木村二郎のレビュー一覧
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怪盗ニック第四巻。第一作発表から気づけば二十年近く経っている。ニックもグロリアも年齢を重ねており、関係性にも少しずつ変化が見られるところが面白い。
・女怪盗サンドラ・パリス登場。けっこう重要な準レギュラーとなっている。サンドラ初登場話が第四巻の幕開けになっているところに、編集者の愛とセンスを感じる。ところでパリスという姓は男性を魅了する女性にぴったりなイメージがあるのかな。と、ポーラ・パリスを思い出した。
・ニックは五十に近い四十代で、グロリアはもうすぐ四十歳という時代。ニックの仕事はいつも現実離れしているが、二人の間に起こる事件はリアリティがある。
・仕事失敗のケースが増えてきた印象。仕事の成否は収入に直結するというか生業そのものであり、ここまで続けて読んでくるとそんな生活感もわかってくるので、手数料をもらえるかもらえないかという点に一緒にハラハラする。 -
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第三巻のトピックは。
・ニック、日本に来る。
・グロリアに、怪盗であることを告白。
・記者に盗みの現場を押さえられる。
・依頼を受けてから決行までの間に足首を骨折。
どれも読み応えあったが、グロリアに話したことによる微妙な変化がいちばんの見どころ。この作品を楽しむうえではどうでもいいことだが、長年連れ添ったパートナーに「俺、実は怪盗なんだ」と言われたらどうするかな。人を殺したりはしていないわけだし、法には背いているかもしれないけど所詮法律も人が作った決まりに過ぎないし、職業に貴賎なし、愛があれば問題なし…か?とリアルに想像するのも楽しかった。 -
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相変わらず、なんか、フツーなところが良いんだよな、ニック。価値のないものを盗む、ちょっと謎解きがあって、美女が出てきて、という定型お仕事パートは楽しんだ。
恋人のグロリアの登場回数がぐっと上がってきていると感じたが、彼女が、いつもニックの帰りを大人しく待つただの可愛らしい恋人でしかないというところが、今世紀的にはちょっと物足りない。しかしこれも、ニックから見たグロリアの姿としてはその通りなのだろう。ニックの真の姿をグロリアが知らされていないのと同じように。語られていないグロリアの暮らしは、読者だって如何様にも妄想できる余地があると言える。グロリアを主人公にした二次創作とかないのかなあ。 -
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泡坂妻夫のエッセイで、「価値のないものしか盗まない」という『怪盗ニック』シリーズが紹介されていた。泡坂さんが一九三三生まれの二〇〇九年没、エドワード・D・ホックは一九三〇年生まれの二〇〇八年没と、ほぼ同世代の二人。とはいえ作家としてのデビューはホックの方が二十年ほど早い一九五五年。
ホックはEQMM(エラリー・クイーン・ミステリー・マガジン)の常連作家だったようだ。泡坂さんは同エッセイで「若い頃はクイーンとカーが特に好きだった」とも書いていたし、それだけでもなんとなく二人の波長が合いそうに思えてしまうが、「価値のないものしか盗まない」という、天邪鬼でちょっと馬鹿げていてユニークなポリシーもまた、アワツマ好みの香りがする。ということで読んでみた。
ニックはプロの泥棒。上述のポリシーに反しない依頼内容であれば、そして最低でも二万ドルという手数料の支払いが可能な人物からの依頼であれば、必ず仕事を引き受ける。私が読んだ限りでは、必ず仕事は成功させる。ロング・アイランドの辺りに恋人のグロリアと共に暮らしていて、年に数回仕事をするとき以外は、彼女とビーチでビール片手に寛いだり、ボートを操縦したりして過ごす。
面白かったポイントを三つ。
