高木彬光のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
第一部では、第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台にナチスドイツとユダヤの人々と日本人のかけ引きが巧みに描かれていた。この第二部は本作品が発表された同時代である昭和四十年代の東京が舞台。第一部の登場人物達の子にあたる人々が次々と登場し、そうか第一部とこういうふうにリンクするのか、と読み進み、いかにも探偵小説な結末にたどりついたあと、「エピローグ」(pp428-443)を読んでひっくり返るという構成。正直いって第一部よりはかなりスケール小さくなった話だなあと感じたので、瀬戸川猛資の「ワーグナーも可哀そうだ」(p447)という酷評には大笑いしながら同意してしまいそうになるのだが、それは、高木があまりにもワーグナーを下敷きとして使いすぎたゆえの解釈な気がする。この作品の真価はそこではなく、メタフィクションであることを露わにする「エピローグ」にあるのだろう。
-
Posted by ブクログ
高木彬光のことは、学生時代に読んだ山田風太郎のエッセイで名前だけ知っていたが、著作を手に取るのは今回が初めて。この第一部は、第二次世界大戦中、皇室がスイス銀行に預けた秘密財産の管理を任されヨーロッパに滞在していた海軍少将・鈴木高徳の手記という形をとっている。スケールの大きな伝奇ロマンだけれど推理の要素はないかなあと思いながら読んでいたら、水島直樹という外務省一等書記官が殺され、これはいわゆる密室殺人ではないか? と日本とロシアの混血児という設定の山戸小太郎が語りはじめたあたりで、お? と思い、ナチスの面々がその地金を出しはじめてからはぐいぐいと物語に引き込まれた。プロローグで宣言されているように鈴木が拳銃自殺して第一部は終わり、スピンオフ短篇「日本人とユダヤ人」が巻末に付され、本篇の登場人物でもある満州国公使館の駐在武官・波切詮蔵大佐のその後が明らかにされる。第二部のオビに太田忠司が書いている惹句によると、続けて第二部を読むと「(前略)世界がガラガラと崩れる音(後略)」がするそうなので、それを楽しみに読み継ごうと思う。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ古い作品で、題材も「刺青」ということだが、背景がしっかりしていて物語に引き込まれる。
読者への挑戦状の前に、きちんと謎を整理してくれるワトソン役がいて感謝。
神津恭介は遅れてやってくるタイプの探偵(イケメン)で、早く出てこないかな~と期待しながら読む手が止まらなかった。
文体は江戸川乱歩調で、読んでも聞いてもすんなり入ってくる(解説の、著者シンデレラストーリーにも江戸川乱歩が登場しており、どおりでな~!と納得)。
謎解きの方も洗練されており、トリックや動機にも納得。わたしは犯人はわかったけれど密室トリックやその他の細かい謎はわからなかった。でもそれでも十分に楽しめた。 -
Posted by ブクログ
この作品を読んで、私は昭和30年代までの時代背景の重みと、法廷という場が持つ物語性に強く引き込まれました。
「戦前・戦中・戦後の時代背景が分からなくてものめり込める裁判小説」でした。
法廷の中で飛び交う言葉、証言、そして黙して語る過去の影。読み進めるうちに、「この被告は何を背負っているのか」「弁護士は何を賭けているのか」という問いが、私自身の内側に湧いてきました。
私は途中で自然に“推理”していました。
誰が本当に被告を助けたいのか、誰が真実から目をそらしているのか。
弁護側の百谷泉一郎の姿勢には、熱さと冷静さが同居していて、彼の推論や絡む人間関係に唸らされました。
一方で、被告村田の背景や戦時・戦後の影響が断片的に示されるたび、「ああ、法廷というのは単に罪を裁くだけではなく、社会を映している」という感覚が強まりました。
ただ、ひとつだけ私的に気になったのは、法廷劇として「証拠の見せ方」や「論理の飛躍」が若干演劇的・演出的に感じられた点です。
とはいえ、それがこの作品の魅力でもあります。
法廷ミステリーとして、読者を一気に引き込む構造になっています。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ推理小説のなかでも「読者への挑戦」に特化した犯人当てアンソロジー。今後シリーズ化されるようなので楽しみが増えた。
【◯看破 △引き分け ×お手上げ】
×高木彬光「妖婦の宿」
名作とは聞いていたが自分にはピンとこなかった
気づかない伏線があったのかな
〇坂口安吾「投手(ピッチャー)殺人事件」
イージー
△土屋隆夫「民主主義殺人事件」
冒頭の横読みは気づいたが犯人を間違えた
×江戸川乱歩「文学クイズ「探偵小説」」
穴埋め問題。昔に流行ったらしいが目新しさがあった
〇飛鳥高「車中の人」
イージー
×佐野洋「土曜日に死んだ女」
部屋に、足が引っかかるほどのガス管が?
