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僕は、町のローカルラジオ局で、深夜の番組を担当している。ある日ラジオで、十七歳の時に絵のモデルをしたことを話したところ、リスナーから、とある美術館で、僕によく似た肖像画を見た、と葉書が届く。そこから導かれるようにして、僕の時間は動き出した──。土曜日のハンバーガー、流星新聞、キッチンあおい、行方不明の少年、もぎり嬢の多々さん、鯨オーケストラ……時間も空間も記憶も越えて、すべてがつながっていく、小さな奇跡の物語。
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Posted by ブクログ
「流星シネマ」「屋根裏のチェリー」に続くお話。 文庫になるのを待っていたはずが、そこから5か月経ってようやく手にした。 河口にある町のローカルラジオ局で深夜の番組を担当している曽我くん。彼のおしゃべりと同じく、静かでおだやかでゆっくりと進む話の佇まいが良い。 ある日ラジオで、17歳の時に絵のモデル...続きを読むをしたことを話したところ、リスナーから、とある美術館で出会った一枚の絵の中に写真で見たあなたによく人がいた、と葉書が届く。 そこから話は動き出し、『「アキヤマ君――ではないんですよね?」』『クラリネットを吹ける人、探しています。』『ソガ君、ひさしぶり。』…、ページをめくるたびにいちいちびっくりしてじんとする、不思議な縁が繋がっていく。 ミユキさん、サユリさん、太郎君、カナさん…、曽我くんが出会う人たちには、私も懐かしい人に再会した感じ。 鯨の骨が浮かんでいるチョコレート工場がある町で、それぞれに喪失を抱えた人たちが新しい出会いによって心のわだかまりを解し、新たな関係を紡ぎ出していく姿がとてもいとおしかった。 海の深いところから少しずつ海面へ向かっていき、より広い、より明るい空間へ抜け出て行こうとする意思を感じさせる、曽我くんが訪れた美術館の展示が素敵で印象的。 G線上のアリアの『何か神聖なものに引き込まれていくような』あるいは『自分がゆっくりと前へ進んでいくような』旋律が、この物語によく似合っていた。
『流星シネマ』、『屋根裏のチェリー』に続く3つ目の物語。 主人公は、町のローカルFM局で深夜の番組を担当する曽我哲生。 これは、彼が17歳の頃、古びた映画館〈銀星座〉で働いていた多々さんに描いてもらった絵が導く、奇跡のような出会いの物語です。 巡り巡ってたどり着いた場所は、イトウミユキさんが営む...続きを読むロールキャベツが美味しいお店〈キッチンあおい〉。 そして、彼女の傍らにいたのはサユリさん。 サユリさんに連れて行かれたチョコレート工場。 〈流星新聞〉の羽深太郎…。 懐かしさがこみ上げてくるとともに、3つの物語が一つに合わさって、壮大な物語になっていきます。 大きなもの、(例えば鯨)に飲み込まれるような、ゆったりとした感じがとても心地よかったです。 まるで音楽を聴くように途切れることなく、登場する人たちとともに物語を楽しむことができました。 川を埋め立てて作った遊歩道。桜並木。 この鯨の眠る静かな町に訪れる日が、再びやってきますように。
ハンバーガー食べたい。 全部が全部都合よく繋がっていくーって感じじゃなかったのが凄く良かった。 ハンバーガー食べたい。
鯨の絵も見てみたいし、土曜日のハンバーガーも食べたい!これでいいなぁって思える、味方になってくれる本だった!