一つは、このグロリアの存在感。彼女はニックの仕事を知らないという設定で、ニックがたまに一定期間出かけるのは、色々な会社に頼まれて工場用地を見つける仕事をしているからだと聞かされている。グロリアの出番は意外と少なくないし、登場しない話でもニックがグロリアへのお土産の心配をしたりするなど、仲は良好そうだ。結婚については「いつかできるかしら?」「いつかね」という感じで、二人の本音はよくわからない。長く続くシリーズものだからその辺は曖昧でいいと思うが、この関係が変化するのかしないのか、気になる。一発長編ものだったら、グロリアは本当は全てを知っている黒幕にしたいところだが、この先どうなるのかは私は知らない。
二つめは、ニックが案外“普通”であること。普通といっても、屋根に軽々と登ったりビルの窓から侵入したり警備装置をかいくぐったり依頼主の悪巧みに気付いて裏をかいたり、そういう技術や頭脳は一流であって全然“一般人”とは違う。だが、読者が知らないこと、例えばなぜこの依頼主はこんなものを盗ませたがるのだろうとか、この条件下でこれを盗むなんて一体どうすれば可能だろうか、というようなこの小説シリーズにとって基本そのものといえるような謎や課題に対して、ニックも同じように、はじめは「知らない」。読者が「なぜ?」「それは何?」と思う時、ニックも「なぜ?」「それは何?」と思うし、しかもそのままストレートに聞く。大抵答えはすぐに得られず謎は引き延ばされるのだが、「天才ニックは一を聞いて十を知るのさ」というような読者に対する“出し抜き”が極力抑えられている気がする。三か四くらいを聞くまでは読者と同じレベルにいてくれるのだ。当時の現代社会を舞台にした小説としてのリアリティと、ニックのヒーロー性やファンタジー性とのバランスが絶妙に考えられているなあと思う。
三つめは、内容ではなくこの短編集『〜全仕事』について。これは東京創元社が独自に編んだもので、一九六六年から二〇〇七年までに書かれた全八十七作の短編を、発表順に六冊に分けて収録という素晴らしい仕事!しかも、カバーイラストにはその巻でニックの盗んだものが全て描かれているらしい。見つけられるかな〜。あとで探してみよう。 -
Posted by ブクログ
アメリカのミステリ作家「エドワード・D・ホック」の短篇集『怪盗ニック全仕事〈1〉(原題:The Complete Stories of Nick Velvet: Vol.1)』を読みました。
久しぶりに短篇が読みたい気分だったんですよね。
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人から依頼されて動くプロの泥棒「怪盗ニック」が盗むのは「価値のないもの、もしくは誰も盗もうとは思わないもの」だけ。
そんな奇妙な条件にもかかわらず、彼のもとには依頼が次々舞い込んでくる。
ターゲットはプールの水、プロ野球チーム、恐竜の尾……それらをいったいどうやって盗む?
短編の名手「ホック」が創造したユニークな怪盗の全仕事を発表順に収録した文庫版全集第1弾。
解説=「木村仁良」
*第8位『IN★POCKET』「2015年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」読者部門
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「価値のないもの、もしくは誰も盗もうとは思わないもの」だけを依頼されて盗む異色の「怪盗ニック・ヴェルヴェット」… その全短篇(87篇)を発表順に集成する日本オリジナル短編集第1弾で、1966年(昭和41年)から1972年(昭和47年)に発表された以下の15篇が収録されています。
■斑(まだら)の虎を盗め(原題:The Theft of the Clouded Tiger)
■プールの水を盗め(原題:The Theft from the Onyx Pool)
■おもちゃのネズミを盗め(原題:The Theft of the Toy Mouse)
