。森は大人たちには認識できない。
現実の私たちは、戦禍に見舞われてはい