吉田篤弘のレビュー一覧
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万年筆のインクを集めている。
昨今、たくさんのメーカー(や個人)がご当地インクやコンセプトインクなど、とにかく数えきれないほど出しており、まさに百花繚乱の状態だ。
中でも人気はやはり青系インクなようで、たぶんバリエーションは一番多いのではないか。
水のように澄んだライトブルーから、夜の底のように深い深く、星さえ見えない日のブルーブラックまで。くすんだ青、煌めくラメの混ざった青。
この世に青いインクはどれだけの数あるのだろうか(これを書いている今も新たな「青」が誕生しているかもしれない)。
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この世で一番美しい「青いインク」の物語、そのはじまり。
「月とコーヒー」で書かれていたインクはこれか。
これはインクが主役(と言っていい)の物語。
失われたインクを求めて旅に出る少年と彼を取り巻くさまざまな人たちとの交流が描かれる、どこかわからない不思議な世界。
世界のあらゆるものを収蔵する博物館で仕事をする少年。彼はリアルで地に足つけた社会には居場所がない子どもだ。
博物館での仕事は彼のための世界だったけれど、彼に仕事を教えてくれた"師"ともいえる人がある日突然亡くなってしまうところからストーリーは始まる。
彼は仕事を引き継ぐことになるのだが、これまで記録のために使われていた青いインクが尽きてしまったことを知る。ストックもない。けれど、この記録をするのはそのインクでなければならないのだった。
自由人の叔父とともに、インク工場があったという小さな町への旅に出る少年。テレパシー?で彼と会話する謎の少女。なぜだかわからないが彼を追いかける刑事。続きがとっても気になる(たぶんハードな話にはならないはず)。
どこのものでもない、不思議な世界の物語。
どこのものでもなさそうな名前のひとたち。
優しく温かく、なにかどこかの星の光景をスノードームの外側から眺めているような、滋養に満ちたスープのような、そんなお話だ。
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さて、万年筆インクの楽しみは、書くこと以外にもいろいろあって。
特に(何の役にも立たないが)楽しいのが「滲ませる」こと。ペーパークロマトグラフィー的な感じでインクを水で滲ませると実にたくさんの色が含まれていることが実感できる。似た色だと思っていたインクの中にまるで異なる色が含まれている驚き。
筆を洗ったあとに拭いたティッシュペーパーについたインクの残りとか、えも言われぬ美しさですよ。未体験の皆さま、ぜひ一度。 -
Posted by ブクログ
「流星シネマ」「屋根裏のチェリー」に続くお話。
文庫になるのを待っていたはずが、そこから5か月経ってようやく手にした。
河口にある町のローカルラジオ局で深夜の番組を担当している曽我くん。彼のおしゃべりと同じく、静かでおだやかでゆっくりと進む話の佇まいが良い。
ある日ラジオで、17歳の時に絵のモデルをしたことを話したところ、リスナーから、とある美術館で出会った一枚の絵の中に写真で見たあなたによく人がいた、と葉書が届く。
そこから話は動き出し、『「アキヤマ君――ではないんですよね?」』『クラリネットを吹ける人、探しています。』『ソガ君、ひさしぶり。』…、ページをめくるたびにいちいちびっくりしてじんとする、不思議な縁が繋がっていく。
ミユキさん、サユリさん、太郎君、カナさん…、曽我くんが出会う人たちには、私も懐かしい人に再会した感じ。
鯨の骨が浮かんでいるチョコレート工場がある町で、それぞれに喪失を抱えた人たちが新しい出会いによって心のわだかまりを解し、新たな関係を紡ぎ出していく姿がとてもいとおしかった。
海の深いところから少しずつ海面へ向かっていき、より広い、より明るい空間へ抜け出て行こうとする意思を感じさせる、曽我くんが訪れた美術館の展示が素敵で印象的。
G線上のアリアの『何か神聖なものに引き込まれていくような』あるいは『自分がゆっくりと前へ進んでいくような』旋律が、この物語によく似合っていた。 -
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ねじりドーナツのような旅が終わり、オリオは少し大人になったように思いました。
この巻で、一気にココノツのことが気に入ってしまいました。彼女が抱えているものが知れたからだと思います。髪型が個性的で、イラストもとてもかわいいのです。
電球交換士のトビラさんは、またまたいいところで登場してくれました。
ベルダさんの死因は、トカイ刑事が知らせてくれました。〈六番目の青いブルー〉が作られた理由、21番まである唄の謎には、アリアドネの真っ赤なリンゴに導かれるように、オリオと叔父さんとココノツがたどりつきました。
人生とは、引き継いでいくこと
引き継ぐとは、その人の思いと自分の思いがひとつになること
悲しさのかたまりは、時々溶かされて涙になる
悲しみに終わりが来ても、大切な記憶はあなたの中できっと残される
この世界は嬉しいことと悲しいことを繰り返しながら回り続けている
多くのメッセージを受け取ったように思いました。「信号が青に変わった。」という、意味を含んだ最後の一文など、お気に入りの表現も多かったです。
巻末のオリオと叔父さんとココノツ、そして終列車が並んだイラストも、とても素敵でした。絵はがきサイズにしたものがあれば飾りたいな、なんて思いました。
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引き続き14歳のオリオと叔父さんとオリオにだけ声が聞こえるココノツとの旅が、描かれていました。個性的な人達と出会いながら、〈六番目のブルー〉のインクの手がかりが、つかめてきました。〈五番目のブルー〉こそが1番だと思うハルカ、もしくはカナタの時計で不思議な力が働き···という感じで終わってしまいました。
21番まである唄が手がかりとなり、世界で1番美しいブルーを作ることができるのか?