■真鍮(しんちゅう)の文字を盗め(原題:The Theft of the Brazen Letters)
■邪悪な劇場切符を盗め(原題:The Theft of the Wicked Tickets)
■聖なる音楽を盗め(原題:The Theft of the Sacred Music)
■弱小野球チームを盗め(原題:The Theft of the Meager Beavers)
■シルヴァー湖の怪獣を盗め(原題:The Theft of the Silver Lake Serpent)
■笑うライオン像を盗め(原題:The Theft of the Laughing Lions)
■囚人のカレンダーを盗め(原題:The Theft of the Coco-Loot)
■青い回転木馬を盗め(原題:The Theft of the Blue Horse)
■恐竜の尻尾(しっぽ)を盗め(原題:The Theft of the Dinosaur's Tail)
■陪審団を盗め(原題:The Theft of the Satin Jury)
■革張りの柩(ひつぎ)を盗め(原題:The Theft of the Leather Coffin )
■七羽の大鴉を盗め(原題:The Theft of the Seven Ravens)
■解説 怪盗ニック全仕事の始まり始まり 木村仁良(ミステリー研究家)
価値のない様々なもの(虎や大鴉の生き物から、プールの水、カレンダー、果ては野球チームや陪審団等の人間まで)をどうやって盗むのか、というテクニックの部分だけでなく、依頼人はなぜ価値のないと思われるのに2万ドル(場合によっては3万ドル等の場合あり)もの高額の報酬を支払うのか、という謎解きが愉しめる作品群ですね… 一話で二度おいしい感じです、、、、
「ニック・ヴェルヴェット」の魅力も相まって、お洒落で愉しめるシリーズです… 以下、簡単に概要を記録しておきます。
『1.斑の虎を盗め』
その男は、動物園から“斑の虎”を盗んでほしいと依頼してきた… 変わった斑模様を持つその貴重な虎は、金持ちの中東の王子などに高く売りつけられるだろうというのだ、、、
「ニック」は苦心の末に見事に“斑の虎”を盗み出したのだが… 依頼人の目的は別なところに
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『2.プールの水を盗め』
依頼人は、ミステリ作家の自宅にあるプールの水を盗んできてほしいという… 単純にプールの栓を抜いて水を捨てるのではだめだというのだ、、、
持ち主に知られずに大量の水を盗み出すのは不可能だったが、一計を案じた「ニック」は… プールから大量の水を盗むという風変わりで難度の高い仕事、それを成功させる「ニック」の大胆な作戦、そして依頼人が秘めた真の狙いと、どれをとっても実に面白く、本作品の中でイチバン気に入りました。
『3.おもちゃのネズミを盗め』
2万ドルの小切手とともに郵送されてきた依頼書… そこには、撮影中の映画で小道具として使われているゼンマイ仕掛けのネズミを盗んでほしいと書かれていた、、、
見事に盗みに成功した「ニック」だったが、なぜか依頼人は現れない… 郵便による依頼、そして盗みを終えても現れない依頼人と、何とも不可解な状況が目を引く作品でした。
『4.真鍮の文字を盗め』
あまりにも奇妙な依頼だった… ビルの壁に“SATOMEX”という企業名が真鍮の文字板で飾られているのだが、そのうち一部の文字を盗んでくれというのだ、、、
顔なじみの「ウェストン警部補」が警戒する中、「ニック」は仕事に取りかかるが… 文字板を盗む理由が見どころで、ユニークな真相が愉しめました。
『5.邪悪な劇場切符を盗め』
ブロードウェイの芝居《ウィキッド》の切符を、切符売り場からすべて盗み出してほしいという依頼… しかしその芝居は、2ヶ月も前に公演を終えていたのだ。首をひねりながらも切符売り場へと向かったニックだったが、その目の前で、、、
