〇 評価
サプライズ ★★★★☆
熱中度 ★★★★☆
インパクト ★★☆☆☆
キャラクター ★★★☆☆
読後感 ★★★★★
希少価値 ★☆☆☆☆
総合評価 ★★★★☆
浜宮絵梨子による社内でのいじめと鮫島親子による恋愛工作の2つのエピソードがメイン。それ以外にもラテラル・シンキングについてのエピソードやちょっとした雑学がちりばめられている。αシリーズの最終巻として読者サービスがびっしりという印象。熱中度は高く、最後まで楽しく読める。
鮫島親子の企みがコミカルに描かれており、ラストの作品としては謎がやや小粒かな…と思っていると最後にひっくり返される。鮫島基成は単なるバカ息子ではなく、恋愛工作の全てが暴力団から鮫島俊学が愛想をつかされるためにやっていた行為だったとは…。これは全く予想できず。サプライズ感は十分。
とはいえ、それでもやや小粒という印象はぬぐえない。そもそもαシリーズ全般がQシリーズより「人の死なないミステリ」として軽めの要素が強い印象。そのため、インパクトは弱い。キャラクターも、絢奈、能登厦人といった主要キャラクターこそ十分に生き生きしているが、壱条那沖はイマイチ活躍できず。鮫島親子や浜宮絵梨子はそこまで魅力的に描かれていない。
総合的に見るとギリギリ★4というところ。さて、これで松岡圭佑の「人の死なないミステリ」シリーズは全て読破。しばらくは松岡圭佑から離れる予定。
〇 メモ
プロローグは浅倉絢奈のラテラル・シンキングの冴えの紹介のため、能登厦人の指導シーン。それから武蔵小杉での自動車泥棒事件。絢奈はラテラル・シンキングにより、寒い日にキーをつけっぱなしにしているクルマを狙うという犯行方法を看過。鋭い観察眼でキーの隠し場所を見付け、自動車泥棒事件を解決する。
自動車泥棒事件は、塚本組という暴力団のシノギの一つだった。ここから暴力団のシンジケートの話へ。暴力団のシンジケートのボス鮫島俊学は、息子の基成から絢奈と交際できるような工作をするように頼まれる。俊学は塚本組に依頼し、塚本組の幹部である芹沢は、絢奈のツアー中にツアー客の財布がすられるという事件を起こし、これを基成に解決させることで出会いのきっかけを作ろうと計画する。絢奈はラテラル・シンキングにより犯行方法を見抜き、すられた財布の在りかも見つけ出す(犯行方法→リバーシブルのセーターを使ったトリック。財布の隠し場所→窓の開かない特急の中から、連結部のジャバラを切り裂き、車外に財布を出した。共犯者が拾いに行く)。
絢奈は口紅をしていたことから車内にいたシスターが共犯者であることを見抜く。シスターの携帯のメールから黒幕が駿河湾の船上にいることを暴く。絢奈は見事にすられた財布を取り戻した。
絢奈が勤務する派遣会社クオンタムで、エース的存在である浜宮絵梨子は、絢奈が社内でいじめの標的になるように工作を行う。
基成と絢奈を交際させるという計画。昇竜会の最高顧問である磯島の計画も失敗する。クオンタムの職場における絢奈のいじめもエスカレート。基成と絢奈を結びつけるというシンジケートの計画は更に失敗。鮫島俊学自身が乗り込みも失敗する。
絢奈が新人と仲良くなったことなどをきっかけに、浜宮絵梨子の絢奈に対するいじめは失敗に終わる。浜宮は絢奈を泥棒に仕立て上げようとするが失敗。絢奈は浜宮を許す。
シンジケートを構成する各組は鮫島に基成と絢奈の交際に関与することからは手を引くと明言する。
白昼の街中で絢奈は鮫島親子にさらわれる。誘拐され監禁されている場所で絢奈は意外な事実を口にする。「鮫島親子は警察に逮捕されたがっている」と。真相は、基成は絢奈と結婚したいわけではなかった。これらの行為は、鮫島親子がシンジケートを抜けるため、各組に愛想をつかされるためにやっていた行為だった。結婚を目的とする誘拐で逮捕され、前科者になり執行猶予を得る。そうすることでシンジケートを抜けることを計画していた。絢奈はそのことを見抜く。浜宮もラテラル・シンキングで直観的に警察への通報を辞めた。壱条那沖と浜宮が現れる。那沖は、鮫島に、これまでのシンジケートの構成員と悪事をすべて警察にぶちまけるように進言する。そうすることで事実上の司法取引が可能ではないかと伝える。鮫島親子はその選択を決断する。
全国の指定暴力団のうち4分の3が一斉に逮捕されるというニュースが流れる。絢奈と那沖は新居で同居を始める。
エピローグは絢奈の機転でツアー先で窃盗犯を逮捕するというもの。「出会った人を正しい行き先に導くのが、添乗員の仕事だもん。閃きの小悪魔に引退なし」