あらすじ
15歳、一生忘れられない人に出会った。
『ふたりを誰よりも深くむすびあわせ、同時に破滅をもたらしたもの。
それが、セックスだった。』
17歳で「女による女のためのR-18文学賞」で鮮烈なデビューを飾った雛倉さりえ。あれから6年たった今、満を持して刊行する衝撃作。
高校受験のために勉強に励む冴は、学年で2位を誇り、クラスの中で近寄りがたいと浮いた存在。ある日、クラスの女子に掃除当番を押しつけられた冴は、学年トップの土屋くんと教室で二人きりに。受験のストレス、クラスで浮いた存在、姉へのコンプレックス、様々な鬱屈が絡み合い、好きでもない、ただそこにいただけの土屋くんにキスをしてしまう。二人は、その後、学校や家の人に隠れて逢瀬を重ね、危険な遊びへ身を投じていく。二人に切なすぎる結末が待ち受ける。
刊行前から話題騒然。3月よりデジタル少女漫画誌「&フラワー」でコミカライズ連載開始。4月よりCanCam.jpでも大型試し読みを予定。装幀写真は今、話題沸騰の写真家、岩倉しおり氏。(2019年4月発表作品)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
十代の、恋愛とも呼べないような性の熱。あの頃特有の渇き、脆さ。友達には話せない、ひっそりと心のうちに秘めた激情。大人になると忘れてしまう感覚を、鮮やかによみがえらせてくれる作品。
短編『ジェリー・フィッシュ』を読み終えたあとの、胸を掻きむしられるようなせつなさを、この『もう二度と食べることのない果実の味を』の読後感でも味わいました。まさに、もう二度と触れられないあの頃の感情の純度に、泣きたくなる。
主人公の女子中学生・冴は受験生。成績は学年2位、毎日決められたことをやり、正しい道を進もうと心がけている。
成績1位は同じクラスの土屋くんで、彼は何かにすがるように勉学に励んでいる。
理科準備室の掃除当番で二人きりになった冴と土屋。偶然の事故をきっかけに、二人は体をあわせるようになる。
妊娠の危険があるからと土屋くんがコンドームを買い求める場面から、これが伏線となるんだろうと読めたけど、そのわりにはページ数が薄めなのでどうなるのかなと思っていたら、あぁそうなるのか……ときれいなまとめ方に感心しました(結局どうなったのかという点は直接的には書かれていないので、生理や妊娠に関する知識が薄い人にはピンとこないかもしれないけど)。エンタメを求めるなら、もっとストーリー展開があってもいいのかもしれないけど、この世界観にはこの展開がグッときました。
土屋くんの心のうちは直接表現されていなかったけど、彼視点から深めた物語も読んでみたいとも思えるような、余韻の残る終わり方。
雛倉さりえさんの作品を読むのは、『ジェリー・フィッシュ』『ジゼルの叫び』に続いて三作目ですが、わかりやすさや共感のしやすさでいえば本作が一番でした(だからこそコミック化もされたのでしょうが)。そういえば他の二作は連作短編集ですね。短編は複数視点から読める楽しみがあるけど、やっぱり中編や長編が良いですね。深く潜れるので。
体をテーマにしているだけあって、理科準備室の臓器模型の描写が美しかったです。
Posted by ブクログ
中学三年生、多感なあの時期。
繊細な感情の波、
家族や友人との関係、その中にある自分の位置。
随分前に通り過ぎた年齢なのに
読んでいると心がその頃に引き戻されて
胸がキュッとなります。
苦しい、でもない…甘くもない。
ただ、締め付けられる気持ち。
懐かしさを感じました。
私はすごく引き込まれました。
感情が静かに揺さぶられる、そんな本。
Posted by ブクログ
綺麗に終わった恋、醜く終わった恋、蒸発するように消えた恋。どんな別れも、もう味わうことはできない。
届かない代わりに消えない、あの日常。
渇き、熱を帯びた疼き、崩れゆく脆さ。
薄昏く、消えそうに儚く、そして、ほわほわと光っている物語でした。
とっても好み。
時が経ち、この渇きを忘れた頃に、もう一度読もうかな。
Posted by ブクログ
雛倉 さりえさん、初読み。
「女による女のためのR-18文学賞」を機にデビューされた1995年生まれの作家さん。
本作の主人公は高校受験を控えた15歳の冴。
成績こそ学年2位でありながら、心の中には姉や友人へのコンプレックス、両親への承認欲求を隠している。
受験勉強だけの満たされない毎日の、救いであり逃げ道となったのは好きでもない男子との性行為だった。
共感は出来ないけれど、思春期に感じる鬱屈とした思いや、15歳と言う年齢ならではの性への好奇心、頭で考えるより先に行動を起こしてしまう勢いを文中から熱く激しく感じた。
Posted by ブクログ
人間が持つ欲望とそれが満たされる快感にひょんなことから中学生で気づいてしまった。性行為って改めて何だろうと思う。愛の表現でもあり、快楽を満たす行為でもある。動物としての役割としては、子孫を残すための行為なのに、なぜここまでの衝動が呼び起こされるのだろう。
Posted by ブクログ
うん。すごかった。
本の中の世界は、青色でも緑色でもないような
グレーが少し混ざったようなドブのような色。
一度入ると抜け出せない世界。
一気に読んでしまわないと
自分のこの現実の世界にもそのドブ色が
侵食してきそうな感じがして、
一気に読み進めました。
大人でもない、かといって子供でもないあの時期だからこそ、先のことも考えず、行動してしまうことはあるし、自分の周りのあらゆることをあまりにも深く考えてしまう。私も10年ほどまえの学生時代を思い出してしまいました。
ほんの世界にどっぷり浸れるような作品でした。
Posted by ブクログ
主人公が
キスとセックスにのめり込んでいく過程も
そこから何事もなかったかのように
日常へ戻っていく過程も。
そうして劣等感に苛まれていた姉への
鬱屈した思いの瓦解も。
まるで昭和のよう。
そうして目新しさのない予定調和。
要するに最後まで驚きはなかった。
ただし。作者の文章力は本物だと思う。
物語の発想をもっと柔軟に飛躍させてほしい。
主人公の挫折が第1志望校に不合格になる程度では
小説としては平坦にすぎる。
思いっきりのどん底か
奇想天外な輝かしい未来か。
そのどちらかに帰結してほしかった。
そのどちらでもないところが 旧弊に縛られ
日本社会の「常識」から抜け出せぬまま人生を送る
昭和の人たちを思わせるのだ。