山本文緒のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
一見すると「日常の文句や愚痴、冴えない人間関係」を描いた物語のように読ませておいて、ラストで前提そのものをガラリとひっくり返してくる構成が見事。まるで質の良い心理ミステリーを読んでいるかのような感覚に陥ります。
「ばにらさま」
お互いに致命的に噛み合っていない男と女のぬかるみ。決定的な衝突もしないまま不発のジャブを打ち合い、ぬるっと関係が擦り切れていくリアルさが秀逸。
「わたしは大丈夫」
「何が大丈夫なんだよ!」とツッコミを入れたくなる主人公の惨めな自己暗示と異常な金銭への執着。
ラストでタイトルの本当の意味が明かされた時のゾワッとする引っくり返しが見事です。
「菓子苑」
舞子と胡桃。舞ちゃんと呼ばれる主人公の「主体性のなさ」に最初はイライラさせられますが、最後に明かされるふたりの「本当の関係性」にまんまと騙されました。断ち切れない濃密な繋がりの正体が分かった瞬間の…。
「子供おばさん」
友人のお葬式や「もしわたしが死んだら」という言葉。58歳で亡くなられた山本文緒さんが、ご自身の行く末や死という現実を冷徹かつ静かに見つめていたのではないかと思わせる、切なくも深い余韻が残ります。
胃もたれするほどの生々しい毒気と「まんまと作家の手の上で転がされる快感」を存分に味わえる作品でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ愛するってなんだろう、恋愛ってなんだろう、と改めて考えさせられる作品だった。
結局、水無月は親との関係や離婚の経験から、相手に嫌われないこと=自分の価値であると思っていて、その自分の価値を損ねないために、相手に尽くしているように感じた。
愛は見返りなく与えるということにスポットが当たりがちで、もちろんそれも間違いではないと思うけれど、相手の善意や好意をそのまま受け取ることもまた愛だと思う。(ここは最近自分がバウンダリーの勉強をしている中で感じていること)
水無月は、嫌われないために献身的に相手に尽くすことこそが愛だと思っていて「受け取ることも愛」という視点が抜けていると思う。(創路からの「1年仕事を休んでいる間も給料を出すから翻訳の勉強をしろ」という申し出も、創路の善意であるとは受け取らずに跳ね除けていた)
相手への善意は得てして自分が嫌われないためのエゴになってしまうこともあり、無償の愛を他人に与えるのは難しい。(私も嫌われるのが怖くて勝手に相手のためと自分で言い訳をして尽くしてしまった経験が多くある)だからこそ、受け取ることも愛だということを忘れずにいたい。水無月のように、自分が嫌われないための行動を相手のためにしているものと脳内変換したり、与えればいつか相手も自分を愛してくれる、と信じて周りが見えなくなることが、まさに恋愛中毒を指しているのではないだろうか。
と言いつつ、自分も恋愛の渦中にいるときにはその中毒症状に気づけないのだけれど……苦笑
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Posted by ブクログ
読んでいる途中も、読み終わった後も、タイトルの意味を考えていた。
地球が自転しているということは、多くの人が小さい時に学校で教わることかもしれない。1日の中で昼と夜があることも自転の影響だ。昼夜のように比較的長い時間のスパンであれば何となく自転していることにも納得がいくが、短いスパン(1秒など)では、地球が自転していることに気づきにくい。
公転だってそう。季節の移り変わりで何となく認識する程度であり、「今この瞬間も地球は太陽の周りを回っている」という実感はなかなか湧いてこない。
本書を読んで、私たちの日々の営みも全く同じだと感じた。仕事をしていればあっという間に1日が終わる。気がつけば金曜日。1週間が終わる。そうして1ヶ月、半年と経ち、1年が終わる。でも本当は一瞬一瞬、大小を問わず、何かに直面したり選択をしており、自分という天体は止まることなく自転をしているのだ。そしてまた、他人という天体の周りを公転してもいる(しかも公転の対象は1つではない)
昼夜や季節が地球の自転と公転によって変わるように、私たちもまた日々の中で多様に変化する。各天体にもそれぞれ特徴があったり固有の事情を抱えていたりする。だから天体同士が関わる以上、自分の思い通りにはいかないことの方が多いのかもしれない。
しかしそれは逆も然りだ。巡り合わせ、タイミングといった表現に頼ってしまうけれど、そういったものは必ずあると信じている。
これからも人生という宇宙の中で、堂々と揺蕩いながら、自転も公転もしていきたいと思う。