三部作『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』『鯨オーケストラ』の最後。 書き出しは 「人は皆、未来に旅をする」 前2作に登場していなかった曽我哲生が主役。 『屋根裏のチェリー』より、さらに先の様子が描かれる。 『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』での出来事がいくつも曽我と密接に結びついていた。 太郎...続きを読むの幼なじみであるミユキが惹かれた絵のモデルが曽我だった。 この事実を知った曽我は〈定食屋あおい〉でミユキと出会うことになり、サユリの作るハンバーガーも口にする。 そして、店に貼ってあったクラリネット奏者募集のチラシを目にする。 曽我はジャズ演奏のクラリネット奏者でもあった。 曽我の絵を描いた画家の女性とは長年音信不通だったが、あだなが〈鯨〉という音楽家と結婚していた。 それを聞いたサユリは、かつての「鯨オーケストラ」の指揮者だった「鯨さん」かも知れないと会いに行く。 その音楽家は、7人の子どもに楽器演奏を教えていて、子供たちの楽団の名前は〈鯨オーケストラ〉だった。 サユリが復活させようとしている「鯨オーケストラ」は、復活ではなく新しい楽団としての姿が見えてきたところで物語は終わる。 この三部作は、一冊の本にしたらタイトルは『鯨オーケストラ』がふさわしそうだ。 だが『屋根裏のチェリー』で終わっていても成り立つし、さらに続編があってもいいような物語だと思う。
音楽と絵画の、「時間」の感覚の違いに関する部分がおもしろかった。 描かれたものの、存在の仕方。 不思議な展開で進む物語でした。
偶然似た人と出会い、結果人違い。でもそれが縁を作る。ここに著者のこだわりを感じる。なぜか?理由はミユキさんの言葉=「人と別れるのは自分で決められるけど、誰かと出会うのは自分で決められないのよ。つくづく、そう思う。だから、人生は面白いんだって」重みのある人生論。でもほのぼのとしてていい。
さて、3部作の最後の主人公は、川に流されて子どものときに亡くなったアキヤマくんならぬ、曽我さんである。 三部作の第1作『流星シネマ』は「すべてのことは死に向かっている」で始まるのだけど、この第3作の最後では、サユリさんと曽我さんが合奏を始めるシーンで終わる。クラシックのサユリさんと、ジャズの曽我さ...続きを読むんという「まったく違う道を歩いてきた二人だからこそ、そんな二人が音を合わせることで、わたしたちがまだ知らない、あたらしい音楽を作り出せるような気がするんです」。 そして、「真っ白な空間に、はじまりの合図の『ラ』の響きが鳴り渡った。」という希望に満ちた文章で幕を閉じるのだ。 まったく異なる人間が結婚して子どもを産むような。 すべての人は死に向かっているけれど、こうして再生していくのだというような。 ぐっときた箇所。 p165「つまり、僕の場合で言うと、『詩を書く太郎』と、『詩を書かない太郎』っていうふたつの太郎がいるわけです。で、これまでは完全に『書かない太郎』だったわけですが、このままだと、一生、『詩を書かなかった太郎』として人生を終えてしまうと思うんです」 (略) 「もしかして、すべてに言えることですよね」 (略) 「詩を書くとか書かないとかじゃなく、これまで一度も経験していないことに、『いまこそ挑戦してみなさい』と言っているんです。詩を書くことは、そのひとつに過ぎなくてーーたぶん、なんでもいいんです。たとえば――なんだろう――ギリシア料理をつくってみるとか、野菜を育てて収穫するとか、セーターを編んでみるとか――あとは何でしょう――そう――ハモニカを吹いてみるとかね。どれも、自分にとっては思いもよらないことだけで、どれも、さぁ、やってみようと思い立ったら、すぐに始められます。そう思ったら、どうして自分はこれまでハモニカを吹いたことがなかったのかなって――やろうと思えば、すぐに出来るのに――なんと、もったいないことをしているんだろうって」 わたしはこれを読んで、「英語」が頭に浮かんだ。英語を話さない自分で一生を終えたくなかった。話してみたかった。そして学習を継続して8年以上、まったく流暢ではないけど少し話せる人になった。 あと最近興味が出てきた樹木。いろいろな木の樹皮を見て、触ってみている。この間もクスノキに初めて触れた。意外とふわふわだった。桜の木のように硬くない。触ってみなくちゃ一生わからなかった。樹皮に注目して触れてみるなんて、今まで考えもしなかったこと。 p171 「自分はこれまでの人生で、電信柱に触れたことがあったろうかと考えた。 あるいは、遊歩道に立ち並ぶ桜の木に触れたことはあったろうか。 (一度くらい、あるんじゃないか?)とは思う。でも、自信がなかった。 (略) もし、一度も触れたことがなかったら、天国へ行ったときに、それらはことごとく実態を失ってしまう。触れたくても、もう二度と触れることは出来なくなる。」 この間わたしは30年ぶりにバイオリンを再開した。やろうと思えば意外とすぐにできてしまった。考えてみれば、世の中はそんなことであふれている!! いろいろなことに手を出すことを、どれも中途半端に終わるのではと批判する向きもあるけれど、経験したことだけが天国に持っていけることなのだそうだ。なんでもやってみるのはいいことだ。 ほかに印象的だった箇所。 p51 「音符をなぞるだけでは駄目なのだ。楽譜のことは忘れて、たったいま自分が思いついたことを誰かに伝えるように奏でるといい」 そうすれば、たとえ、楽譜どおりの旋律でなくても、メロディーが伝えようとしていることは、その音を聴いた者に伝わるはず――。 p193「そうなのかもしれません。時間は過ぎていくのではないのです。どこかへ消えてしまうわけでもありません。すべての時間は自分の中にあり、それが少しずつ積み重なっているんです。 (略) 年齢はただの数字でしかありません。 たまたま、一番上のカードに「17」と書いてあるだけで、その下には十六枚のカードが重なっています。その十六枚がなければ、「17」は成立しません。積み重なった17枚のカードすべてがそのときの年齢なんです。」
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鯨オーケストラ
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