町屋良平のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
小心者の駆け出しボクサーの心情の推移を描く。
◇
自分の才能への懐疑や負けることへの恐怖を小手先でごまかそうとしていた小心な「ぼく」だったが、ある日、先輩ボクサーのウメキチが「ぼく」のトレーナーに就任する。
半信半疑でウメキチの組んだメニューをこなしていったところ……。
2019年芥川賞受賞作品。
* * * * *
小心者のボクサーだったはずの「ぼく」が、ウメキチという先輩ボクサーとの出会いによって変わっていく様子が面白い。
トレーナー・ウメキチのトレーニングメニュー。「ぼく」用に考えられたものではあるのだけれど、がむしゃらに取り組む気になれ -
Posted by ブクログ
淡い色の金平糖を常温の水に入れて優しく転がしたような、物足りない甘美さのある一冊。小説ってこういうのだよなぁと思った。意味分からんところとストーリー性の比率が自分にとってはちょうど良かった、なんというか曖昧さとか不明瞭さが邪魔になってない、ちゃんと余韻になっている。登場人物のすべてを簡潔に説明しなくたっていい。そのバランス感覚が肌に合う。
恩田陸の「蜜蜂と遠雷」を思い出したけど、ピアノってほんと小説に向くなぁ。どちらもピアノ奏者を介して、あらゆる表現のスペースを獲得しているというかなんというか…誰かや何かを宿らせたり人格憑依させるの、RPGにおける魔法のエフェクトみたいなもんで、何か引き込ま -
Posted by ブクログ
ネタバレ「1R1分34秒」と同じくボクサー志望者が語り手。
なかなかよい中編。
ピザデリバリーを喰っちゃう有閑マダムとか、悪い意味で漫画的。
「serial experiments lain」を連想。奥さん米屋ですとかも。
また村上春樹も連想。つまり男性作家の悪い意味での女性幻想。
そして難病美女がタバコを吸って、というのも、また。
なのに、いいんだなあ。やはり、文体だなあ。
そして「人が関連するという事象」が、この小説においては、なんだか、いいんだなあ。
語り方が好きになるから、作者が好きになって可愛く見えてくる。この作風、得だなあ。 -
Posted by ブクログ
前から少し気になっていた作家さん。
好き嫌いが分かれる作品だな、と読んでみて思った。独特とも言えないが少し癖のある文体と平仮名と漢字の絶妙な使い分け。そのせいで読みづらいな、と最初は感じるけれど、私は読み進めていくうちに慣れていった。どっぷりハマったという感覚はなかったけどこういう本もあるんだ、というような、新しい音楽のジャンルを発見したときのような喜びがあって、それがこの本への抵抗感を薄めてくれた。文章自体も小難しさがなくて分かりやすいから物語もすんなり流れ込んできて、いつの間にか読み終わっていた。
ボクサー志望の秋吉、友達のハルオ、ハルオの彼女のとう子、ボクシング仲間の梅生、そして夫子のい -
Posted by ブクログ
主人公は21歳のプロボクサー。デビュー戦をKOで飾るが、その後の戦績は思わしくない。やたらと内省的で、彼の思考がぐるぐると、あえての(多分)わかり辛い文章によって、延々と続いていく。
ボクサーってもっと野心家というか、「成り上がってやるぜ」「絶対勝つぜ」みたいなギラギラした目付きの人たちだと思っていたが、もちろんそれは勝手なイメージで、彼のような内省的、考えすぎなキャラだって居るのだろう。負けが込んで、自らの能力の限界が見え始めたら尚さら。
しかし、3敗目を喫し無力感に陥っていた彼の前に新しいトレーナーのウメキチが現れる。このウメキチの関わり方が心地よい。本人を否定しないし、よく見ている。