サラ・ウォーターズのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
下町娘のスウと令嬢モードはそれぞれに追いつめられ、自分の智慧を使って難局をきりぬけていこうとしますが、その先には再会と、とんでもない真実が。スリがでてきたり、出生の秘密がからんだり、本書は「オリバー・ツイスト」との比較がよくなされますが、それよりなんといっても似ているのは令嬢かどわかしがテーマになっているウィルキー・コリンズ「白衣の女」の影響が大。ただ、こうした先行作品よりやたらと面白いのは、これまでタブー視されてきた19世紀末の裏社会・裏文化についての要素をたっぷりもりこんでいること。これが謎をとく鍵にもなっています。サラ・ウォーターズは「半身」も面白いのですが、こちらを読んだ人にはラストがなかばにして見えてしまいます。もし、いずれも読んでいないのなら、とにかく「荊の城」をいきなりよんだほうがよいかも。
-
Posted by ブクログ
2004年の「このミス」「週刊文春ミステリベストテン」で堂々第一位となった人気作。本国ではCWAのヒストリカル・ダガーを受賞。一読おくあたわずとはこの本のことでありましょう。こんなに面白い本は暫く出ないかな、というくらいの傑作。原題は「fingersmith」、スリのことです。下町娘でスリのスウは歳かっこうが似ている令嬢をだましてその財産をだましとるたくらみにひきずりこまれます。箱入り娘でおとなしいけれど知的で冷静な令嬢モードはスウの知らないタイプの人間で、スウは初恋にも似た感情を抱くのですが、計画はどんどん進行します。さてさて。途中で物語の語り手がスウから令嬢モードに変わるのですが、ここからがこの本のキモ。驚愕の真実、疾風怒濤のどんでん返しがこれでもかと。
-
Posted by ブクログ
昔ヨーロッパでの医者の地位は高くなかった.人間の絆でもそうだけど、働かなくてはならない身分であり、客である患者がお金がなければ、たいして稼げない。
主人公はそんな稼げない風采の上がらない医者で、田舎に暮らしている.
その田舎にはかつては名家だったものの戦争を経て暴落した一家が住んでいる.
元々は同僚の担当だったが、偶然治療を行なって訪問するようになる.
子供の時は憧れていたその家族は落ちぶれている.生活のために土地を手放しさらに貧しくなる.屋敷を維持できず、使用人もわずか.
それでも女夫人はかつての優雅さを失っていないように見えるが、医師は不思議な事件や、違和感を感じ始める.屋敷は呪われているのか、というオカルトっぽく誘導されるが下巻ではどうなるのか、楽しみ -
Posted by ブクログ
☆4.0
第一次世界大戦が終わって数年、戦争で父と兄弟を失ったフランシスは、母と二人、男手もなく広い屋敷を抱え苦しい生活をしていた。生計のため断腸の思いで下宿人を募集し、若い夫婦に間貸しすることに。
そこで"運命の人"との出会いがあるとも知らず。
この運命はフランシスを眩しいほどの刺激的な幸福と、この幸福の裏側にある罪悪感を共にもたらし、そして悲劇の夜へと導いてゆく。
上巻は二人の思いが芽生え深まり、形作る様子がたくさんの描写の積み重ねによって記される。
フランシスからリリアンへの思いがどんな感情なのかは、リリアンの仕草や姿態から知らず識らず艶めかしさを受け取るフランシスを見ているとすぐにわかってしまう。
おそらく彼女自身が気づく前に。
そういう書き方がとても巧みな作家なのだろうな。
上巻最後に爆弾が投げ込まれ、下巻から展開はノンストップ。下巻読んでいる間、息つく暇もない。
"緩急つける"というが、言うならば完全に上巻が"緩"で下巻が"急"。本当に最後の最後までどう決着がつくのかわからなかった。
そこに愛はあるのか。そこに幸せはあるのか。
相手の顔も見えないくらいの黄昏に、彼女たちはいる。
-
Posted by ブクログ
19世紀半ばのロンドン、17歳になる少女スウは、下町でスリを生業として暮らしていた。そんな彼女に知り合いの詐欺師がある計画を持ち掛ける。とある令嬢をたぶらかして結婚し、その財産を奪い取るために協力してほしい、というもの。スウの役割は令嬢の侍女。(表紙裏のあらすじより)
というわけで、恐る恐る令嬢のいるお城に入り込み、着々と計画を進めていく。
この本は私のお気に入りに入っていた本で、約10年も前から入っていたもの。
当時どういうわけで、リストアップしたのやらすっかり忘れていたのですが、整理をする前に読んでみようと思ったのです。
あまり期待もせずに読んだのですが、登場人物も少なく大変読みやすく、古い時代の話にもかかわらず、情景がつかみやすく結構面白く読み終えました。
さすがお気に入りに入れただけあるなぁ、なんて思いながら。
そして最後の逆転劇!!思いもよらぬ方向に行きそうな展開。
下巻に続く。 -
Posted by ブクログ
ダフネ・デュ・モーリアの「レベッカ」に勝るとも劣らないミステリアスな物語を読んだ。
19世紀の霧渦巻くロンドンのテムズ川河畔の監獄に収監されているうら若き女性の霊媒。そこを慰問に訪れる貴婦人は老嬢(といっても20代だろうが、今なら普通)、美しくないがゆえに、個性がありすぎるゆえに愛に飢えている。
美しい霊媒の女囚「シラナイ」に傾斜していく。いや、ゆがんだ愛ゆえに嫉妬に狂い、正気を失うヒロイン「マーガレット・ブライア」。
ミルバンク監獄の不気味さに(史実という)ぞっとし、霊媒というまがまがしさに迷わされ、ヒロインと女囚の交互に書かれる日記形式の構成の巧みさに、いよいよ謎が濃くなってくる。
後半すっかり夢中になって一気に読んだ。人間の性質の不思議さ。他人の行動を感知してしまう鋭い人が必ずいるのだ。
だましがこの世から無くならず(現実のあとを絶たない詐欺被害事件など)、だます人が多いなら、だまされる人ももっと多いのにかねがね不思議に思ってきたが、サラ・ウォーターズに完璧脱帽。
そくそくと迫るミステリが好きなら、おすすめ。
ミステリばかりではなく女性なら関心のあるもどかしいばかりの自己確立の物語でもある。何層にも意味が取れる内容に筆者の非凡さをみる。また、伏線がいたるところにあったということが後でわかり読み返したくもなる。
次作『荊の城』期待してしまう。 -
Posted by ブクログ
文学にもその国の特徴が色濃く出る。イギリス文学の特徴も魅力的だ。
私が思う魅力キーワードとは「女性作家」「18・19世紀」「城」「保守的」「古」「頑固」「暗色」そして「ミステリ」。
これがその物語に複合的に備わっていると、私はイギリス的だなと好きになる。おもしろくなる。
ミステリの発祥地だけど、ミステリっぽさが単なる謎解きではなく、謎が「どうなんだろう、なぜなんだろう」とゾクゾクさせられ、引っ張っていかれるのは伝統を感じる。
『嵐が丘』や『ジェーン・エア』に始まり『レベッカ』の系統にこの小説は属すると思う。現代の「ブロンテ姉妹」「モーリア」派だと勝手に名づけた。
前作『半身』は思いもかけない結末だったが、この物語は思い至るも、絶妙な筆運びに酔いしれて、私は一気読みだった。