高橋健二のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『われわれは互いに理解する事はできる。しかし、めいめいは自分自身しか解き明かすことができない。』
本書を読んだ動機はアニメ「Ave Mujica」で主人公の豊川祥子が、社会の歯車に狂わされ、選択を迫られた際に本書を読んでいた描写が存在したからです。
本書では、はしがきに書かれている、冒頭に書いた一文が全てを物語っています。『アプラクサス』という神、すなわち自分自身の心に存在する意志に従え、さすれば何事にも覚悟を持って挑めるだろう、というところでしょうか。
キリスト教圏の絶対的な世界で、密かに神は居ない、自身の内から湧き出る衝動こそが従うべきものだという反キリスト思想に目覚めた主人公シンク -
Posted by ブクログ
『車輪の下』より断然こちらの方が好きと思えるのは歳のせいでしょうか。また、いい作品に出会うことができました。
あらすじ:
「それは私の愚かしい青年時代のもっとも愚かしい日だった」……幼い頃、クーンは音楽に惹かれていたこともあり、父の反対をよそに首府の音楽学校に進学します。しかし、学業の壁に阻まれ、喜びのない日々を過ごして三年、似た境遇にあるリディに恋をします。ある日、仲間とソリ遊びに興じていると、そのリディにそそのかされて急斜面をソリで滑り降りますが事故になります。クーンの左足は不具になり、彼女も去っていきました。
この事故をきっかけに故郷に帰って内省を深めたクーンは、音楽の創作に目覚めて -
Posted by ブクログ
146P
初版発行: 1906年
ヘルマン・ヘッセ(Hermann Karl Hesse, 1877年7月2日 - 1962年8月9日)
ドイツ生まれのスイスの作家。主に詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する文学者である。南ドイツの風物のなかで、穏やかな人間の生き方を描いた作品が多い。また、ヘッセは風景や蝶々などの水彩画もよくしたため、自身の絵を添えた詩文集も刊行している。1946年に『ガラス玉演戯』などの作品が評価され、ノーベル文学賞を受賞した。
車輪の下
by ヘルマン・ヘッセ、岩淵達治
だいたい、ほんとの貧乏人というものは、計画をたてたり、貯蓄したりすることはめ -
Posted by ブクログ
ネタバレ最初から最後まで悲しすぎるというか、切ないお話だった。
表現がとても豊かで詩的。それが心の繊細な部分を正確に表現していて、自分たちも似た経験を一度はしたなぁと共感しながら読むことができる。また、この歳の子供の心理描写や精神面、天才児ならではの苦悩などもリアルで面白い。この気持ちをこのような言葉で表現するんだと感心する場面も多く、語彙力を上げるのにもとてもいい。
ただ、話に救いの場面が少ないところがちょっと辛かった。自分の意志を出す事ができず常に弄ばれる世間知らずの子供。その子供が社会の波に揉まれて成長するお話といえばわかりやすいか。綺麗な表現なだけに、結末は現実的に残酷なところがちょっと皮 -
Posted by ブクログ
何十年ぶりかで再読。実らぬ恋のものがたり、との記憶はとても浅いものだった。
「自分の人生を幸か不幸かと問うのは愚かなことで、「私」には不幸な記憶こそ捨てられない」と言う趣旨の巻頭言に共感するのは老年になったからか。
消えぬ恋情と戦いながら、不幸な結婚に心身を病む女性を節度を保ちながら労る「私」。敬愛する友人に傷つけられ、敵意を抱きながらも、憧れや敬意も蘇ってくる。その才ある友人も奔放な自身の性格に振り回されている。これらが寄せては返す波のように繰り返される。これが人生なんだよ、とばかり。
アリアだけのオペラが無いように、緩徐楽章だけのシンフォニーはないように、幸も不幸も全て必要なことだったのだ -
Posted by ブクログ
ヘッセと言えば「車輪の下」をおすすめ本として登場する。
数冊しか読んでいない彼の作品中では、この本が最も素晴らしさを感じる。
高橋健二訳!この方の訳しかないのではと。
原題「ゲルムート」が一番しっくりくると思う。
もっとも人生を四季でなぞらえると当作の思惟の乱流ぶりは真に「春の嵐」
日本語が素晴らしいだけに、原文独語で読めたらと思うけど。
様々な世代、性のレヴュ―を読むのは面白い。
一本の道しか歩かなかった人、歩けなかった人、また、あえて歩くことを拒否った人、人は実に多様であり、「クーン」の在り様を俯瞰すること自体踏み石的に認識できるのもひそかに面白い
音楽というある種独特の世界で繰り広 -
Posted by ブクログ
総じて、人生経験の中で重要だとはわかりつつも言語化の難しいトピックスを、小説形式で見事なまでにわかりやすく表現している。
知識と知恵は違うという文章が印象的だった。多分、言葉や思想を理屈で理解するだけでなく、実際に行動し体験することで初めて物事を習得することができるという意味。
実生活でも、頭で理屈をわかっているだけな事柄と、実際に体感する程度まで落とし込んだ事柄を比べると、やっぱり後者の方がより人生に影響を与えるからこれは非常に納得。
また、一度落ちぶれて初めてわかる大切さがあるのも印象的。自分も大学時代一度後悔するような生き方をしていた経験があったが、今思えばそれを経験したからこそ、これ -
Posted by ブクログ
感想を書くのが難しい。哲学書寄りだが、小説の域を超えていないのがこの作品の魅力のように感じる。やはり少年時代特有の複雑な心情を描き出すのが抜群にうまい。読者は主人公と一緒にそれをなぞりつつ、各物語を共に体験し、共に考えることで、一緒に成長しているような気分になってくる。そういったさまざまな自己形成の段階を重ね、最後は生きていくことに対して一つの自信、指標のようなものを得られる。これは小説の読書体験として不思議で、そこがとてもユニークで魅力的に感じた。
どうしてこんなに巧いんだと、恐ろしく感じるくらい繊細かつ的確な心理描写で、没入感がすごい。