永瀬隼介のレビュー一覧
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『されど愚か者は行く 道場Ⅰ』の続編の連作短編小説。長らく文庫化されたかった作品で、角川文庫から文庫化されたのは本当に嬉しかった。純粋な格闘小説というより、神野聖司から闘心館空手道場を任された藤堂忠之の苦悩や挫折、成長を描いた小説である。
本作では、主人公の藤堂よりも道場の最高顧問を勝手に名乗る入門10ヶ月の白帯・富永栄助と道場の指導員・山本健三の方が活躍する短編が多いようだ。富永が巻き起こすドタバタに藤堂が巻き込まれるが、時として藤堂が富永に助けられる事もあり、山本は常に安定の強さの空手家として藤堂よりもカッコよく描かれている。
『初恋』『告白』『黒船』『ひがちゃん』『遺書』の5編を収録 -
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香坂一と弓削慎二は高校で柔道のライバル.松原利恵も同級生.喧嘩早い一は拉致された利恵を助けるため、喧嘩を仕掛ける.その結果退学し、消息不明となる.慎二は刑事となって厳しい生活を続けるが、利恵と世帯を持ち娘を授かる.一はヤクザとなって喧嘩の強さで幹部に進んでいく.成績の上がらない慎二に一は情報を与え、拳銃や覚醒剤の摘発ができた.そのアオリで慎二を助けるための殺人を犯し、15年の刑に服する.ヤクザと警察の内情もそれぞれ熾烈だが、一が刑期を終えて出てきて、慎二の娘を最終的に助ける場面は、ほろりとする.アクションもので2段組で445頁の大冊だが、面白くて一気に読破できた.
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ネタバレ「ある目的のために森へ入っていく少年」という帯の言葉にひかれて手にとった。少年の、冒険譚なのかと思ったのだ。
しかしそれは冒頭の部分で違うとわかった。最初から違和感のある描写だった。「わたし」のあり方がなんとなくおかしいのだ。
読み進むと、森へ行ったのは子供の頃の話だったとわかる。
この、少年時代の回想部分はある意味とても懐かしかった。おそらく時代背景が私の子ども時代と同じであるだろうということがわかったからだ。
そして、山へ入っていった後の描写には圧倒された。ここだけサバイバル小説のような趣がある。
山で育った少年と街から来た少年の差。そこに生まれる密かな劣等感。
しかし、3人ともそれぞれ -
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ネタバレ満州七三一部隊、帝銀事件、地のメーデー事件といういまや歴史上の事実を題材に時代の大きな物語に巻き込まれながら、記録されることもない主人公の怯え、怒り、暗い情念、焦燥をくっきりと浮かびあがらせている。ここにはまぎれもなく大きな物語が生きていた時代があり、大きな物語に関わることで
必然的に輝いていた人間を浮き彫りにすることで、大きな物語を失った現代ニッポンが二重写しとなっている。羽生の体験、行動、激情はもはや想像力を持ってしても追体験はできない。あるのはただ「平沢貞通」の死刑という重い事実だけである。ところで帝銀事件の前に安田銀行荏原支店で未遂事件が起きていたことを知り個人的な感慨を得たことを付記 -
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戦後日本の帝銀事件を題材とした骨太ミステリ。
満州にある部隊に属していた羽生誠一は、ハルピンの華やかな闇の中で記者である梶や特務機関員である片岡、歩哨仲間の山下と出会う。敗戦の色が濃くなり、上層部は人体実験の暴露を恐れ証拠を隠滅し遁走する。
刑事になった羽生は帝銀事件の応援をする事になるが、鑑札でも割り出せない毒物の使用に警察は軍部の関わりを疑う。
非常に面白かった。特に戦後日本の状況がものすごくリアルに描写されていると思う。冒険小説のようでもあり、展開にスピード感があり楽しめた。
が、戦後日本について自分の無知にも呆れた。この事件も聞いた事がある程度で、すべての事が目新しかった。この時代につ