出雲充のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレユーグレナがミドリムシの会社だとは知っていたが、ソーシャルビジネスの会社だとは知らなかった。多くの会社のサステナビリティ活動は表面的だったり下手するとグリーンウォッシュだったりする印象だか、ユーグレナは本気でサステナビリティが会社の存在意義になっているようで素晴らしいと思った。
2025年にはミレニアル世代が生産人口の過半数を超えるので金融資本主義ではなくソーシャル/サステナブルビジネスが主流になるというのが著者の信念。そうなればよいと思うが本当にそうなるのか私は疑ってしまう。他にも本書には「私は信じています」という表現が何度も出てくる。起業家というのは信念の人なのだろう。こういうのは自己予言的な面もあると思われ、変化を信じることによって実際に変化を起こす著者のような人の方が、変化を信じないことによって実際に変化を妨げる人よりよいと思う。著者によれば、2025年以降になっても金融資本主義による成長を追求するのは宇宙ビジネスに挑む特殊な人だけになるという。こういう話は他の科学者からも聞いたことがある。宇宙産業以外で成長を目指すのは的外れな時代なのだろう。
本書で一番面白かったのが、「演繹的なITや金融、帰納的な農林水産」という節。グローバル化、金融資本主義、GAFA、バナナ農業等は、一つの正解を全世界に一律適用する演繹的な方法をとるが、これは持続可能ではない。一方、農林水産業は基本的に一つの理論によるのではなく、現場の個々の事例から試行錯誤を繰り返す帰納的な方法をとり、これは多様性を生み持続的である。日本は演繹的な発想とは相性が悪く欧米には勝てないが、これからは帰納的な発想が大事になるのでチャンス。というような話。私は法律に携わる仕事をしているが、法律も基本は演繹的だと思う。法的三段論法とか。ただ、欧米は演繹的、日本や東洋は帰納的と必ずしも言えない気はしている。例えば英米の判例法は帰納的、日本の中央集権の官僚制は演繹的ではないのか?また、欧米のビジネススクールでは、帰納的な試行錯誤を推奨していないか?このあたりは突き詰めて考えても面白そうだ。演繹・帰納の話は、本書の直前に読んだ「言語の本質」にもあって、自分の中で繋がった感覚がある。
なお、本書には「身体性」というワードが随所に出てくるが、これも「言語の本質」にも出てきた。この言葉の濫用は論理軽視に繋がる気がして個人的には少し警戒している。
また、本書には「ハイブリッド(いいとこ取り)」という発想も随所に出てくる(ソーシャルビジネスはNPO/NGOと株式会社のいいとこ取り、ミドリムシは植物と動物のハイブリッド生物でありその培養は農業でありながら指数関数的に増えるという金融資本主義的な面もある、都市と地方のハイブリッドな働き方、科学と哲学のハイブリッド、世代のハイブリッド等々)。一方、プロローグでは、コロナ禍の外出自粛下でのGo To トラベルを二兎を追うものだと批判もしており、この辺りの考えをどう整理したらよいのかは疑問に思った。
科学と哲学のハイブリッドは、本書では複雑系という切り口から導かれる。感染症は複雑系。複雑系という正規分布に収まらないもの=自然界のものは、フィードバックが無限にかかっているので統計的に処理できない。だから、原理的に科学では解決できない。このような事柄については、科学ではなく宗教や哲学で考え続けていく必要がある。というような流れ。
世代のハイブリッドということを語っているのも興味深いと思った。ジェンダーより、世代や地域のダイバーシティの方が重要という著者の意見には目から鱗が落ちた。環境問題はグレタ氏のように上の世代の批判になりがちだが、著者はもう少しバランス思考。世界が変わってしまうことを不安に思ったり、これまでの世界=金融資本主義に疑問を持っていたりする上の世代にも配慮・期待する姿勢がある。ただし、ビジネスでの成功体験を語る上の世代に対しては、上っ面の金儲けの方法を語るのに等しく、それは下の世代に伝えるべきことではないと手厳しい。
本の最後には著者が信奉するムハマド・ユヌス氏のメッセージ。著者よりもユヌス氏の方が課題解決や起業に前のめりな印象。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「新世代CEOの本棚」
日経新聞の「リーダーの本棚」とかが好きで読んでいる私にとっては非常に興味深い内容。「新世代」はやはり読書傾向が全然違う。「一番影響を受けたのは『ガリア戦記』ですね」(XX工業相談役)みたいな人はほとんどいない。所謂古典教養への関心はほとんど見られない。
①「意思決定のケーススタディ」としてのビジネス書、伝記、ドキュメンタリーや(歴史は思っていたほどには言及している人は多くなかった)、
②心の揺さぶり、揺さぶられ経験としてのマンガ、
③世の流れの「鳥瞰」の観点から宇宙、生命・遺伝子、脳科学などの先端知識、
あたりに関心が集まっていた。
一方、小説を挙げる人は少ない(まあ本書自体が仕事論の一種として読まれることを想定しているだろうからかもしれない)。
あと、「信頼できる人のお勧め」をどん欲に読む人が多かった。やはり知の領域において謙虚さは最重要。
個人のレベルでは、仲暁子氏、佐藤航陽氏、孫泰蔵氏がとくに面白かった。 -
Posted by ブクログ
植物と動物の間の生き物で、藻の一種でもあるミドリムシは、植物と動物の両方の栄養素を作ることができ、その数は59種類。体内に葉緑素を持つため、二酸化炭素を取り入れ、太陽のエネルギーから光合成を行うことができる。光合成によって作り出し、体内に蓄えた油を石油と同じように精製すればバイオ燃料として使える。食料・栄養、地球温暖化、エネルギー資源、これらの問題を解決できるポテンシャルがミドリムシにはあった。培養…つまり人の手でミドリムシを増やすことができれば、世界を救え得る。それはもう十年以上前の研究で明らかになっていたが、その「培養」が途方もなく困難な事だった。
著者は、発展途上国の栄養不足問題を解決できるもの(ドラゴンボールの「仙豆」のようなもの)を求めて、東大文系の学部から理系の農学部へ移った。ミドリムシについて知り、培養してビジネスにする事を決め、卒業後一度は銀行に勤めるが銀行を辞めて、培養できる目途も立っていないまま会社を設立。そこから様々な出会いや苦難があり、今のユーグレナという会社やその商品に至る…という話。
ミドリムシのポテンシャルと同じくらいに著者の執念の凄さが伝わった。本書の前半は正直、著者の家庭や学校の環境や方針や交友関係などにおいて「とても恵まれている」という印象が強く、だからこそ多くの素晴らしい出会いや学びを得られて今のビジネスに繋がったのだろうとも思う。ただ、それだけではない、「絶対に諦めない」「世界を救う」という強い意志が無くては成しえなかった事でもあると思った。
研究の面では培養を成功させるが、その後に今度はビジネス面での思わぬ不運が降りかかり辛酸を舐める事になるも、そこでも会社を支え立て直せたのは、著者の強い意志や人柄があってこそだったのだろうと思う。
また、学生時代から著者と二人三脚でミドリムシの培養に取り組んできた鈴木氏について著者は「中でも最大の感謝を伝えなければならない」と記し、なぜミドリムシに人生を賭けてくれたのかと尋ねている。その時の回答がとてもスマートながら男前だった。