三雲岳斗のレビュー一覧
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“ダリアンは不愉快そうに顔をしかめて、
「この女は、生きたまま腹を裂かれて殺された、というのですか」
「ああ。彼女の死因に不自然なところは何もないよ。これは普通の人間の犯行だ」
ヒューイが素っ気なく説明する。それを聞いて憤慨の表情を浮かべたのはジェシカだった。
「普通の人間の犯行……!?これがまともな人間のやることだっていうの!?」
感情的になって詰め寄ってくるジェシカに、ヒューイは優しく微笑んで、どこか寂しげな口調でぼそりと告げた。
「犯人の精神状態がまともかどうかは僕には判断がつかないな。戦場では、これよりも悲惨な死体をいくつも見たよ」
ジェシカは一瞬、驚いたように動きを止め、
「……あなた、兵士なの?」
「まさか」
ヒューイは、軽く両腕を広げて微笑んだ。
ジェシカは無言で、彼の横顔を見つめた。いかにも育ちの良さそうな貴族風の青年が見せた思いがけない一面に、戸惑っている表情だった。
そんなジェシカの反応を、黒衣の少女が面白くなさそうに横目で睨み、
「普通ではないのは、死因以外のところなのです」
抑揚の乏しい声でそう言った。”[P.23]
「調香師」が一番良かった。挿絵の表情が素敵で泣きそう。
“「人を見た目で判断するから、そのような目に遭うのです」
アルマンは弱々しく肩を落とし、ひどく真剣な顔でぶつぶつと呟き始めた。
「ええ、ええ。そのとおりですよ。これからは慎ましやかで清楚な女性はやめにして、明るく活動的な女性を探すことにします。あと、そうだな、もう少し髪が長いほうが好みだな。ついでに胸も大きいほうが……」
そんなアルマンの様子を眺めて、ヒューイが呆れたように溜息をついた。
「あいつ、まったく懲りてないな」
ダリアンもやる気をなくしたように頷き、
「やつほどの大馬鹿は、どうやら死んでも治らないらしいのです」
「ああ、そうらしい」
ヒューイはそう言って愉快そうに笑った。そんな彼の横顔を見つめて、ダリアンは、不意に泣き出す寸前のような寂しげな微笑を浮かべた。
「死が二人を分つまで……ですか」
「え?」
「なんでもないのです」
ヒューイが振り返ったときには、ダリアンの儚げな微笑は幻のように消え去っていた。
彼女の艶やかな黒髪が、柔らかな月明かりに照らされてきらきらと輝いた。”[P.167] -
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“ジェシカは、ぐ、と頬を引き攣らせ、
「私だって渡り鳥なんか食べないわよ。シロクマじゃないんだから」
黒衣の少女が、ハッ、と嘲るように息を吐いた。
「渡り鳥をバリバリ喰う女はみんな口ではそう言うのです。さすがに馬のしっぽみたいな髪型だけのことはあるのです」
「そんな女がどこにいるのよ!?てか、髪型は関係ないでしょう!」
「悪いけど……本当に少し静かにしてくれないか、二人とも」
ジェシカが肩を怒らせて黒衣の少女に詰め寄っていると、ベンチに横たわっていた青年が、疲れたような声でぼそりと呟いた。
「蒸気機関の修理を手伝っていたせいで、寝不足なんだ。少し休ませてもらえるとありがたい」
「あ……ご、ごめんなさい」
ジェシカが、ばつの悪そうな表情を浮かべて謝罪した。
狭い船内のあちこちには、青年と同じように仮眠中の船員たちの姿がある。
彼らは皆、ぐったりとした表情で、疲れ果てた身体を休めているようだった。
「ふん」
黒衣の少女は、ふて腐れたような態度で、読みかけの本に視線を戻す。ヒューイと呼ばれた青年は、そんな彼女をちらりと見上げ、
「ダリアンも、他人の食習慣を一方的に非難するのはよくないと思うよ。互いの文化の違いは尊重しないとね」
「食生活ってなんなんですか!?」
ジェシカが悲鳴のような声を上げた。”[P.134]
心配したダリアンが怒ってヒューイの足蹴りまくるとこ可愛い。
ダリアンとラジエルが睨み合ってるとこのイラスト顔可愛い。
“「幻書に関わるということは、人々の剥き出しの欲望と直接向き合うということです。ですが、あなたはその前に、自分自身と向き合うべきですね」
くつくつと笑い続ける白衣の男の背後に、小柄な人影が浮かび上がる。
緑色の髪と白い肌。鮮血の色に似た深紅の衣装。
そして鍵穴を刻んだ金属の眼帯が、彼女の左目を覆っている——
「きみは……!?」
紅衣の少女に目を奪われて、ヒューイは凍りついたように動けない。
教授の口元から、不意に笑みが消えた。
彼は、空洞のような虚ろな瞳でヒューイを見る。
「あなたの存在意義はなんです、ディスワード卿?あなたはなぜ、彼女と共にいるのですか、黒の読姫の鍵守よ——?」
突き放すような教授の問いかけに、ヒューイはなにも答えない。
紅衣の少女はそんなヒューイに、めずらしい生き物を見るような視線をしばらく向けていた。が、やがてそれにも飽きたのか、右の下瞼に指を当て、あかんべえ、と嘲るように舌を出す。
そして二人は、そのまま闇の中に姿を消した。
薄暗い坑道に取り残されて、ヒューイは一人立ち尽くす。
固く握りしめた彼の右手が、ぎしり、と低い音で軋んだ。”[P.247]