宮下奈都のレビュー一覧
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ネタバレ宮下奈都、初体験。
言葉の魔術師と呼びたいくらい、巧みな言葉遣いに驚きです。
例えば、
夫の病気で東京から夫の田舎に家族で引っ越すことが決まった時、梨々子が餞別でもらった10年日記に「いまいましいこと、この上なし。かすり」と書いた時の描写。
『それ以上の説明をつけなかった。後で、例えば1年後の今日、2年後の今日、この欄を読み返した時に、自分がどんな気持ちでいたかなんて容易に思い出されては困る。ライバル心というのだろうか。未来の自分に見栄を張っている。今、自分が泣くに泣けない乾いた場所にいることを1年後の自分に思い出されたくない。私はいつも上手にきれいに私を生きている。そう思いたかったし、半分くらいはそう信じてもいる。そうではなかったのだと後になってわかるような痕跡をここに留めるのは嫌だった。でも、まったく楽しいと書けばあまりにも嘘くさすぎて逆に白々しいのではないか。考えた末、かすり、とひとことだけ残すことにした。』(P37)
また、こんな文章。
『写真館にあった見本の家族写真はまるでホラーだった。あの写真には10年後のわが家が写っていたのではないのか。太って生気がなく服にも頓着しなくなった夫、思春期に入った長男の不機嫌そうな表情、頑固に眉を顰めたままの次男、そして二の腕に脂肪がついてぺたんこの靴を履き、それでも作り笑いをしている自分。』(P42)
引っ越し先で挨拶した時、笑わないお隣さんにあった時の描写。
『どうして私は笑わない人が苦手なんだろう。初めて会った時に笑顔を見せてくれなかった人とはダメだ、と梨々子は思う。でも、本当はうっすらと見えているのだ、目にしたくない答が。誰だって私に対しては笑顔で接してくれるべきだという、根拠のない自信。なぜなら、私は頑張っているからであり、可愛がられる価値のある人間であり、大切にされるべきだからなのだ。およそ非常識でナルシシスティックな理由だった。』(P47)
さらに、お隣さんから病院ボランティアのお誘いを受けた時の会話。
『「主役やりたい人は家にいたらつらいやろ」結構痛烈なことをさらりと言う。主役をやりたい人、か。そんなふうに見えていたのか。いや、当たっていたかもしれない。でも、もう降りたのだ。いつも主役でいたかった梨々子はもういない。しょせん脇役なのだとわきまえたのではなく、舞台から飛び降りてしまった様な気がしていた。』(P184)
さらにさらに。
『自由なはずの東京で縛られて、田舎にいる自分が少しずつ解放されていくのが梨々子には意外だった。多くを望み、期待するから、がんじがらめになるのかもしれない。今の私には何もないから、こんなにゆるく漂っていられるのだろう。誰にも期待したくない。私にも期待してほしくない。それが自由なのかと言われれば答に詰まるが、梨々子はもう降りたかった。』(P214)
尚、タイトルの「田舎の紳士服店のモデルの妻」は、モデルの妻(妻がモデル)ではなく、紳士服店のモデルをやっているのは夫で、その妻という意味です、って誰も間違わないか…
【宮下 奈都(1967年- )は日本の小説家。福井県福井市生まれ。福井県立高志高等学校卒業。上智大学文学部哲学科卒業。
経歴:
2004年、長男、次男に次ぐ、3人目の長女を妊娠中に執筆した「静かな雨」で第98回文學界新人賞佳作を受賞し、小説家デビュー。2010年、『よろこびの歌』で第26回坪田譲治文学賞の候補となる。2012年、『誰かが足りない』で第9回本屋大賞で第7位を受賞する。2013年より1年間、北海道新得町に家族5人で山村留学を経験。2016年、『羊と鋼の森』で第154回直木三十五賞候補、第13回本屋大賞受賞。
幼い頃に読んだ本の中で佐藤さとる『だれも知らない小さな国』を特に気に入っていた。】(ウィキペディア) -
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初めて読んだのは恐らく3〜4年前で、その当時はその時の悩みがあったと思うけど何だったのか、この本を読んで何か得られたものがあったのかはとんと思い出せない。
今年初め、あまりにも急に、理由も何もわからないまま音信不通になり離れてしまった人がいた。人見知りで交友関係の多くない私にとってとても大切で、これからもこの関係が長く続いたらいいなと思う人だった。向うからすればそうではなかったのか、嫌いになったのか、のっぴきならない事情があったのか。真相はわからないまま時間だけが過ぎて、失恋というわけではないし、そういう人だったんだと思えば今までならここまで引きずることは無かったはずなのに、未だに思い出しては心を抉ってくる。忘れよう、強くなろう、と意気込む程、どこかでそのリバウンドが来て、自己嫌悪と人間不信に繰り返し苛まれる。
そんな時にふと、この本を読み返したくなった。同じ状況というわけではないけど、主人公の心情的に重なるところが多く、所々で涙を流してしまった。自分軸で生きているつもりだったのに、いつの間にか相手本位になり、自分軸を失っていたのかもしれない。私を取り戻すためのリストを、形作るための豆を、まだまだ探している途中なのかもしれない。それらはもう既にそこにあるのに、まだまだ気付けていないだけなのかもしれない。
