太田和彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
冒頭から余談をひとつ。太田和彦といえば居酒屋探訪で
あるが、その同一線上にはハンチングを被った吉田類が
立ち尽くす。僕は「人払いの太田和彦」「酒場実況の
吉田類」と見立てている。
太田氏は番組では決まって開店前に収録を行なう。
カウンターの端に座り、地の肴に舌鼓を打ちながら
盃の形状にはじまり店の調度品至るまでを一通り愛で、
やおら店主と対峙する。方や吉田類は居合わせた
客の輪に入り、番組が進むにつれて酩酊度が増し、
お決まりのようにゴキゲンで大団円を迎える。
御両名とも居酒屋道の王・長島のような存在では
あるが、僕は映像もいいが、居酒屋の紹介を筆一本で
その佇まいや酒肴を眼前に立ち上らせる、
太田和彦の活写力に軍配を上げる。
さて本書。今回はいつもの居酒屋探訪ではなく、
京都では木の葉丼やきざみカレーそば、浜松では鰻を
求めてタクシーを飛ばし、神戸では中華屋なのに多くの
客が好んで食べるカレーを、盛岡ではサンマの塩たたき
をアテに地酒を傾ける…。
とはいえ、そんじゃそこらのグルメ紀行には非ず。
いずれの場所でも、料理を遠目で眺めつつ、建築意匠・
名画・美術・陶器…に関する造詣を発動し、薀蓄開陳に
至る。太田氏をして「薀蓄の多い吉田類」といわれる
所以で、この「脇攻め」こそ太田和彦の真骨頂なんですな。例えば蕎麦屋では、「床の間の塗り書院窓は竹林の
透かし木彫、巾着袋をデザインした釘隠しが立派」
といった具合に。
また箴言も横溢。「東京の玉子焼きは玉子を奥から手前に巻き寄せ、京都は逆」。「鰻は焼き鳥じゃないんだから、やっぱり婀娜(あだ)な年増の情けの濃い関東風がいい」。「天ぷらをやたらと塩で食べさせる店があるが、
天つゆにくぐらせて濡らすからうまいんだ」などなど。
齢を重ねると童心に還るというが、本書では居酒屋探訪に見せる、静の太田和彦のなりは潜め、好きに喰わせろ的な意見も吐露したり、居合わせた妙齢の女性にダンディぶりを見せたり、「太田和彦2.0」を垣間見る。
著者曰く「旅は日常を離れるがゆえに心がきれいに
なる」。旅はアウェイ、旅人はよそ者。
だから、急がず、計画を立てすぎず、余白を残す。
これまで経験がその境地を生み出してるんですな。
読み終えてしまう頃には、ああ、旅に出たい!
と強く思わせる肩の凝らない好著。 -
Posted by ブクログ
旅の醍醐味はその土地の旨い物を食べること。それがひとり旅になると、より一層の下調べが必要となる。実際、著書も昼過ぎにホテルに投宿するやいなや、必ず今宵候補の店の下見に出掛けている。その日の珠玉の一杯を求めて準備をはは怠らない著者が、「せめて一週間、仕事も家庭も捨て、単身で一つの町に住んでみよう。一週間、好きなところに引っ越して毎夜酒を飲もう。ささやかな夢の実現だ。行き先は京都に決めた。」と高らかに宣言し、夏と冬の2つの季節に、ひたすら飲んだ食べた異色の京都酔いどれ紀行。滞在中、著者は「昼酒」「寺社巡り」をせず、夜に備える。朝は香り高い珈琲で覚醒し、昼はそばかうどんを胃の腑におさめ、散歩をし、買物をし、ホテルに戻り一休み。日が傾き始めた頃に暖簾をくぐる。毎夜平均<居酒屋2軒+バー1軒>のパターンを忠実にこなす。訪れた店の数51軒(巻末にリストあり)。料理長のお任せで料理が出されるカウンター割烹は1軒も出てこない。高くて7千円程度。単品で注文できるお店ばかり。著者がこれまで何度も訪ねた店では懐かしい話に花が咲き、初めての店では、張りつめた緊張感がみなぎる。次第に美味なる酒肴と程よい酔いが相好をほろりと崩してゆく。そんな様子が紙面を通じて伝わってくる。「京都を『酒』『肴』でめぐる一週間の旅」。ああ、なんと濃醇な時間であろうかと思う。