小山内園子のレビュー一覧
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ネタバレどの短編もすごく心奪われる内容で、グッと惹きつけられた。結末が示されないのでその後どうなったのか気になる部分はたくさんあるけれど、心に響くシーンもたくさんあった。
どの作品も良いのでどれかを選ぶこともできない。日常のなんてことのない場面が多く描かれているはずが、妙な緊張感に満ちていた。嫌な予感がしてハラハラが止まらない。こうした身近にある違和感や恐怖の描写が素晴らしかった。
そして、女性たちの声がとても身近に感じたという、そのことも収穫だった。たとえフィクションでも、自分と似た心の内がそこにあるというのは心強くもあるのだと知った。
日本でなんらかの被害に遭ったり、被害とまではいかずとも怖い思い -
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大好きな本になった。"閉塞感に満ちた日常に開放をもたらす"というカバーそでに書かれた言葉の通りの、8つの短編集。特に「幽霊の心で」「光っていません」がとても好きです。皆生きるのに必死でリアリティもある。心に重く冷たいものを秘めているけど、ファンタジックで不可思議で、奇妙な出来事を通じて、悲しみと向き合ったりかすかな希望をもらったりして、静かで穏やかな光を感じる終わり方をする。人の心の動く過程を本当に丁寧に優しく描いている。翻訳の表現も、とても綺麗な文章で、ため息が出るほど素敵でした。手元に置いておきたい本。イム・ソヌさんの今後の作品も楽しみです。小山内さんの他の翻訳本も読ん
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先日読んだピエール・ルメートル『邪悪なる大蛇』と同じく、殺し屋の老婆が主人公。『邪悪なる大蛇』の方は前頭側頭型認知症かと思われる症状の出現により、反社会的行動が加速度的に増していっていたが、こちら『破果』の主人公爪角は歳を重ねたことによって、殺し屋として持つべきでない「情」の溢出を、どうしてもおさえることができないでいる。これが何ともいい。
飼い犬のため家をこまやかに改造し、ターゲットを追わなきゃならない場面ではよろよろのおじいさんについ手を差し伸べずにはいられず、そして治療をしてくれた若き医師に淡い恋心を抱いてしまう…。ハードボイルドな女のこのいじらしさ、けなげさ!最高です。
しかし、何よ -
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これは韓国では映画化されないんだろうか。「密輸1970」で見たような情の濃いパワフルな女たちが目に浮かぶのだが。
しかし元・韓国代表をもってしてもマンスプレイニングからは逃れられないのか……。ループシュートで仕返しするシーンは爽快だったが
居酒屋を経営している裏表のない先輩のおばちゃんっぷりもいいし、去っていってしまった総務先輩も切ない。
最後の方で40代になってからサッカーを始めた女性の喜びに嬉しくなった。
自分のからだや髪型に関して「美しくある」ことから「強くてサッカーしやすい」を基準に変わっていく姿が良かった。
あとは飲み会の多さと長さ!4次会とか考えられない! -
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ネタバレ歴史を追って韓国の男性性がどう形作られてきたかを概観することができる良著。
朝鮮王朝時代の両班である士大夫は、官職を出すため、家族をかえりみず、学問に励むことが美徳とされ、学者が武者を見下してきた文化、何もしないため、女性が家計を支え家事労働も全て請け負ってきた、というところで神戸のおじいちゃんとおばあちゃんを思い出した。
朝鮮王朝時代のヘゲモニックな男性性は家族や国を守ったりすることではなく、徹底した無能力ぶり、とは著者の言葉。生産、再生産は女性と下層身分に押し付け、自分たちだけで名誉と権力を分かち合ってきた、らしい。
しかしこのような男性性のあり方は、近代に入り西欧列強や日本の侵略 -
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ネタバレ男性でこういう考察が出来るのがすごい。ぜひ武田砂鉄さんと日韓男性問題について論じて欲しい…
家父長制の名残があるところは日本も韓国も似てるなと思っていたけど、背景にある歴史がまったく違うことが本書を通して実感できた。
巻末の解説にもあるけど、韓国の人たちにとっての兵役や戦争を知ることで、韓国の作品のなかに出てくる家族のあり方やK-POPの文化的背景を理解する手がかりになる一冊。
ミラーリングのミラーリングを試みようとした男性たちが「韓国女子とセックスするのをやめよう!」という勇ましい主張をしたが、これほど女性たちから大歓迎されたものもなかった、に大ウケ。 -
