あらすじ
日本人の心の奥底、固有の土着的世界観とはどのようなものか、それは、外部の思想的挑戦に対していかに反応し、そして変質していったのか。従来の狭い文学概念を離れ、小説や詩歌はもとより、思想・宗教・歴史・農民一揆の檄文にいたるまでを“文学”として視野に収め、壮大なスケールのもとに日本人の精神活動のダイナミズムをとらえた、卓抜な日本文化・思想史。いまや、英・仏・独・伊・韓・中・ルーマニアなどの各国語に翻訳され、日本研究のバイブルとなっている世界的名著。◆上巻は、古事記・万葉の時代から、今昔物語・能・狂言を経て、江戸期の徂徠や俳諧まで。
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Posted by ブクログ
2008年12月5日、加藤周一氏死去。
この日、日本の知性は、その頭分だけ低くなった。
20年ほど前、生涯ベスト本を3冊あげたとしたら、と考えたことがあった。この本は、その一冊であって、今も考えは変えていない。
基準は何か。
気づきは数多く、表現が素晴らしいということは前提である。
今年、数多くのリスペクト作家の忌み日レビューをした。その人たちは、間違いなく私の人生に影響を与えた人たちだったけど、
一冊の本が、自分の信条に決定的に影響を与えたということで、この本のインパクトは絶大だった。
そういうことが20歳の夏に起きたのである。
論理は明晰。氏の論理展開が、どれほどわたしの文章の中に息づいているか。或いは、届かないでいるか。
同時に、古今東西の文学的教養が瞬時に氏の脳髄の中で交差し止揚されて出てくる妙義。教養は孔子の『論語』から、邦画『緋牡丹博徒』に及ぶ。
「理」と「情」のみではない。
悲の人、倫理の人として、一貫して日本の平和を願った。友だち2人が戦争に赴き戦死し、或いは人間が変わったという。氏によれば、自分と同等の知性を持っていた学生だったという。氏と友人の未来を別ったものは偶然でしかなかった。氏は戦争を憎んだ。何をして日本人は2つの大戦を許したのか。その文化的背景は何か。西欧に留学した氏はそこから日本を観察して「雑種文化」たる日本を発見する。
元に核のような日本文化があったわけではなく、日本人は外国文化の雑種ではある。けれども、無秩序に他国の文化を取り入れたわけではない。
彼岸と此岸で言えば此岸、永遠と刹那で言えば刹那、理性的と感覚的で言えば感覚的、個人的と集団的で言えば集団的、全体と細部で言えば細部を、日本文化は摂り続けた。
氏の文学の定義は広い。空海の「三教指帰」も兆民の「三酔人経綸問答」も評論する。日本文学史は日本思想史にもなった。
例外は存在する。例えば法然・親鸞の神はキリストの神に近い。此岸ではなく、彼岸を求めた。そういうことも含め、一貫した評論基準をつくり一つ一つの時代と作品を緻密に冷静に大鉈を振るって裁断し、美しい絵巻を作り、日本人がどう変わったのか、にも関わらずどう変わらなかったのかを、たった2冊の本で展開してしまった。
日本人は何処から来たのか、何処へ行くのか?
