加藤周一のレビュー一覧

  • 羊の歌 わが回想

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    この書物は、帝国主義、世界大戦など困難な時代を背景に、旧制高校や帝国大学などで学びながら、教師、友人や家族とのつながりのなかで、また医師という自らの職業の実践を通して、時代に流されることなく「人の生命こそもっとも重いもの」との考えを育み、反戦を訴えてきた筆者の大叙事詩である。

    筆者は、能や歌舞伎など、日本の伝統芸能にも若いころから親しんでいるが、とくに灯火管制の敷かれた1941年12月8日の新橋演舞場で、まったく観客がいない中で自身が観客として体験した文楽の場面など興味深いエピソードがたくさんあった。

    ショパンの音楽とのかかわりも興味深い。ロマン主義の中でもショパンの音楽は独特な位置を占め

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    2017年04月08日
  • 日本文学史序説 (下)

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    下巻も500ページ以上で読み応えがあった。読み終えるまで日にちがかかったが、著者も書き終えるまで7年余りをかけているので、じっくり時間をかけて読まないと著者に失礼だろう。下巻は江戸時代の町人社会から生まれた文人から始まる。富永仲基、安藤昌益への考察から始まり、江戸時代から明治時代への流れを経る。戦後の記述は少ない。著者が同時代人であり、客観性が保てないのと、先が見えないからである。著書に一貫して流れているのは、長い歴史の中で基本は変わらず、主に周囲との関係、昔は中国、今は欧米との関係で、積み重なってきた部分はあるが、それを取り込むわが国の雑種文化を文学史として述べられているものと理解した。

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    2015年12月25日
  • 日本文学史序説 (上)

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    上巻だけで550ページの大作。17条の憲法から始まり、古事記、日本書紀、と万葉の時代から元禄までの著者が考える文学の歴史書。当時の時代背景や政治状況との関連から、それぞれの文献を読み解き、同時代の西洋の文献との比較。一般的な文学だけでなく、仏教や儒教までも含めたその文学的意義まで語る。その博識に感嘆しながら、それを論理的にまとめ上げた著作。読み上げるには努力が必要であるが、論理的まとまりがよいので意外と読みやすい。

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    2015年12月10日
  • 続 羊の歌 わが回想

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    下巻では、太平洋戦争の終結から、三年にわたるフランスへの留学を経て、日本に帰国するまでが語られています。

    京都にひとりの女性をのこしてヨーロッパに留学した著者は、フランスで華々しく活躍する芸術家や詩人たちとの交流を通じて、あたらしく精神の洗礼を受けます。やがて帰国を決意したとき、著者はもはや、京都の女性と生活をともにすることはできないと悟っていました。

    やや私小説的な展開があり、また著者のヨーロッパ体験についての叙述も読みごたえがあって、たのしめました。福沢諭吉の『福翁自伝』にはおよばないかもしれませんが、我が国の自伝文学の傑作のひとつに数え入れられるのではないでしょうか。

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    2025年05月23日
  • 日本文化における時間と空間

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    「今=ここ」という考えは境地のものという印象だが、この本では真逆の視点が得られる。つまり、日本の典型的な考え方であり、必然的に至る考えであるという道筋。

    部分と全体という視点も面白い。建て増し・部分の自己完結性が日本の特徴。

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    2014年09月29日
  • 文学とは何か

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    何も心弾む真夏に好んでこんなタイトルの本を読まなくてもいいようなもんですが、まあ、行きがかり上読むことになったわけです。
    洋の東西を問わず古代から中世、そして現代までの文学書を渉猟して、まあ、加藤先生はホントあきれるくらい博識です。
    その理路も時に複雑に入り組んで難解で、そもそも文学の素養のない私はついていくのがやっとでした(なら、なんで読むねん)。
    しかし、でも、私は次の行に最も心を惹かれました。
    「文学とは、一ぱいのマドレーヌの味にふくまれる無限の意味について語るものです。しかし、またわれわれの生涯を決定する重大な瞬間について、もっとも深い意味でのいかに生くべきかという問題について語るもの

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    2014年08月14日
  • 海の沈黙・星への歩み

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    何度も読み返した記憶があります。
    レジスタンス文学は今や時代遅れかもしれません。
    しかし哀しさ、切なさが静かな音楽のように流れるこの小説、今でも読む価値は十分あると思います。

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    2014年02月08日
  • 羊の歌 わが回想

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    平均的日本人の自伝というが、特殊だと思うが・・・。しかし普通のことを学び続けたことは一般的知識人とも言える。

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    2013年06月12日
  • 日本人とは何か

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    「知識人と戦争」から読むと、理解しやすい。日本人の知識人は、なぜ戦争反対を貫けなかったか。それは、日本人にとって、思想が超越的なものではなかったためでもある。また、知識人にとっても、思想がエリートサークル内の人間関係や、「生活」の論理を超えることができなかった。

    鎌倉仏教を考えると、日本人にとって超越的な思想がなかったとは言い過ぎだと思うが、著者の指摘は戦争を知らない私にとっても非常に重い。

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    2013年03月17日
  • 日本文学史序説 (下)

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    下巻は江戸の町人文学(開国直前の)、蘭学や朱子学から戦後の小説や批評(大江健三郎まで)。
    歴史の流れの中で人々の心がどのような本(大衆小説:吉川英治、中里介山、大仏次郎、菊池寛、司馬遼太郎など)に寄り添っていたか、文学の中では何が起こっていたかなどが記されている。

