吉田篤弘のレビュー一覧
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「本屋がなくなるとさ。なんというか、セーターの袖に小さな穴があいちまったみたいな——」
決して生きていくために必須なわけではないけれど、あるとほっとできる。
そんな作品でした!
本が大好きな私にとって、
・ページをひらくことは世界をひらくことでした。
・さみしいもんだよね。本屋がなくなるとさ。なんというか、セーターの袖に小さな穴があいちまったみたいな——
このフレーズは自分の本に対する気持ちも同じ気がしたし、
・重力は偉大だ。どんな人間も平等に地上につなぎとめてくれる
・迷路のごとき路地で迷いながら生きていくことはそんなに悪いことじゃない
このフレーズは生きるのが少し楽になるなと感じました。
他にもたくさん大切にしたいフレーズがありました。
毎日毎日たくさんの大変や生きづらいからそっとコーヒーのように一息つかせてくれる作品でした。 -
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「月とコーヒー」の3作目を先日読んだけれど、もうちょっと読んでみたくなったので1作目から読むことにした。はたして、3作目よりこの1作目の方が好みのお話が多かった!
優しくて静かに、たんたんと進んでいくところは変わらないが、こちらのほうが食べ物がより際立っているというか、すごく美味しそうに感じる。どれも簡単に作れるような素朴で飾らない食べ物ばかりなんだけど、なんとも食欲をそそる…。
どの話もお話が盛り上がりそうなところでぷつっと終わってしまうので物足りなく感じるのだが、だんだんとこれがくせになってきて、心地よくなるのが不思議。
猿たちがバナナについて語り合う「バナナ会議」、オルゴール修理人と直らないオルゴールの話「鳴らないオルゴール」、熊の父親を名乗る男が営む旗屋に焼売屋が旗を依頼する「熊の父親」、不思議なたまごケーキが受け継がれていく話「二階の虎の絵」あたりが特にお気に入り。 -
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ガケ上の古いアパートの屋根裏で暮らす元オーボエ奏者のサユリと、サユリの空想上の友人チェリーとのやり取りを中心に進む静かな物語。
イマジナリーフレンドのチェリーが唯一の友達で、人見知りで人付き合いは最小限のサユリが実はレモンソーダを愛飲しハンバーガーやカツを好んで食べる食いしん坊キャラという意外性。彼女が胸の内に秘めた音楽への思いと、解散してしまったオーケストラへの思い。
前作の『流星シネマ』と同じシーンがサユリの視点でも描かれており、視点が変わることで前とは違った見え方になる。
内に籠もりがちなサユリが、前作の主人公 太郎や街の人と知り合い、交流を重ねていくのと同時に仕舞い込んでいた音楽への気持ちを取り戻していく姿がとても良い。
新たな門出を祝う音は、はじまりのラの音だ。 -
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本書は、前半の「物語の舞台袖」と後半の「エデンの裏庭」の2部構成になっています。
誰もが知る4つの名作物語に対して、創作(妄想)と書評(注釈や解説)を記した前半。後半は前半の試みを経ての小説という内容です。
前半を簡単に言うと、作家が名作児童文学をどう読んできたか、でしょうか。薄暗くひっそりと誰も注目しない舞台袖…いかにも吉田さんらしい着眼点です。そこに想いを馳せて想像するんですね。
繰り返し読んでも新たな発見があり、舞台袖の空想はどこまでも広がります。物語の一場面を取り上げ、創作と書評がセットになり吉田ワールドを醸し出しています。
4つの舞台袖の共通テーマは"時の流れ"でしょうか? 児童文学はとても奥深く、大人になって再読つまりは時間が経過すると、物語の語られていない余白の捉え方は変わるのですね。吉田さんのこれら名作への愛情が感じられます。
時の流れに左右されないもの、時の流れで新たな価値がつくもの…、やはり物語の面白さはその辺にあるのでしょう。余白の成せる故かもしれません。
物語はどんどん連なり、余白はどこまでも続きます。再読でも初読でも、名作の味わい方を教えられた感覚です。
後半の小説「エデンの裏庭」は、かつての未刊作品の幻のタイトルとのこと。時を遡って場所につながる物語の構成は、前半の舞台袖と見事に呼応しており、響き合う形になっていて味わい深いです。 -
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東京に住んでいるのもあって、タイトルに惹かれて読んだ一冊。
タイトルにぴったりで、夜のベッドでゆっくり読むのにちょうど良かった。
連作短編集で、実は全て同じ東京の夜、一つの小さな食堂を介して登場人物たちの物語が静かに繋がっていく仕掛けが素敵。
登場人物が多いので、最初は誰が誰だか忘れて何度も前の方に戻ったりしたけど、それもこの作品の楽しみ方の一つなんだと思う。何周か読み返しながら味わう作品。
文体がとても読みやすく、すっと心に馴染む。
何か特別な事件が起きるわけではないのに、人々のささやかな日常がとても羨ましくて尊く感じられ、読んでいる間ずっとほっこりした気持ちになった。
東京の夜にぴったりな、優しくて温かい一冊。 -
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200年前に川に鯨が迷い込んだと言い伝えられる町で流星新聞を編集・発行している太郎と、町に住む様々な職業に就くユニークな住人たちとのあたたかな交流を描く連作短編⸺と思いきや過去のとある事件による仄暗い影があったり、それぞれの住人の抱える悩みや秘め事があったりと、どこか不思議で詩的なおとぎ話のようなストーリー。
最終話でこれまでの話がきれいに繋がって、これまたきれいな大団円。ピアノの静かで優しい音色が聞こえるようなあたたかい締め括りにしみじみと湧き上がるような静かな興奮を覚えた。
既に本棚に続編がスタンバイしているので、そちらも近々読む予定。
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『おやすみ、東京』は、夜の東京を静かに散歩しているような気分になれる物語でした。
登場する人たちはどこか孤独で、でも完全に絶望しているわけではなく、日常の隙間に小さなぬくもりや希望を見つけている。その距離感がとても心地よいです。
何気ない風景や会話が丁寧にすくい取られていて、「東京はこんなふうに息をしているのかもしれない」と思わせてくれます。
この作品は、元気をもらうための本というより、疲れた心を静かに休ませてくれる本だと思います。タイトルの「おやすみ」という言葉どおり、一日の終わりや眠る前に読むと、世界が少しやさしく見えるかもしれません。
夜は何かを解決してくれるわけではないけれど、「そのままの気持ちでいていい」とそっと許してくれる時間を与えてくれます。