高校生の時に、そういう「モデル」みたいなものを見れば、わたしの行く道が見えると思っていた。
この本は、正にそのモデルを提示したのと同時に、実際に読んでみれば次から次へとその先の森が見えてくる本でもあった。読めば読むほど、すべてを解ることを、その端から拒否する。結果、遂に「何処に行くのか」わからないままだ。氏自身が、晩年まで自らのモデルをアップデートし続けたのだから、末端のわたしなど何をか言わんや、だ。
今回は1頁も本を開かずにレビューを書き終えた。氏への本格的な評論はまたの機会としたい。
Posted by ブクログ
名著。ただ書を読むだけでは得られない角度から、日本とは何かを文学から考えることができる。ただ文学史を学ぶだけではなく、日本の土着的価値観について理解できた。
Posted by ブクログ
豊富な知識に裏打ちされた、良質な文学史。
中でも、竹取物語の位置づけが、高畑勲の竹取物語とだぶって見えてとても興味深かった。高畑勲がいかに古典を良く研究していたかもわかる。
高校までに学習したこてんのうらで生きていた人たちの息づかいを感じさせてくれる文学史。
Posted by ブクログ
ばらばらに読んできた本がつながる。
この本を一冊読むだけで日本史、思想史、文学史
全てが網羅出来る良書。
「社会にーその社会が小さくても、大きくてもーよく組み込まれた作家は、その社会の価値の体形を、批判することはできないし、批判を通じて超越することはできない。」
(引用)
文学とは何か、読書とは何かを考えさせられる。
Posted by ブクログ
著者があげている日本文学の主な特徴で、印象的だったものは、3つある。
1つは、体系だった思想を持たず、部分から入る。
2つめは、新を取り入れる場合、旧を新に変えるのではなく、新をアレンジして旧に加える。
3つめは、求心的で、都会で起きたことを都会にいる作者が書いて、その読者も都会で享受する。
ああ、やはり日本人は昔から、理屈ではなく、周りの雰囲気や空気で行動するのだと思った。
さらに、私が全体を見通すのが苦手なのも、都会と田舎なら都会に惹かれるのも、日本文学・読者の何よりの証拠なのかもしれないと感じた。
本書は歴史の教科書のように、丁寧にその時代の状況を述べ、その時に表された文学作品、宗教的哲学的著作等を、読み解いていく。
一番面白かったのは、平安時代と鎌倉時代。
古今集や紀貫之に対して、「自然など愛していない」と言っているのには、驚いた。
私も平安時代の人たちのように、季節に敏感になろうとしていたが、それでどれだけ自然を見ていたのか考えさせられた。
整然とした体系に組立られた「十住心論」を表した空海の真言宗より、妥協的・総合的だった天台宗の方がより発展したというのが、とても日本らしいと思った。
世の中を批判した漢詩が載っているとして「本朝文粋」が紹介されている。
当時の世の中は藤原氏が実権を握り、面白くない人には相当不愉快な日々だったろうが、和歌などでそれが歌われることはなかった。
批判などは主流の和歌ではなく、漢文のマイナーな場でしか発表できなかったようだ。
唐の逃避文学の陶淵明の流れに近いらしい。
大好きな平家物語は、平安末期の貴族知識人にとってありふれた価値感の寄せ集めでできていながらも、時代を反映するとともに、時代を超えたと書かれてあったのは、嬉しかった。
Posted by ブクログ
難しそうだと思い読み始めたのだが、案外読みやすく、そしておもしろい。歴史的な背景や人物、主要な作品に関する基礎知識はやや必要だと思うが、それとても高校で学んだ程度、「そんなのあったな〜」「そんな人いたな〜」、つまりは聞いたことがあるくらいのレベルで十分ついていけると思う。
さすがは20世紀を代表する知の巨人で、扱う内容が高度で複雑でも、なぜかすんなりと読めてしまうから不思議だ。きっとその理由は主題の明快さにある。「日本固有の土着世界観」という観点が最後までぶれない。この明確な主題に導かれて、読者は安心して知恵の大海に漂うことができる。
分厚いし、一見難しい文字ばかり並んでいるけど、敬遠せずにチャレンジしてよかったと思った。
Posted by ブクログ
上巻だけで550ページの大作。17条の憲法から始まり、古事記、日本書紀、と万葉の時代から元禄までの著者が考える文学の歴史書。当時の時代背景や政治状況との関連から、それぞれの文献を読み解き、同時代の西洋の文献との比較。一般的な文学だけでなく、仏教や儒教までも含めたその文学的意義まで語る。その博識に感嘆しながら、それを論理的にまとめ上げた著作。読み上げるには努力が必要であるが、論理的まとまりがよいので意外と読みやすい。
Posted by ブクログ
「十七条憲法」に始まり、「日本書紀」がなぜ「古事記」からそう時を置かずに書かれたのか、各地の風土記に書かれている神話的な物語(浦嶋子など)に見られる情についてなど。
上巻は日本で始めて町人風俗をリアリズムで描いた井原西鶴と、新井白石に終わる。
儒教的価値観を得た作品は物語としての射程距離(というか物語そのものの可能性)を大きく伸ばした(「うつほ物語」「落窪物語」「源氏物語」のあたり)とか、今まで個々の作品しか観察してこなかった私にとってはなかなかスリリングで興味深い本だ。
Posted by ブクログ
日本の土着思想は、現世での恋愛が中心で、政治哲学や彼岸(来世やあの世)についてはあまり関心がない。大陸から仏教や儒教を輸入しても土着思想に変容させてしまったほど根強いものである。
上巻は万葉集から元禄まで。仏教や儒教の思想は難しく理解できなかったが、文学史を通じて日本史を捉えなおすことができた。
序章である、「日本文学の特徴について」の部分だけでも読む価値があると思う。