「ふたたび」の『圏外へ』
文庫本では初めましての『圏外へ』。
そうだ、そうだ、そうだったと確かめるような読書になった。
一度通っただけじゃ覚えられない道をもう一度確認しながら通るような。
そもそも一度で覚えられなかったのは、歩きながらきょろきょろし、通り過ぎた家のポストとかすれ違った人の髪型とか(す
...続きを読むべて例えばの話)に意識を彷徨わせていたからで。
今回もそうだ、そうだ、そうだったと思い出すのはそういう本筋でない部分が多かったような気がする。
というより、この小説には本筋があるんだろうか?
全ての道が曲がりくねり、ある時はジェットコースターのようにアクロバティックな曲線を描き、道を覚えるどころか自分が歩いているのか運ばれているのか分からなくなる。
目的地なんて分かるわけもなく、頭は真っ白で目に映る景色に(景色を見せてくれる言葉に)時間を忘れて見入ることしか出来ない。
終着点はいつの間にか現れ、心の準備をする猶予も与えられずにぽつんと置いてけぼりにされていた。
でも何故か爽快。
さみしいのに、爽快な気分。
予想していたことではあったけど、まだまだ私は『圏外へ』の道を覚えてはいない。
だからまた「ふたたび」ならぬ「みたび」歩こうと思う。
きっと道なんて本当に覚えたいわけではなくて、ただもう一度(一度と言わず何度でも)歩きたいだけなのだろうけど。