    浩瀚な作品なので概要をまとめたり感想を書いたりするのがなかなかしんどいんですが、マルクス主義がある種日本文学の文体の重要な一部を作った(中野重治)というあたりの箇所と太宰治の「人間失格」は実は共産党員失格という意味であるという読み方はとても興味深い。三島に関してはまぁ今まで私が描いていた三島像と変わらなかった。

    横光はめたくそに

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    2012年05月14日
  • 日本文化における時間と空間

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    ネタバレ

    日本文化の特質を時間と空間の二軸から「今 = ここ」の強調と捉えて論じています。「今 = ここ」は、部分が全体に先行するものの見方、すなわち眼前の、私が今居る場所への集中することであり、それは大勢順応主義と共同集団主義へと向かう傾向が強くなることを導き出しています。日本人の宗教観・文学・建築・絵画など様々な分野を例証として説明している箇所は納得できるところが多いです。最終章で「今 = ここ」からの脱出について書いていますが、文字通り「今 = ここ」という時空間からの脱出について述べるのに留まっていたのが残念でした。日本文化の特質としての「今 = ここ」から、心理的に脱却するためにはどういうこと

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    2012年05月07日
  • 羊の歌 わが回想

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    裕福な家に生まれた幼年期から、太平洋戦争終了の青年期までの回想録。

    すんなり面白く読めたけど、
    思い返して心に残ったのは、ほんの少しだけ触れられているお芝居を見たという記述。
    とても鮮烈な印象を受けました。

    それ以外は、うーん。
    読んでいて、楽しかったのだけれど。

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    2012年04月08日
  • 日本文学史序説 (上)

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    「十七条憲法」に始まり、「日本書紀」がなぜ「古事記」からそう時を置かずに書かれたのか、各地の風土記に書かれている神話的な物語(浦嶋子など)に見られる情についてなど。
    上巻は日本で始めて町人風俗をリアリズムで描いた井原西鶴と、新井白石に終わる。

    儒教的価値観を得た作品は物語としての射程距離(というか物語そのものの可能性)を大きく伸ばした(「うつほ物語」「落窪物語」「源氏物語」のあたり)とか、今まで個々の作品しか観察してこなかった私にとってはなかなかスリリングで興味深い本だ。

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    2012年03月22日
  • 羊の歌 わが回想

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    さすが、読み応えありです。第二次大戦前後の日本の様子、この方だから書ける視点があり、面白かったです。ただちょっと漢字等の表記が古く、読みにくいかな。

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    2012年03月21日
  • 海の沈黙・星への歩み

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    ネタバレ

    フランスとドイツという二国間にあるものは複雑で、日本人にはおいそれと理解出来ないものだと思うけれど、これを読むとその末端には触れられる気がする。

    抵抗文学、というにはあまりに繊細で切ない。

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    2011年12月22日
  • 日本文学史序説 (上)

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    日本の土着思想は、現世での恋愛が中心で、政治哲学や彼岸(来世やあの世)についてはあまり関心がない。大陸から仏教や儒教を輸入しても土着思想に変容させてしまったほど根強いものである。

    上巻は万葉集から元禄まで。仏教や儒教の思想は難しく理解できなかったが、文学史を通じて日本史を捉えなおすことができた。
    序章である、「日本文学の特徴について」の部分だけでも読む価値があると思う。

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    2011年01月22日
  • 羊の歌 わが回想

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    『日本文学史序説』を執筆したり、大百科事典の編集長を務めたりした知の巨人の回想録。

    多くの知識人の自叙伝などを読んで思うことは、幼い頃から本に囲まれて育ち、
    世界との距離という意識が根付いていることである。僕は小さい頃はあまり
    本を読まなかったから、自分に決定的に損なわれているそのような感覚に
    絶望しながらこの本を読んだが、一つだけ嬉しかったのは加藤が僕と同じ夢
    を見ていたことである。

    それは幼い頃に病床に伏す度に何度も見た夢の話であり、巨大な車輪に押しつぶされる
    というものであった。僕も小さな頃から現在に至るまで(最も幼い頃のように
    熱狂的に熱病に心酔することもないのだが)同じような夢を

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    2009年10月07日
  • 日本文学史序説 (上)

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    文庫ですが分厚い。手首の力つきそうです。こんな分厚くて、しかも2冊組なのに「序」説って、何事…。
    上巻は古事記・万葉集の頃から江戸時代まで。「下」がまるっと近現代なのかな。下巻はまだ読んでいません。
    平安以降の和歌についての、自然や心情への描写が様式美化しているという評価(そんな言い方ではなかったけど)は、私の場合はそこまで高尚な視点ではなかったのですが、私も「内輪向けのことば遊び」だと思う部分があったので、すごくしっくりきました。

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    2009年10月10日
  • 二〇世紀の自画像

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    どうも、こういう本は苦手なようだ。
    テーマは戦後思想史ってか文学史って感じなんだけど。
    言ってることがわかるようなわからないようなもやもやした感じ。
    もう一回読んだらまた何か感じるかもしれないけど

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    2009年10月04日
  • 羊の歌 わが回想

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    遠くはないけど近くもない、厳しい時代を生きた人々に思いを馳せた。

    「私にとっての焼け跡は、東京の嘘とごまかし、時代錯誤と誇大妄想が焼き払われたあとでもあった」

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    2024年09月29日