すでに終わった芝居の切符を盗むという奇妙な依頼がまず魅力的ですが、そこからさらにおかしな事態になっていくのが面白かったですね。
『6.聖なる音楽を盗め』
今回の標的は教会のパイプオルガンだった… オルガン奏者としても知られる近所の医師の演奏を、レコード会社が録音しにくる日までに盗み出し、その後はまた元通りにしてほしいというのだ、、、
しかしパイプオルガンはあまりにも巨大だった… 巨大なパイプオルガンを盗み出すのは、「ニック」をもってしても至難の業に違いありませんが、その解決策はお見事でしたね。
『7.弱小野球チームを盗め』
カリブ海に浮かぶ島国・ハバリ共和国の要人から、野球ファンの大統領に代表チームとの試合を見せるため、大リーグのチームを盗み出してきてほしいという依頼を受けた「ニック」は、リーグ最下位の「ビーヴァーズ」に白羽の矢を立てて… 「ニック」は見事に野球チームを盗み出し、チームの方も国賓待遇に満足するなど、一旦は万事丸く収まりそうな様子をみせるものの、もちろんそれで終わるはずはなく、、、
事態の裏に隠された真相につながる手がかりに着目した「ニック」の慧眼が印象的… 最後の「ビーヴァーズ監督」の台詞は天晴れです。
『8.シルヴァー湖の怪獣を盗め』
シルヴァー湖に現れた大海蛇目当てに観光客が殺到し、おかげで隣のゴールデン湖のホテルは商売あがったり… 困ったオーナーは「ニック」にその大海蛇を盗んでほしいと依頼してきたが、地元の漁師が大海蛇に殺される事件が起きて、、、
依頼人の目的は最初からはっきりしており、盗みの対象となる“大海蛇”の正体がほぼ唯一の謎になっている異色作で、その真相は奇想というか何というか… ちょっとあり得ない感じでしたけどね。(苦笑)
『9.笑うライオン像を盗め』
全米に広がる〈キャピタル・クラブ〉のシンボル、“笑うライオン像”を盗んでほしい――依頼を受けて像を盗み出した「ニック」だったが、依頼人はもう一つ必要だという… そして二個目を盗もうとしたところで、ニックは取り押さえられてしまい、、、
盗みの手口よりも、捕まった「ニック」がどうやって窮地を脱するかが興味を引く展開… 依頼人がライオン像を必要とした理由はある程度見当がつきますけどね。
『10.囚人のカレンダーを盗め』
海賊行為で捕らえられて刑期をつとめている囚人が、監房の壁にかけているカレンダーを盗むため、連邦刑務所に潜入することになった「ニック」… あまりにも困難な盗みを鮮やかに成功させたものの、依頼人との間にトラブルが発生して、、、
警備が厳重な刑務所からどうやって盗み出すのが最大の見どころでした… 盗みの目的は見当つきますけどね。
『11.「青い回転木馬を盗め』
メリーゴーラウンドの青い回転木馬を盗んでほしいという依頼… しかし「ニック」が現地へ着いてみると、すでに何者かが別の木馬を盗み出していたのだ、、、
誰が、何のために? そして深夜、仕事に取りかかろうとした「ニック」の目の前で… 木馬を狙う別の一味が登場してスリリングな雰囲気となっている作品でした。
『12.恐竜の尻尾を盗め』
恐竜に詳しい男が、古代史博物館にあるティラノサウルスの骨格の、尻尾の部分だけを盗んでほしいと依頼してきた… 警備の様子を確認した「ニック」は、夜まで待って仕事を始めようとしたのだが、そこに予期せぬ闖入者が現れて、、、
何とも風変わりな標的で、依頼人がなぜそれを必要とするのか、という謎がまず目を引きますが、“闖入者”の登場によって盗みそのものも目が離せない状態となっています… ある程度、依頼人の目的は見当つきましたね。
『13.「陪審団を盗め』
夫の愛人を決闘で殺したとして注目を集めている女性の裁判… 何と、その裁判の陪審員全員を盗んでくれという依頼がきたのだ、、、
早速裁判の傍聴に行った「ニック」だったが、そこで顔なじみの「ウェストン警部」と顔を合わせることに… 決闘による殺人事件の裁判が魅力的でしたね。
『14.革張りの柩を盗め』