×菊村到「追悼パーティー」
動機の弱さも仕込みもしっくりこなかった
思惑通りに行っていたら、すぐに犯人は特定されそうだけど
×山村正夫「高原荘事件」
脚本仕立てのミステリーは面白いが内容が頭に入ってこなかった
〇陳舜臣「新・黄色い部屋」
ベリーイージー
×笹沢左保「愚かなる殺人者」
まずまず
著者名を見ても分かる通り、全体的に時代を感じさせるものが多かったので内容的には星3つ。
令和時代に犯人当てアンソロジーという趣旨には星4つ。 -
Posted by ブクログ
「前の二人の女の殺害は、竜田弁護士の犯罪だと見るのがいちばん妥当だろう。最初は痴情、そして次には、女の口から自分の秘密がばれそうになったので、恐怖のあまりにと考えれば理解できないこともない。もちろん、ほかに犯人がおり、ほかの動機で殺人をやったと考えられないでもないが、いままで捜査本部が努力しても、ほかの線は考えられなかったんだ」
「あなたは完全に、彼にだまされていたのです。いや、われわれもつい最近まではだまされていたのですが、僕の推定に間違いがなければ、彼は第一、第二の殺人に対しても真犯人だったでしょう。本間春江、鹿内桂子、この二人の女を手にかけたのも、彼のしたことだったでしょうね」
「慎一郎氏から、ふさ子との結婚の話を持ちだされて、竜田弁護士はいちおう念のために、相手の身元調査を、所もあろうに、東京秘密探偵社に依頼したのですね
東大在学中に司法試験に合格し、エリート検事の道を邁進する霧島三郎。しかし、婚約者・恭子との結婚を間近に控え、彼女の父親が突然の失踪。のみならずヘロイン所持、殺人の嫌疑までかけられる……。瞬く間に危機的状況に追い込まれた三郎は、愛を貫くため、辞職覚悟で独自捜査に乗り出す! 苦悩しながらも奮闘する若き検事の姿を、スリリングに描き出す傑作ミステリー! -
Posted by ブクログ
「貴様が新製品の秘密をねらっているスパイだ――と、僕に密告したものがいる。僕はまさかと思った。学生時代にあれほど親しかった友人が、こんなことで、計画的に、僕を裏切るとは信じられなかった……しかも、金のことは言いたくないが、その面でも、君は僕に対して、いささかの恩義は感じていいはずだ……その恩を仇で返すような男だとは、まさか思っていなかったがね」
不況で会社をくびになった瀬川は、かつての恋人からセールスマンの仕事を紹介された。ところが、営業成績が思うにまかせぬある日、化学会社を産業スパイせよと命じられる。なんとか潜入に成功したが、自分を手引きした男が絞殺されて容疑は瀬川に……。 資本主義社会の水面下の暗闘に、霧島三郎の鋭いメスが入る! -
Posted by ブクログ
名探偵神津恭介デビュー作「刺青殺人事件」。なんとも懐かしく素晴らしい。先日横溝正史読んだら読みたくなったのだ。占い師に小説家に向いていると言われて初めて書いた作品を江戸川乱歩に送り、乱歩に絶賛されて出版された高木彬光の処女作。
内容はこんな感じ。刺青彫りの名人彫安の娘、背中に大蛇の刺青が彫られた野村絹枝。彼女のもとを訪ねた元軍医の松下研三は鍵のかかった浴室で、胴体のない絹枝の死体を見つける。胴体のないバラバラ密室殺人の謎を神津恭介が解き明かす!という内容です。
古き良き時代の本格探偵小説の典型といいますか。ワトソン役の松下研三は南方帰りの元軍医で、後に執筆活動も務める、まさにワトソンと同じ。お兄さんが警視庁捜査一課長だから何かと動きやすい大食いで、躁鬱症持ち。神津恭介は松下の一高の先輩で、東大で法医学を研究する何でもできるクールな天才肌。でもホームズのような嫌らしさのないカッコいい男なのだ。
さらに捜査一課長の松下の兄は、若くして一課長を勤める優秀な刑事だが、ここでは神津の引立て役に徹する。絹枝には常太郎という兄と珠枝という双子の妹がいて、それぞれ蛙と蛞蝓が背中に蠢く。さらに刺青の入った人皮をコレクションする刺青研究家の早川教授など、おかしな登場人物たちが脇を固め、謎が謎を呼ぶ。
刺青という怪しげな世界を描きながら、華やかな密室を用意しながら密室以外の複数のトリックを絡めて構成される。80年くらい前の有名な作品ですから読んでいてある程度想像はつくのだけれど、世界観やプロット、登場人物の配置の仕方、さらには読者への挑戦状、そして謎解き。往年の本格派ど真ん中で楽しめました。
-
Posted by ブクログ
急性肝炎にかかってふたたび入院を余儀なくされた神津恭介。またしても退屈を持てあました恭介は、今回は邪馬台国の所在に挑む。『成吉思汗の秘密』に続く歴史推理の第二弾。
本書のゴールは「邪馬台国はどこにあったか」というシンプルなもので、無理のない文献解釈と自然地理学的観点からの推理を中心に、「中学生にもわかるような明快簡潔な答え」を導き出す。
また推理するにあたって、
①『魏志・倭人伝』に改定を加えないこと
②原文の地名や国名を現在の地名と勝手に結びつけないこと
を前提としているのが特徴的。
専門的な知識は持ちあわせていないが、従来の研究において「南」を「東」に置きかえたり、古代中国語の音訳による地名・国名を現代日本語の現在の地名と結びつけることには違和感を覚えるので、個人的には上記二項はとても気持ちがいい。
ちなみに、本書は初版におけるミスを修正した改稿版。(初版では、春分・秋分の日に太陽は真東から昇ってこないとし、魏使の考えた東西南北は現在のとはずれているとした説が採用されていた)