〈いつのまにか〉が、果たして味方なってくれるのか?
これからどうなるんだろうと、またワクワクしてきました。
今回もたくさんの個性的な登場人物が楽しませてくれました。そして、「それでも世界は回っている」ことの意味が少しわかったような気がしました。おいしそうなオイスターシチューにも魅せられ、自分の両親が食したものに想いを馳せたりしました。
また物語の続きが楽しみになりました。 -
Posted by ブクログ
落ち着いた深い紺色の表紙で、少し小ぶりなせいか、手にしっくりくる感じの本です。
〈奇妙な惑星〉という名の博物館で、その保管室のベルダさんの助手として働く14歳のオリオさん。ベルダさんが使っていた〈六番目のブルー〉のインクを求めて、叔父さんとの旅が始まったところまでの物語でした。
マリオが淹れたコーヒーを飲みながら、この物語を読んでいる自分を想像をしてみたり。私にとっては、大好きな吉田さんの世界に浸った癒しの読書となりました。
さりげなく『電球交換士の憂鬱』のトビラさんが、登場していました。それだけでも、とても嬉しくて、先に読んでおいてよかったなと思いました。
トカイ刑事、オスカー商會のアクビさん、ココノツ、トビラさん、オーネスト館長、マリオ、ジャン叔父さん、車のメンテナンスをしてくれたハルマさん、時計屋のエブリ、ダイナーの店主サル、サルの父親ウルフ、サルの叔母さんミランダ、ミュージックホールを経営しているソシオさん。登場人物全員がなにかを秘めている感じがしました。
ベルダさんのことの真相は何なのか?
〈6番目のブルー〉と呼ばれるこの世でいちばん深い海の底の青色のインクは、手に入るのか?
それでも世界は回っている。というタイトルの歌詞が存在したこと、その歌を知っていたのは、誰なのか?
など、これからが気になることだらけでした。
何度も出てきた、「それでも世界は回っている。」この言葉だけで、様々な思いが巡りました。
続きが楽しみです。
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やっぱり、ジャン叔父さんの探している唄と、オリオの探す〈六番目のブルー〉は繋がっていた。
そしてこの第3巻では、旅に同行していなかったココノツが大活躍する。
本を初めて開いた時、結末を迎える第3巻のスピンが何故赤色なのかなーと思っていたけれど、きっとカナタさんが落とした林檎の赤色だ。
ミランダさんの長~い唄にも、ちゃんと林檎が登場していたことを、ココノツがつきとめる。
♪
いいかい、みんな。
本当の深い青を知りたいのなら、
そのかたわらに、
本当の真っ赤な林檎を並べてみることだ。
♪
〈六番目のブルー〉を求める旅は、悲しみを受け入れ、この世からいなくなってしまった人たちへ想いを馳せる時間を持つことだった。
それが、〈六番目のブルー〉を生み出すことに大きく関係していた。
師匠のベルダさんを亡くしたオリオは、どのように悲しみを受け入れ、その悲しみはどのように昇華されるのか。
そして〈六番目のブルー〉誕生の秘密とは?
第1巻のスピン。
あの色は〈六番目のブルー〉なのかもしれないと思っていたけれど、あるいは「五番目のブルー」なのかもしれない。
「この世って、うまいこと出来ていて、終着駅っていうのは始発駅でもあるのよ。そこで、すべての列車は折り返して、また出発するの。」
「同じものをもとめるから、競い合う。敵になる。だけど、同じものをもとめているんだから、そいつこそ、俺といちばん分かり合える奴かもしれないんだ。」
「引き継ぐというのは、きっとそういうことだ。その人をそっくり真似るのではなく、その人の思いと自分の思いがひとつになることを云うのだ。」
「人と人はすぐ隣にいることで絆が深まっていくように思う。でも、遠く離れることで、より親密になることもある。」
別本で『電球交換士の憂鬱』という作品がある。
『それでも世界は回っている』に登場するトビラさんが主役なのかな?
こちらもいつか読んでみたい。
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『流星シネマ』、『屋根裏のチェリー』に続く3つ目の物語。
主人公は、町のローカルFM局で深夜の番組を担当する曽我哲生。
これは、彼が17歳の頃、古びた映画館〈銀星座〉で働いていた多々さんに描いてもらった絵が導く、奇跡のような出会いの物語です。
巡り巡ってたどり着いた場所は、イトウミユキさんが営むロールキャベツが美味しいお店〈キッチンあおい〉。
そして、彼女の傍らにいたのはサユリさん。
サユリさんに連れて行かれたチョコレート工場。
〈流星新聞〉の羽深太郎…。
懐かしさがこみ上げてくるとともに、3つの物語が一つに合わさって、壮大な物語になっていきます。
大きなもの、(例えば鯨)に飲み込まれるような、ゆったりとした感じがとても心地よかったです。
まるで音楽を聴くように途切れることなく、登場する人たちとともに物語を楽しむことができました。
川を埋め立てて作った遊歩道。桜並木。
この鯨の眠る静かな町に訪れる日が、再びやってきますように。