吉田篤弘のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『おやすみ、東京』は、夜の東京を静かに散歩しているような気分になれる物語でした。
登場する人たちはどこか孤独で、でも完全に絶望しているわけではなく、日常の隙間に小さなぬくもりや希望を見つけている。その距離感がとても心地よいです。
何気ない風景や会話が丁寧にすくい取られていて、「東京はこんなふうに息をしているのかもしれない」と思わせてくれます。
この作品は、元気をもらうための本というより、疲れた心を静かに休ませてくれる本だと思います。タイトルの「おやすみ」という言葉どおり、一日の終わりや眠る前に読むと、世界が少しやさしく見えるかもしれません。
夜は何かを解決してくれるわけではないけれど、「そのままの気持ちでいていい」とそっと許してくれる時間を与えてくれます。 -
Posted by ブクログ
とうとう螺旋プロジェクト最後?を読み終えた。
あくまで螺旋プロジェクトは海族、山族の対立を軸に皆んなで小説を書こうといったものなので特に読む順番などないと思うが、私は古代から順々に読み進めていった。
この近未来の作品では現代付近までの顕著や山族、海族の対立といったものは顕著に表現されていなかったように感じる。どちらかといえば、西、東、眠り、覚醒といった二項対立の要素が様々に散りばめられていたように感じる。
最後には締めくくりなのか海族と山族との間の産声でとじられる。必然なのか偶然なのかシュウが眠り姫まで辿り着く旅路がふわふわと揺れ動く不思議な感覚だと読んでいて感じた。
シリーズの締めくくりとして個人的な感想を全体を通して簡潔にまとめるとどうしても二項対立は争いなどの負の要素を感情としてみると孕みやすいなと改めて実感した。本の中に出てくる大きな要素ではなくても、敵味方、好き嫌い、良い悪いなど感情だけでもこれだけあり、日常の中にもたくさん埋もれている。その枠に囚われてしまうとどうしても理解ができない。何もかも取っ払ったありのままを見つめていきたい。 -
Posted by ブクログ
伊坂幸太郎さんの呼びかけで集まった8作家による競作企画〈螺旋プロジェクト〉の作品の一つで、伊坂さんのシーソーモンスターとの伏線もたくさん出てきてわくわく。あと6作品も読みたい!螺旋プロジェクト第2弾始動とあるので、その前に読み切りたいです。
睡眠ビジネスとか盛んな今、本当に不眠症の原因となる〈面白い本〉が焼かれる時代が来たら…おそろしい。言葉狩り!こわい!
争いはなぜ起こるのか、〈ひとつになりたいふたつ〉はなぜ壁を作るのか…ネタバレになるのでこれ以上は語れないけれど、8作家の作品読み終えたら、再読したい作品です。
伊坂さんのパスカのように、吉田さんもSFらしく未来のありそうな横文字の固有名詞をたくさんこしらえてましたが、〈TAライト〉のTAが「とても明るい」というところがちょっとツボです。 -
Posted by ブクログ
だいぶ前に買って、眠る前に本棚から取り出しては1日1話、また戻して、ときには何週間も間をあけて…のんびり読みました。
何ヶ月もかけて、しかも読んだあとはそのままおやすみ。最後のページにたどり着いた今、正直さいしょの方が思い出せません笑 いつか、おもむろに2周目に入ろうと思います。
ひとつひとつの穏やかでちょっと不思議な世界は健在。俳優、劇団、楽団、音楽家、そしてサーカス。つくる、演じる人たちのお話が多かったなあ…という印象。
レビュー用に慌てて読み直すものでもないと思うので、思い出せる範疇でいうと、百貨店の地球儀屋さんのお話、あと、音楽家と賢者が仲良くなるお話、椅子のお話…が好きでした。
そして、さりげなく書かれたひとこと、一作目で好きだった「カマンザの朝食」が映画化されているというくだりにテンションが上がりました。えっ、私も観たい、それ。 -
Posted by ブクログ
ドストエフスキー「罪と罰」を読まずに4人の作家が読書会を開き内容を推測し合う話
4人の作家たちがヒントを手掛かりに自由に推測、思ったままを言い合うのがこの本の面白さ
ほんの少しの話の断片のヒントから作家流に「わたしならこういう筋書き、こういう流れにする」とか想像力が半端なく広がる