読み終えてこの気持ちがスッキリしたとか、解決したとか、そんな簡単なことではないし、いい歳してこんな事で悩んでるなんて、とも思うけど、今まで選んできたことが全て私の一部になっているということ、「毎日のごはんが、生活が、私を助ける」ということに気付かされた気がした。読み直して良かったと思える1冊だった。 -
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とても美しかった
音の描写が特にきめ細やかで、森の壮大さと孤独さを感じ取れる程に鮮明に景色が浮かび上がってくるようだった
森で育った外村がピアノと出会い、美しさを知り善い音に出会っていくことは自然な流れで
最初から私達の中にあったんだと思わずにはいられなかった
外村はとても真面目で愚直だと思う
才があるかどうかではなく、今はそれを判断できる段階では無いのだからとコツコツ日々努力を続けていた
好きな物に出会うって凄いことだな
調律という森に出会ってしまったから、もう山には帰れない
好きへの探求に覚悟を感じたし、格好よくてそれもまた美しかった
私は今好きなことを仕事にしたくて頑張っているというのに挫折してばかりで、その上才能がないとばかりボヤいている
あきらめないこと
どんなに苦しかろうが目の前の問題と向き合い続けること
その過程で
喜ぶお客さんの顔や演者の姿があり
最短距離で進まず悩み続けてきた過程があるからこその
寄り添いが出来るから
決して無駄にならずに、
その時間はどこかで音になって広がっていくんだろう
135ページが個人的強烈で
私も もっと音にひたむきでありたいと思った
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以前読んだことがある作品ですが、内容を忘れかけていたので、今回あらためて再読しました。登場人物もそれほど多くなく、物語に入りやすかったため、とても読みやすかったです。
主人公の青年が調律師という仕事と出会い、悩みながらも成長していく物語ですが、とにかく文章が美しい作品だと感じました。音楽や自然、心が揺れ動く感情の繊細な部分まで、とても丁寧で美しい言葉で描かれています。調律という仕事を通して、音や音楽の世界を想像させる表現も印象に残りました。
10代から20代前半くらいの人が読んだら、特に心に響く作品なのではないかと思います。自分の進む道を探している年代だからこそ、主人公が一つの仕事と出会い、向き合いながら成長していく姿に、より共感できるのではないかと感じました。 -
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読み始めてすぐ、「ああ、これはストレンジ・アイの小説だ」と思った。ストレンジ・アイは、とある漫画で使われていた表現で、つまりは普通の人が見ることのできないものを見る能力がある人のこと。主人公の外村くんは、スーパー調律師である板鳥さんがピアノを調律する姿を見て、その音に森を想い、森を見た。普通の人が「ああ、ピアノの音だな」と思うところを、外村くんはまったく違うものを見たのだ。もうそれだけで、外村くんに「この子は尋常じゃない」と感じた。ストレンジ・アイという才能を持つ主人公が、一歩一歩、目指す何かを掴もうとする姿。それを、ことばにして見せてくれたものなのだ。なんかもう、すごい世界なのだ。
それにしても、「音」ということばには言い表しにくいものを、なんとか我々にも伝えようとしてくれる作者の真摯さというか、ひたむきさが嬉しかった。そして、幼い頃、一度だけ見た調律師さんの背中を思い出した。ついぞピアノと仲良くなれなかった私は、今さらながら、親と調律師さんに謝りたい気持ちでいっぱいになった。 -
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十勝・大雪山国立公園にあるトムラウシに夫の一言で一年限定で移住することになった宮下さん5人家族の話。トムラウシをカムイミンタラ(アイヌの言葉で、神々の遊ぶ庭)と形容するところから本のタイトルは来ている。p12
日記形式。福井から移住。
<面白いところ>
北海道の山行きを他人事のように語っているところ
育ち盛りの3人の子どものいうことなすこと(中三・中一・小四)
子どもたちを突き放して冷静に見ているところ
行事で、子どものように木にのぼってはしゃぐ校長先生
コミュニティに積極的に入ろうとするけれど、小さいのでその必要はなかったりする
当事者視点だったり、第三者の視点で痛快に語っていたりする
5月 p69「本州ではすでに真夏日もあったらしい。ここ、トムラウシの昼間の気温は三度」
p102 「心臓、お疲れさま。ゆっくり休んでね。嘘だけどね。休まれちゃ困るんだけどね」
8月p128「甲子園をやっているんだが、窓の外ではウグイスが鳴いている。強烈な違和感。気温は十七度」
ご家族の会話をしている様子が思い浮かび、ほっこりする
書店にご自身の本が置いてある。。。うれしいね!
なつさんのツッコミ
末っ子の長女のユーモア
<どんな本?>
一緒に子どもの成長を見守っているような感覚になる
一緒にトムラウシに住んでいるかのような感覚になる
<共感するところ>
p43 キタキツネとエゾシカの排泄物の匂いの違いについて「わかるようになった自分を想像するとちょっと楽しい。ふふん」
<キーワード>
家族 移住 田舎 動物(エゾクロテン p40)子育て なつさんパニック障害 学校 山村留学