急死した牧畜業者が生前に作らせていた、外側が革張りの特製の柩を盗み出すよう依頼を受けた「ニック」… だが、葬儀の最中に武装した男たちが乱入し、目の前で柩を奪われてしまった。何とか柩を取り戻そうとするニックだったが、、、
「ニック」の目の前で奪われてしまった柩を追って、争奪戦のような展開をみせる作品ですが、最後には思わぬところから思わぬ真相が飛び出してくるのに驚かされました。
『15.七羽の大鴉を盗め』
新しい独立国の大統領が、英国女王陛下に七羽の大鴉を献上するという… 今回の依頼はその大鴉が盗まれないように警護するというものだった、、、
勝手の違う仕事に戸惑う「ニック」だったが、やがて大鴉を盗んでほしいという一味が… “盗まれるのを防ぐ”というイレギュラーな依頼で始まりますが、すぐに盗みの依頼もくることに というわけでこの作品では、せっかくなので両方の依頼人から報酬を取ろうとする「ニック」が、とんち話のような難題をどうやってクリアするかが見どころとなっています。 -
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『ブラック・マスク』という雑誌が、今の時代に、日本にあったら楽しいだろうなあ、とは、ハードボイルド・ファンにとって人生を通して心に浮かんできてやまない一つの叶わぬ夢である。かのハメットが、このパルプ・マガジンを足掛かりにサム・スペイドというキャラクターを作り出したのは有名な話。ハードボイルドの探偵役は、かくて汚れた街をゆく騎士と呼ばれるようになった。
歓ぶべきことに、その『ブラックマスク』を抜け出して現代に蘇らせる邦訳が、ここに登場。本書のポール・ケインは、その文体でも内容でも、史上最もハードボイルドな作家として名を馳せている方であるらしい。巻末の木村仁良さん(翻訳の木村二郎さんと同じ人、ミステリー評論家としてはこの名である)によると、名だたるハードボイルド作家たちが最もハードボイルドな作家としてケインを指し示すと言う。
なるほど、本書はそのケインの作品『裏切りの街』に続く希少な邦訳二作目の書となるらしい。『七つの裏切り』というタイトルも『裏切りの街』の邦題からの連想となる邦題なのか、翻訳者の思い入れが感じられる。
さて、本作、短編集ではあるものの、中身がぎっしり過ぎる印象に、まずはのっけから圧倒された。短いページの中に、癖も名前もある登場人物が数多く登場する上、ストーリーも二転三転する。なので、最初のわずか20ページ強の作品を読むのに、三度の読み直しをしてようやくこちら側の混乱が収まった次第。この本を読むのに一体どれだけ時間がかかるのかと思うと恐怖であったが、その後、慣れというのだろうか、ページ数も増えてゆくのにすべてが読みやすさへと変化してゆき、いつかしらフレンドリーな文体と感じられるようになってきた。後半の作品群は、むしろスピーディなくらいで、自分にも変わらぬ作風にも驚かされつつ、あっという間に一冊を楽しんでしまった。
それにしてもどの作品も、主人公のキャラが濃い。ハードボイルドに登場すべくして登場する者ばかり。殺し屋、ギャング、警察、新聞記者、金持ち、美女、悪女、詐欺師、弁護士、エトセトラ、エトセトラ。そのうえ、事件がスピーディで荒々しく、残酷で、なおかつ活劇が多い。どのセリフも胡散臭く、危険の匂いに満ち満ちている。
という具合だ。心休まる場所も時間も、どのページにも無いに等しい。なるほど、ケインが一番ハードボイルドな作家だ、とは、こういうことだったか、と納得。さらにプロットのひねりが効いている。まず予想通りに進むことはほとんどない。ツイストに継ぐツイスト。短編に使ってしまうにはもったいないほどのひねりの効いたプロット。さらに一度だけの登場ではもったいないくらいの癖が強く切れの良い主人公、魅力的な美女、底なしの悪党。
1920~30年代初頭の禁酒法時代の大都会が舞台。作品中で使われた武器の種類、放たれた銃弾の数、犯罪の種類と数、どれもそこらの長編小説を短編一作で軽く抜くくらいにトップクラスではないだろうか。こてこてのハードボイルド? そうも言えるが、むしろ現代風に、バイオレンス・アクションと言い換えてもいいかもしれない。
