太田和彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
太田和彦『居酒屋と県民性 47都道府県ごとの風土・歴史・文化』朝日文庫。
新書『日本の居酒屋 その県民性』を、増補、文庫化。
禁酒して8年以上になるが、太田和彦の居酒屋関連のエッセイを読むことは禁じてはいない。
日本全国47都道府県の居酒屋を探訪するなどなかなか出来ることではない。各都道府県の県民性や歴史、文化を紹介しながら、土地の名品や銘酒などが紹介される。各都道府県で紹介される居酒屋は数件程度で、こちらはオマケだろう。
北海道は確かにビールが美味い。海産物などの食材と気候がビールをさらに美味く感じさせるのかも知れない。函館のいかそうめんは美味かったな。
東北はどの県も良い酒があり、食材も良い。故郷の岩手県からは盛岡の惣門、一関の喜の川とこまつが紹介されていた。3店とも利用したことがある。喜の川はお通しが特徴的で常連以外への対応が冷たい感じ。こまつは水山の牡蛎も美味いが、ざる蕎麦も絶品。こまつも先代の時は敷居が高い店で思い立って入れる店ではなかった。
関東はディープな居酒屋が良い。関東の6県はいずれも出張などで宿泊した際に、居酒屋を利用したことがある。特に千葉県は柏市、我孫子市、成田市などの居酒屋にはよく行った。
中部で居酒屋を利用したのは、新潟県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県くらいか。近畿から西には殆ど足を踏み入れたことすら無い。いつかは旅行してみたいものだ。
本体価格800円
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Posted by ブクログ
まえがきに、表題に込めた意図をしたためている。
齢70を過ぎた。仕事、家族、自分の目標等、おおよそ形になった。これから我が人生に残された日々に求めるのは『心の安泰』。その安泰を保つには何かしらの『指標』が必要。その視線に先にあったのは『豆腐』。豆腐はそれ自体でも美味い。鍋には欠かせず、最初は清らかな姿、最後はいろんな出汁を吸って、色を纏い一番美味しい姿に変わる。
それって人間の営みそのものではないか-。『肉はいらないから、残ったその豆腐をくれ!』という人もいる。脇役な豆腐であるが唯一主役を張るのが『湯豆腐』。昆布を敷いた鍋に豆腐を沈め、ことこと煮るだけ。単純ではあるが味は奥深く、食べ飽きない。70歳、これからは湯豆腐だ。
一茶は蛙に、ノムさんは月見草に、市井の人は根性大根に自身の生きる様をなぞらえたり、奮起を促す対象物としてながめる。それは古人がイワシの頭を信心することと同根かも。
さて、本書。
著者も齢74。表題が物語るように著者もいよいよ
『老境』に至り、この手の随筆なら定番の『これまでの来し方』、日々の暮らしでの愉しみ、社会に向けては忌憚の無い意見を開陳、シニア男性には『自立』『ひとり遊び』の稿で『独酌作法』を伝授し、自分を肯定する場所として居酒屋での一人飲みは最適であり、男たるものバーの止まり木でカクテルを飲まないでどうすると扇る…、いつもの居酒屋評論ではない多面的エッセイとなっている。
この中で、興味深く読んだのはシニア男性に向けて『妻離れ』の提言。白洲次郎の夫婦円満の秘訣『できるだけ一緒にいないこと』に倣い、著者は安アパートで良いから自宅近所に自分のアジトを作れ、妻と旅に出ても日中は別行動、夜は居酒屋で一日の行動を報告し合うぐらいが良い。リタイアしたのだから、妻に世話を焼かしてならない。現に著者は自宅から徒歩15分程の場所に職場を持ち、朝9時半〜夜9時まで過ごす。昼夜の食事は自炊。自宅で夫婦で食事するのは年に10回程度。そう、ほとんど別居状態。それが太田家の円満の秘訣と語る。
とは言え、著者の場合、居酒屋評論家の第一人者として執筆依頼も多く、年金とは別の収入がある。
老齢になっても、お座敷(仕事)に声がかかるということは社会との接点があり、適度な緊張感が老化の抑止となる。
結論として、齢70を超えて健やかに生きていくには…
①自身の趣味と飲み代を支える程度の一定の稼ぎ
②身の回りのことは自分でこなす
③ひとり時間を楽しめる趣味と空間
なんだかんだと言っても、結局先立つものの確保に行き着く。仕事を通じて社会との接点を持つことは健康維持にもつながり、趣味や交友範囲が広く行動力のある妻に向ける眼差しも穏やかになり、それは夫婦円満に結びつく。
ここまで書いて頭をよぎるのは『衣食足りて礼節を知る』の諺。繰り返すが、心がけではどうにもならない。肝腎要は『生活の充実』。これが余生をゴキゲンに過ごすことになるってこと。
一気読みの感想が『人はパンのみにて生きるにあらず』の教えに背中を向けるような思いを抱いた一冊。 -
Posted by ブクログ
冒頭から余談をひとつ。太田和彦といえば居酒屋探訪で
あるが、その同一線上にはハンチングを被った吉田類が
立ち尽くす。僕は「人払いの太田和彦」「酒場実況の
吉田類」と見立てている。
太田氏は番組では決まって開店前に収録を行なう。
カウンターの端に座り、地の肴に舌鼓を打ちながら
盃の形状にはじまり店の調度品至るまでを一通り愛で、
やおら店主と対峙する。方や吉田類は居合わせた
客の輪に入り、番組が進むにつれて酩酊度が増し、
お決まりのようにゴキゲンで大団円を迎える。
御両名とも居酒屋道の王・長島のような存在では
あるが、僕は映像もいいが、居酒屋の紹介を筆一本で
その佇まいや酒肴を眼前に立ち上らせる、
太田和彦の活写力に軍配を上げる。
さて本書。今回はいつもの居酒屋探訪ではなく、
京都では木の葉丼やきざみカレーそば、浜松では鰻を
求めてタクシーを飛ばし、神戸では中華屋なのに多くの
客が好んで食べるカレーを、盛岡ではサンマの塩たたき
をアテに地酒を傾ける…。
とはいえ、そんじゃそこらのグルメ紀行には非ず。
いずれの場所でも、料理を遠目で眺めつつ、建築意匠・
名画・美術・陶器…に関する造詣を発動し、薀蓄開陳に
至る。太田氏をして「薀蓄の多い吉田類」といわれる
所以で、この「脇攻め」こそ太田和彦の真骨頂なんですな。例えば蕎麦屋では、「床の間の塗り書院窓は竹林の
透かし木彫、巾着袋をデザインした釘隠しが立派」
といった具合に。
また箴言も横溢。「東京の玉子焼きは玉子を奥から手前に巻き寄せ、京都は逆」。「鰻は焼き鳥じゃないんだから、やっぱり婀娜(あだ)な年増の情けの濃い関東風がいい」。「天ぷらをやたらと塩で食べさせる店があるが、
天つゆにくぐらせて濡らすからうまいんだ」などなど。
齢を重ねると童心に還るというが、本書では居酒屋探訪に見せる、静の太田和彦のなりは潜め、好きに喰わせろ的な意見も吐露したり、居合わせた妙齢の女性にダンディぶりを見せたり、「太田和彦2.0」を垣間見る。
著者曰く「旅は日常を離れるがゆえに心がきれいに
なる」。旅はアウェイ、旅人はよそ者。
だから、急がず、計画を立てすぎず、余白を残す。
これまで経験がその境地を生み出してるんですな。
読み終えてしまう頃には、ああ、旅に出たい!
と強く思わせる肩の凝らない好著。