高橋健二のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
シッダールタ=ゴータマだと思っていたら、そんなことはなかった。全時代のシッダールタさん失礼しました。
本作はどこかで、ヘッセによる東方の神秘を描いた作品、というような謳い文句で紹介されていた。
さて実際はいかがか、と楽しみに読んでいくと、そのエロティシズムと聖人とは程遠そうなシッダールタの所業に、結局ヘッセもヨーロッパ人か…といくらか落胆する。
しかし終盤に差し掛かり、シッダールタが川の声を深く聞く頃から、話に深みが増し面白くなる。
それは作中にもあるように、初めから読んできたからであり、そしてこの私が感じた面白さを真に言葉に表すことはできないのだと思う。
さて、ここまで書いてこの感じ方を馬鹿らしいと思って忘れられる展開が私には面白いのだが、本作は残念ながら馬鹿らしいことを上回る名状しがたい事によって馬鹿では終わってはくれない。そこが残念だ。
そこを、なんと馬鹿らしい!と思われるのが、エブエブなんじゃないかな、と思った。 -
Posted by ブクログ
ヘッセの晩年に書かれた手記をまとめた短編集。
「盗まれたトランク」「中断された授業時間」「幸福論」「湯治手記」「クリスマスと二つの子どもの話」「小がらす」「マウルブロン神学校生」「祖父のこと」「秋の体験」「エンガディーンの体験」「過去とのめぐり会い」「過去を呼び返す」「マルラのために」「日本の私の読者に」を収録。
過去の自分や家族の詩·物語、読者からの声を通じて過去を顧りみるものが多かった。
大作家、それも若き日の苦悩をもって『車輪の下』を書いた著者の考える「幸福」とはどのようなものか、何故それを幸福と考えるに至ったのかが気になり読んだが、後者の問いに関しては答えが見出せず、前者の問いに対し得られた答えも漠然としていた。
また、個人的に「エンガディーンの体験」で垣間見えた、戦争に対する個人の責任という点での著者の考えにも納得がいかず、あまり満足はできなかった。
しかし一方で、幸福論では類まれなほどに美しく卓越した表現でもって幸福を描き、また全編を通じ、年を重ねる中で培った、代えがたいものたちが見え隠れする。私個人の願望に答えてくれるものではなかったが、それでも文学的価値は高いと言っていいだろう。