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どの作品も『死』をイメージとして扱うような作品でした。死後の世界とか絶対に生きていたら知ることはない世界のはなしみたいな感じです。いちばんこころに残ったのはタイトルにもなっている『光っていません』と『見知らぬ夜に、私たちは』です。『光っていません』は触るとクラゲになってしまうクラゲが世界に出現したあと安楽死替わりにクラゲになって人間をやめるひとたちのはなしで『見知らぬ夜に、私たちは』は親友だった相手に20年以上ぶりに再会して過去を思い出し未来を取り戻そうとするはなしでした。どちらも言葉が大切にされている作品でまた、何回も読み返したくなるような切ない気持ちになりました。
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“「男子(ナムジャ)」はつらいよ でもその傍で みんながもっと生きづらいよ” という帯文が端的で秀逸だと思う。女性として日本人として揺さぶられながら複雑な思いで読んだ。男性が自らの男性性について内省して考察してくれるこういう本をもっと読みたい。
“韓国男子として30代半ばを迎えた自分自身の直面している悩みも作業の動機だった。その悩みとは、誰かを抑圧することなしにひとりの主体として、また、他人と連帯しケアを行う者として生きていけるのかという問いである。思うに、男というアイデンティティを突き詰めることなしには、その問いへの答えは見つからないはずなのだ。”(p.11)
“異性愛に基づく「正 -
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“手には触れなかったけど確かにあたたかく、それがあまりにあたたかいから、私は泣くことができた。どこの幽霊が、涙まで流してんのよ。私が言った。幽霊じゃないってば。泣いている最中も、幽霊はそう言った。 しばらくして幽霊は私を抱き寄せたが、それは私が生まれて初めて受け取る、一寸の誤差もない 完璧な理解だった。”(p.23)
“失望が積もれば怒りになり、怒りは結局諦めになるから。それを繰り返さないように、私はいつからか、何も望まなくなった。”(p.20)
“世の中はだんだんおかしくなっていってるのに、自分たちは家でほうれん草を和えて食べる予定でいることが、奇妙に感じられた。
(中略)夕ごはんに -
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私生活を含めてプロに徹してきたベテラン殺し屋爪角。
老いを意識すると同時に彼女の信条が揺らぐ。人間らしい感情が溢れでてしまうことが己の弱みになるのに。
それでも彼女の技は年老いたとはいえまだ現役。
若くてやり手の殺し屋トゥとの死闘は圧巻。(トゥは結局何を求めていたのか。爪角に己の存在を認識させて力を認めさせる=爪角を制圧すること?純粋なようで歪んだ彼の内面も考えさせるポイント)
トゥに勝った代償は左腕と殺し屋稼業。
爪角はこれからどんな人生を送るのかな。
地味だけど上品にまとめた見た目に不釣り合いなその過去と、夜空の花火のような美しいネイルと一緒に。
「あたしはおたくのお母さんじゃないで -
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韓国の女性の小説家ってすごいなと思うことが続いている。
出生率が日本より低いことから、家父長制とそれによる分断が、日本よりキツいのだろうなと、推測されるのですが、「自由を奪われている人は、自由を謳歌している人より余程、世の仕組みについて明確に知ることができる」と丸山眞男先生もおしゃっる通り、抑圧された韓国の女性作家の小説からは。鋭い人間観察と深い人生観がバシバシ感じられます。
老境に入った女性が子どもを守るという設定は、映画の「グロリア」を思わせる。「グロリア」もメチャクチャいい映画だけど、この小説の主役「爪角」は「グロリア」よりも年齢はるかに上の65歳!なのに若い男に惚れちゃうし、急に気弱 -
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おどろおどろしい装画に手に取るのを一瞬ためらうほどです。ちょっと元気がない時は読むのを遠慮しちゃうかも。
ですが、カバーを外した本体をぜひ見ていただきたいのです…!
カバーの怖さとは一転、何やら真っ黒ではない優しい雰囲気。
おそらく、桃色の紙にこげ茶色を印刷していると思うのですが、それが良い味を出しているのです。
経年劣化や摩擦で、印刷がはげて中のピンクがうっすら見えてくる。
まるで爪角が老いと共に見出した優しさや情けといった人間らしさをあらわしているよう。
もしくは、冷蔵庫の奥で忘れさられて腐った桃か。
そのどちらでも、読む人によって解釈を自由にできる装丁がすばらしいです。
触れるたび -
Posted by ブクログ
高校の時に読もうとしたときには、差別の構造も知らなかったし筆者の主張が強すぎる・偏っていると感じて途中で読むのをやめた。だが今回読んでいると納得する部分が多くて、そこに対する共感は女性差別だけでなく他の差別・抑圧の事例に触れたからなのか。
女性差別だけでなく、様々な場合において適応できる会話法だと感じ、参考になる部分が多かった。
人と話している中で、相手の意図がはっきり見えなくて、それにより知らないうちに自分の心が疲弊している場合がある。そういうことを防ぐための解決にもこの本は役立つ。
自分が弱い立場にいる場合に他の人とどう話すか、という視点で書かれていて、もちろんその面で勉強になる部分も多か -