永井玲衣のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「夜が明けてやはり淋しい春の野を
ふたり歩いてゆくはずでした」東直子
仮定法過去完了の「はずでした」には、後悔や願望の響きがある。
「もし一緒にいたならば3年になるはずでした」
でも、
「撮られなかったものも撮った写真に全部入っているんで。私がその前後を生きているんで。」
という友の言葉にハッとする。
自分が選んだ道は選べ直せなくても、選ばなかった道がそこに入っているとしたらポジティブな余韻が残る。
前回読んだ『水中の哲学者たち』より深い味わいがある。日常のことが、掘り下げられ、新しい角度で語られる。見逃してしまうこと、忘れてしまっていることにも光が当たる。不確かな記憶の中には思い出して欲 -
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Posted by ブクログ
時間はどんどん過ぎて、世界は変わっていく。
その一コマの切り取り方が独特で、些細な日常もこんな捉え方ができるのかという気付きがたくさんあった。
その一つ一つは、正直わかったようなわからないような。哲学ってそういうものなんだろうか。
心に残ったのは「かくれる」。
好きな人、大切な人の一部になることが、その人を保存することになるという気持ち。
適切に保存しようと思うあまり、体の一部を食べてしまいたいという欲求が生まれる。
少し前に読んだ「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った」と通じるところがあるなと思い出した。
何かが消える、失われる、忘れられることに、多くの人は無意識のうちに恐怖を感じてい -
Posted by ブクログ
ネタバレコロナ禍で、授業中の風景を絵にしてもらったところ、同じようなものばかりが寄せられた。このエピソードについて語られるが、私は記憶がありきたりなものに堕してしまう力の強さを感じた。集合的ともいうべきか。だからこそディテールを意識して記憶していくことが大切だ。
今回は後半で政治色が濃厚になる。いわゆる左翼のナイーブさが窺われる。問題からどうするかという骨太さは窺われない。火中の栗を拾うとでも喩えようか。そういう姿勢は窺われない。いい人なのだが、頼りない。日本では詩や哲学が弱いとされる所以をここにも感じた。
においの件は、同感だ。そこには既存のメディアでは伝えきれない、また、言葉では伝えきれないも