半年前に読んだ「流星シネマ」の続編。
前作の最後にチラと出てきたオーボエ奏者・サユリさんを中心に語られるお話。
しんみりと確かな文章で綴られたお話にはたくさん感じるところがあった。
団長がいなくなり練習場所もなくなって、〈鯨オーケストラ〉は自然解消になった状況の中、寄る辺なくガケの上にある古いアパ
...続きを読むートの屋根裏に引きこもっているサユリさん。
その孤独な心情や切なさや淋しさや不器用な生き方が、自分の分身というか心の中のツッコミ役・チェリーとの会話も交えながらゆっくりじっくり描かれる。
サユリさんに付かず離れず、自由に現れては消えて、サユリさんの心に刺さる、チェリーの存在が自然でとても良い感じ。
チェリーとの会話でサユリさんの心の中の蓋が溶かされて、心の底にある人とのつながることや一緒に活動することへの渇望が少しずつ表に現れだす。
過去にとらわれながら『未練が過去にではなく未来に向けて自分を動かすきっかけになる』と開き直って、一歩踏み出した時のチェリーのゆくえに、その泣き笑いの感情が心に沁みた。
サユリさんとまた出会うことになる太郎君。それにミユキさんにゴー君、バジ君に丹後さん…、前作でお馴染みの人がまた顔を揃える。
前作での太郎君のサユリさんへのインタビューをハブにして2つの話を行き来するような作りは、前作を思い出しながら本作にも前作にも新しい視点が加わるような感じで面白く読めた。
太郎くんの詩やミユキさんの美術館でのエピソードには、ゴー君も含めて彼らの心の中に出来た空洞の存在を改めて思わせて切なく、サユリさんにとっての伯母さんや幼い頃の友人の記憶ともつながり、大切な人に『もういちど会いたい』というそれぞれの心の重さが知れたのだった。
チェリーはcherryではなくcher-ee。
「チム・チム・チェリー」の哀愁を帯びたメロディが、この作品のトーンに似つかわしく、ずっと頭の中で鳴っていた。