いったいどんな物語なのか
期待に胸を膨らませ、夢中になって「ああでもない、こうでもない」と語り合う
そして読んだあとにまた集まって
読後座談会
私は読んだあとにこの本を手にしたが、作家たちの当たらずとも遠くなく、話が横道にそれることもしばしばあるにもかかわらず、ちょっとのヒントで軌道修正してくる様子に感嘆した
ラズミーヒンは修造だとか
ポルフィーリーは愛之助だとか⋯
みな自分の好き勝手に想像していいんだよと、いわれてるようで安心する
作家の感想にかかわらず、本は読んだ人それぞれ、謎解きや解釈があっていいんだと思わせてもらった
あと巻末に矢部太郎による解説マンガがあってホッコリとした気持ちになった
-
Posted by ブクログ
短編同士に繋がりはありつつ、絶妙な距離感が保たれている。この方の小説の特徴であり、好きなところ。
実は世間は狭く、色んな人とつながっている。ただ、つながったとて、それに気付くかは別の話。また、会いたい意思と、会うという行為も、別の話。文中にもあったこれらのことが、短編の繋がり方に表されていると思う。
繋がって「知り合う」こともあれば、繋がっても「その場限り」なこともある。「知り合う」ためには偶然の力と、自分で縁をたぐり寄せる力、どちらも必要なんだなと思った。あと、思いがけない縁は、結局人を介してやってくる。
「世間における居場所」という視点で見ると、マイノリティ的な側面がある深夜が舞台が表すように、誰しも「これで良いのかな」と思っている部分がある。それでも人と繋がったり、繋がらなかったりすることで、時とともに進んでいく。案外、暗闇のほうが懐が深い。
夜の静けさと一緒にゆったり進んでいく空気感が好きだった。 -
Posted by ブクログ
月とコーヒーが必ず出てくる24の短編集。
シリーズ第2弾。デミタス。いい。
1話1話、とても短い。
「それから?」と続きが気になる終わり方だったりと、まさに小さな一杯。まさにデミタス。いい。
でも、物足りないのではなく、「余白」なのです。「余韻」と言ってもいいかもしれません。
読後、ぼぉ〜っとしたくなる。
そして、著者の作品はセリフがよいのです。
引用をひとつ
「世界をよく見て、何かを見つけたりすることは、とてもいいことだと思う。でもね、本当にうれしいのは、気づくってことなんだよ。だって、『見つけた』ものは自分の外にあるけれど、『気づいた』ものは自分の中にあるってことだろう?」彼はまた、こんなことも言いました。
「同じことを繰り返すのは気持ちのいいことだ。快楽とは反復のことに他ならない。
たとえば、毎日、この同じ席で同じコーヒーを飲みつづけるとかね」
彼の考えにはおおむね同意できました。
*
引用したセリフのある「ひとつの椅子」がよかったです。
この後、主人公は、いろんな椅子に座るために旅に出ます。椅子から見えるいろんな景色、人生が…。どんな椅子に…誰と座るか…。
全ての作品に月とコーヒー。
そして、小さな宝箱を感じます。
小さな宝箱の中には、心が落ち着くなにかが入っている。
吉田ワールドに住みたいと思うのでした。
あとがきに、一作目の「月とコーヒー」のあとがきの引用があり、やっぱり素敵だと思うのでした。
「太陽とパン」は生きるのに必要だけれども、「月とコーヒー」がない人生はつまらない。
コーヒーのように何度も味わいたい作品。
何度も帰ってきたい世界なのでした。 -
Posted by ブクログ
「明日、世界が終わるとしたら」
美々と直人の微妙な関係。伯母いわく臆病すぎる性格の美々と、猪突猛進な直人のほんの少しの生きづらさ。わかるなぁ。何もかもが上手く行ってないわけじゃないんだけど、思い描いていた未来とズレていって息がしづらい感じ。
学生時代によく行った中華料理店に大人になってからは年に一回行くか行かないか…くらいになって
コロナ禍で閉店してしまったあの時を思い出しました。
もっと行っておけば良かったな、なんて。
他に思い入れのあるお店がなかったから、まだ若い皆さんは学生時代にもっと思い出を作っておこうね。もう大人な皆さんは行きつけだったお店大事にしてね。
前向きになれる作品でした。