サラ・ウォーターズのレビュー一覧
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主人公のスウはロンドンの下町で育った掏りの娘。育ての母親、サクスビー夫人に大切に育てられる。
スウが十七になったある日。顔馴染みの詐欺師がスウのところに一つの儲け話を持ってくる。詐欺師が金持ちの令嬢を騙して結婚する手伝いをスウにして欲しい、というのだ。
スウの役目は令嬢の侍女。令嬢の傍で詐欺師のサポートをする役どころだ。躊躇いながら、不安に苛まれながら、スウは田舎の城館、ブライア(荊)城へと向かう。
原題の Fingersmith は スリ の意。なるほど。幾重にも意味があるような気がする。
ただし、邦題の「荊の城」も作品にぴったりの題名。メインの舞台であるブライア(荊)城。その暗い荒んだ雰 -
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ネタバレ買ってしばらく積んでいたのを読み始めたら一気に進んで、さっそく下巻を買ったら続きが怖すぎてまたしばらく放置した。
怖いって、この先に何が起こるかということ。不幸とか裏切りとか絶望とか手の施しようがないとか、そういう事態に、もうかなり自分が入れ込んでしまっているこの登場人物たちが、間違いなく突き進んでいっているのが憂鬱で。
憂鬱で夢も希望もないなりに、きちんと人生を歩いている人が、ふと見つけた謎めく相手にめちゃくちゃに心奪われて、期待をかけて信じて柄にもなくものすごい努力を重ねて、っていう姿にどうもずるずると共感してししまう。
なので、それがどうあっても叶わないのを、認めたくなくて足掻いたあげ -
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ネタバレ「茨の城」にいろんな意味でときめいたり沈みこんだりしながらニヤニヤ読み終わって、「半身」だと不安や憂鬱や、お前そっち行ったら危ないだろ!って心配やどんよりした共感を持ちつつ、一気に突き落とされてしばらくぼんやりした、
ということがあったので、サラ・ウォーターズは気軽に読めないし読んだ後楽しくはならない、という印象。
だから覚悟はしていたはずなのに、いろいろ予想以上だった。
「一人称・回想・伝聞まじり」の語り方は大好きで、巧いことやられると本当にすっかり騙されたりまんまと感情移入してつらくなったりするけれども、まさにそんな状態。
登場人物はだいたい厭らしい部分や小汚い部分の方が多くて、それで -
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今回は今までと趣が違うゴシックホラー風の作風。まるでスーザン・ヒルみたいだ。荊の城のようにテンポいい作品ではなく、夜愁のようにじんわり話が進行する。今回は同性愛が出てこなかったのも、これまでとは違うが、キャロラインのキャラは同性愛の女性に近いものを感じる。見た目は悪く、いかつい、気難しい女性だがどこか魅力のあるキャラクター。弟は母に似て美男だが、戦争の傷で美貌は損なわれ障害もある。気難しいが、誇り高く魅力のあるキャラクター。語り手である医者、これがどうしようもない。魅力の無いキャラクターなのだ。しかしこの時代の普通の男性はこんなものなのだろう。モヤモヤしたものが残るが良い作品。再読が必要かな?
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ネタバレお屋敷に怪奇現象とくれば、これはもう大好物。
どう読むかに関しては読者の手に委ねられているので、読後、「ねぇ、ねぇ、どう読んだ?」と聞いて回りたくなる。
私はといえば・・・・
おや、と気になる、突飛なというか異常ともいえるような行為があったので、上巻なかばからあたりをつけて読み進めていたため、ラストはああ、やっぱり・・・・・と納得。
超常現象をまじえたサイコ・スリラーとして読んだ感じ。
終盤で、登場人物のある決断に伴って件の人物の異常性が、これでもか、とあぶりだされてくるあたり、怖いのなんの。
そう見定めて読むと、原題の The Little Stranger の Little -
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サラ・ウォーターズの新作。
長篇4作目。
英国のウォーリックシャー地方で、200年以上の歴史を誇るハンドレッズ領主館。
近在で診療所を営む医師ファラデーは、友人デイヴィッドの代診で、館へ往診に出向く。
母親がメイドとして館に勤めていたことがあり、30年前に一度、園遊会の時にこっそり入ってみた思い出があった。
館がすっかり寂れている有様に、驚愕することに。
家族は、先代の奥方エアーズ夫人と娘キャロラインと息子ロデリック。
奥方は美しかった名残をとどめて品があるが、昔を懐かしむばかり。
館の当主となった息子は責任を感じて奮闘していたが、経済的な危機は土地を切り売りしても追いつかない。
見るからに具 -
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ミステリーとカテゴライズしていいのかどうか…。
かつて隆盛を極めたエアーズ家が没落していく。
その姿を主治医の視点から描く。
とはいえ、主治医ファラデーがエアーズ家に出入りする段階で、土地は切り売りされ邸宅は荒廃している。しかも使用人は、家に悪霊がいると言い出す。
ホラーであれば、怪異を体験するのは語り手なのだ。
が、ファラデーは決してそれを認めない。
彼の根底には、上流社会に属しているエアーズ家の嫉妬がある。
また、悪霊がいると、エアーズ家をでていきたがっていた使用人は、結局ずっとこの家に居続けた。
誰一人として信用がおける語り手が、傍観者がいないのが、この物語の -
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ミステリーとカテゴライズしていいのかどうか…。
かつて隆盛を極めたエアーズ家が没落していく。
その姿を主治医の視点から描く。
とはいえ、主治医ファラデーがエアーズ家に出入りする段階で、土地は切り売りされ邸宅は荒廃している。しかも使用人は、家に悪霊がいると言い出す。
ホラーであれば、怪異を体験するのは語り手なのだ。
が、ファラデーは決してそれを認めない。
彼の根底には、上流社会に属しているエアーズ家の嫉妬がある。
また、悪霊がいると、エアーズ家をでていきたがっていた使用人は、結局ずっとこの家に居続けた。
誰一人として信用がおける語り手が、傍観者がいないのが、この物語の -
Posted by ブクログ
過去へと遡る物語っていうのは、そんなに珍しいスタイルではないと思うけど
この物語はこの語り方によって素晴らしい味わいになってる。
素晴らしく切なくほろ苦い味に。
だけど決して読後感は悪くない。
それは物語が遡ることで現在閉塞してる彼等彼女等の関係の始まりがラストになっているから。
いまでこそぐずぐずになっちゃってるけど、始まりはこんなにも輝いていたんだって。
それは一つの救いであると同時に、切なさを加速させるものでもあるのだけれど。
今まで高度な技術でもって「物語」を書いていた著者がついに「人間」を書いた!
とかあおってみる。
良質なセピア色の名画を観る感覚で読んでいけます。
日本語タ