映画の脚本もやっていた作家とのことだが、登場人物たちのセリフがいかにもそれらしい。プロットの錯綜や読者を幻惑させるテクニックなども映画の世界で学んだことなのかもしれない。一世紀近い昔。暗黒街に燃え上がるクライムの数々。あらゆる意味で貴重だ。ハードボイルド・ファンを自称する者としては、まさに読まずに死ねないであろう一冊なのである。 -
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「価値のないモノを盗む」
怪盗ニック全集の3巻
今回は、きのうの新聞、赤い風船、蜘蛛の巣、石鹸、使用済みのティーバッグ、子供の絵、絵葉書、電話機、消防士のヘルメットなどなど
古いテレビドラマシリーズを見てるような感覚で、なめてかかると「何故依頼人はそれが必要か?」「それをどう盗むか?」で、ひと捻り加えてくるのが心地よい。
ジェフリー・ディーヴァーが豪華な食材(積み上げた設定、下調べ)で作る料理だとしたら、ホックさんのはなんというか「ひねり揚げ」スナック菓子感覚で合間合間でつまんで結局満腹になる感じ。
恋人のグロリアについに泥棒稼業がバレてしまうものの、グロリアはニックよりも冷静…強い…友達が麻薬の密売してるんじゃないか?とか疑いつつその友達と普通に接してるあたり…芯の図太さを感じる。 -
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ネタバレサイモン・アークの第四作。
興味深かったのは「黄泉の国の判事たち」。
このシリーズの語り手、「私」の父と妹が自動車事故で亡くなった話。
サイモンにお願いして、事故を調べてもらうことに。
事故に真相は明らかになるが、
「私」の過去に何があったのか、何故家出したかの謎は記されなかった。
話として面白かったのは、「切り裂きジャックの秘宝」。
あの有名な切り裂きジャックの事件は、
ヴィクトリア女王五十周年に献上されるはずだった
黄金のライオン像の隠し場所をめぐる事件だったという話。
隠し場所の地図が売春婦たちの肌にタトゥーとして彫られていたため、
内臓をえぐるという猟奇的な事件になってしまったという話が織り込まれていた。
詳しい立証はなかったが、面白い説だ。 -
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怪盗ニックと同じ作者だったので。
サイモン・アーク、千五百歳ぐらいの元コプト教の僧侶にして、
悪魔を求めて世界を旅する男。
墜落した飛行機を捜しにエジプトの砂漠へ向かったり、
オオカミを撃ったはずが男が死んでいたと主張する男のところへ行ったり、
ジャワ島を占領した日本軍が残した黄金を巡る殺人に遭遇したり。
最初の「死者の村」では、
村の人間がみんな崖から飛び降りて死んでいた。
金鉱ねらいの犯罪だろうとは気がついたが、
新興宗教を標榜する男がやってきて村のみんなが熱狂していった、
と証言した、村に住んでいた女性が怪しいと思っていた。
まさか、その女性が主人公(普通の人間の男性)と結婚するとは。
自分の汚れ具合が少し嫌になった。
それにしても、付け髭したぐらいで女性が男性に見える? -
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怪盗ニックの第六作。
「グロリアの赤いコートを盗め」が最大の驚き。
ニックとグロリアのなれそめだった。
途中で政府の仕事と言い訳する話が合ったが、
これが元だったとは。
ニックの嘘を随分簡単に信じるなー、とは思ったけど、
この時の説明があったからなのか。
しかもグロリアが推理力を発揮して、
自分の赤いコートを盗ませた犯人とその理由をつきとめるとは。
ニックの仕事には無関心だった最初の頃に比べると、
グロリアのイメージがだいぶ変わった。
他にもライバルのサンドラ・パリスも登場する話が出ていた楽しかった。
グロリアと協力して盗んだアップルパイの話も。
これが最後の作品とは残念。