あらすじ
殺人と死体遺棄の疑いで起訴された男・村田和彦。そして、彼の容疑を晴らすべく、検察と対峙する弁護士・百谷泉一郎。最初から最後まで法廷一場面のみ。数日間の公判で繰り広げられる、息詰まる論戦。そして「破戒裁判」が示すものは何か。果たして百谷は被告人を救えるのか? 著者が「もっとも気魄を込めた」と自認し、法廷推理の先駆けとなった歴史的傑作。
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Posted by ブクログ
この作品を読んで、私は昭和30年代までの時代背景の重みと、法廷という場が持つ物語性に強く引き込まれました。
「戦前・戦中・戦後の時代背景が分からなくてものめり込める裁判小説」でした。
法廷の中で飛び交う言葉、証言、そして黙して語る過去の影。読み進めるうちに、「この被告は何を背負っているのか」「弁護士は何を賭けているのか」という問いが、私自身の内側に湧いてきました。
私は途中で自然に“推理”していました。
誰が本当に被告を助けたいのか、誰が真実から目をそらしているのか。
弁護側の百谷泉一郎の姿勢には、熱さと冷静さが同居していて、彼の推論や絡む人間関係に唸らされました。
一方で、被告村田の背景や戦時・戦後の影響が断片的に示されるたび、「ああ、法廷というのは単に罪を裁くだけではなく、社会を映している」という感覚が強まりました。
ただ、ひとつだけ私的に気になったのは、法廷劇として「証拠の見せ方」や「論理の飛躍」が若干演劇的・演出的に感じられた点です。
とはいえ、それがこの作品の魅力でもあります。
法廷ミステリーとして、読者を一気に引き込む構造になっています。