町屋良平のレビュー一覧
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ネタバレ特に印象に残ったのは、衿さんの留学が決まりお別れする場面。なんかしみじみとさせられいつも以上にゆっくり噛みしめ、もう1度さらにゆっくりと読み、その画を思い浮かべ、すぐ横でその場面を見ていたかのような感覚がするぐらいにまで入り込んでいた。
そこからまさか刺されるだなんて…落命しないでくれと心の中で声に出したりとすっかりここでの生活の住人になった気分だったが、まさかそこからCIを初め、失踪し、総合格闘技にまで話は及び『!』と『?』を何度も味わいながら迎える終盤のグルーヴ感とそのピーク感には、これは幸福の最高値を塗り替えたのでは?と思ったほどでした。大満足! -
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21歳のプロのボクサーの一人語り。自分の状況を見つめながら、相手を想定しながら、どう戦うのかを思い巡らしながら、ボクサーの日常の生活やトレーニング、減量の方法などを語る。あくまでも戦う姿勢を堅持している。ぼくはデビュー戦でKO勝ちした後は勝てていない。敗者の言葉が連なる。そして、言語化できるものを言語化して表現する。結構タフな文章の構成の仕方がある。戦いのシミュレーションが構築されていく。しかし、勝てない。勝てないが故に、なぜ負けたかを分析する。負けるにはたくさんの原因がある。戦うのは、自分であり、実に孤独な戦いでもある。メンタルは自分で強固にするしかない。ここまで、緻密に語るには、自分の体
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ネタバレシニカルに空気を読み合う高校生たちの物語と思っていたら(それだけでも十分読みごたえはあった)、映画やテレビ番組の出演経験のある2人の高校生が互いの役割=意識を交換させた経験をきっかけに、後半、立川と砂川の戦争記憶にかかる演劇の準備が始まるところから急にドライブがかかりはじめる。
墜落したB29の搭乗員と市民が集団リンチの末に殺害したという事件をモチーフに作られた演劇が、高校生たちに達成感と一体感、バラバラになった家族を再び結びつける機会になった、という展開ならよくできた(しかしありきたりの)メロドラマになるが、「演じること」の内と外との境界を問い続けた不穏さは、この演劇が、仕掛け人であり座長 -
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表題作の「青が破れる」に「脱皮ボーイ」「読書」の短編、さらに「青が破れる」のマンガ、尾崎世界観との対談も併録された短編集。
何はともあれ、「青が破れる」である。文庫の紹介文に文藝賞の際の評価なんだろうけど、藤沢周、保坂和志、町田康が絶賛したこともわかる佳作。
文章の長短、リズムの変化、淡々とした描写など、作者が小説を使って新たな表現というか体験を描こうと模索していることがよくわかる。それは例えば次のような文章に表れていると思う。
「ハルオの彼女は、「ボクシングやってるの?」とはいわなかった。/「はー、空がたっかー」/といった。」
「夏澄さんに/・・・・・・ きて/とまたいわれ、夏澄さんちにい -
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読書開始日:2022年4月7日
読書終了日:2022年4月8日
所感
憧れと嫉妬って紙一重だけど、
その一重部分を表現するのが本当に上手いなと思う。
ただただ憧れてなにかを諦めるわけではなく、かといって嫉妬をガソリンにして、粘るわけでもなく、憧れに対して爽やかに近づく姿勢。
自分は各作品の主人公に憧れる。
本作も好きな作品だった。
楽譜や音楽の新たな一面も見れた。
筆者からは芸術の色んな面を見せてもらっている。さまざまなものに興味を持つ。
一番好きなシーンは、ショパコン当日の名古屋の喫茶店で、潮里と源元の完璧なカップル感に、きちんとぜつぼうできたこと。
なにかの天才が宿った瞬間だった。
天才の -
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読書開始日:2022年3月2日
読書終了日:2022年3月3日
所感
とても好きな作品。
装画通りの読後感。
インドが一瞬でも舞台になる作品はなぜか自分の中で外れがない気がする。
岳文がかなり拗らせてる。
でも自分と重なる部分は沢山ある。
さも自分しか考えつかないような思想を神秘に感じ、ひけらかしてしまう感じなんか特に。
冬実の岳文への一言は完全に自分へもぶっ刺さった。「女のこの言外のかしこさを、舐めたらだめだよ。あなた程度の神秘なんて、みんなすぐにわかる、でもことばにしないだけ」
惚れた女のこにたびたび水に落とされる部分もわかる。本当は落とされていないんだろうけど、岳文の記憶の脚色。
ずぶず -
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他人と自分は絶対的に違い、思考は共有できないということ。
さらには、自分の思考さえ人は言語化できないということ。
それでも、ひとは「バラバラのまま重なり合える」ということ。その美しさ。涙が出るほどの、美しさ。
この小説のやっていることは、星野源が「うちで踊ろう」で提示した世界の美しさと同じだと思う。
それぞれの登場人物の思考が、明確な区別なく、入り乱れる構造をとる本作。それぞれの思考は言語化されているようでありながら完全には言語化されえず、その人物自身にもその正体は把握できないし、まして他人にそれは絶対に伝わらない。
しかし、明確に違う人たちが同じ世界に同じ時間を生きて、四季が過ぎていくと -
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町屋さん、芥川賞受賞のボクシング小説
プロボクシングの試合って、独特だ
何ヶ月も準備して、命を文字通り削って試合をして、それまでの準備の全てが、たった数分の試合で試される
だからこそ、負けの記憶は全ての否定として残る
だからこそ、勝負に上がることはとても怖い
その全てを、曖昧化した主人公の一人称で描き切った筆力
気がついたらのめり飲まされるリズムよい筆致
ウメキチや友達との奇妙な関係の魅力
なにより、「ぼく」自身の弱さと強さ
これはボクシングなんてやったこともない読者を問答無用でリングにあがらせ、己の生き方を問わせる(こういう比喩をすると友達に怒られる!)暴力的な作品
なんと曖昧で鮮やかな -
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刊行当時、出版社の営業から珍しく営業がかかったことを覚えている。私はウェブマガジンの編集者だった。
町屋良平の過去作と比べることが許されるなら、この作品は、なんというか当人の「湧き上がる文学的な衝動」(という嘘くさくて軽薄な言い方は極めて失礼と承知)とか、だいたいそれに類する、有り体に言えばモチベーションの種類が異なっていてで、外的要因によって企画され、細やかな取材やリサーチによって固めあげられた作品なのかな、という印象をなんとなく、だかしかし強く受けた。なんでこの作品はこんなに固有名詞が多いのだろうか。
『しき』にあった福原鈴音のピアノコンクールの場面や、描かれなかったプロセスを、拡大し