あらすじ
まだ見ぬ人知を超えた存在と巡り合うため、二千年の歳月を生きる謎の男サイモン・アークのはてしない旅は続く。鐘の音が鳴り響くアメリカ東部の修道院で起きた中国人修道士殺害事件、ニューヨーク州北部の湖に出現し四人もの人を殺めた大海蛇の怪異、かの切り裂きジャックが遺したという秘宝のありかとその正体、ロビン・フッドゆかりの地に造られた迷路で発見された、二十本もの矢が刺さった他殺体の謎……さまざまな形でこの世のむこう側を垣間見させる8つの妖しい事件から、鋭敏な推理力で真実を導き出すオカルト探偵の事件簿、待望の第4集。
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Posted by ブクログ
『悪魔の蹄跡』
雪の上に残された謎の生き物の足跡。発見者のローランド・サマーズの家から続く足跡。村に住むかつての女優ダイアナ・ハント。ダイアナとサマーズの仲を疑っていた夫のマーク・イーゲンの失踪。
『黄泉の国の判事たち』
「私」の父と妹ステラの死。見通しの良い道路での互いの車による正面衝突。選挙を控えスキャンダルを恐れるフィリップ叔父。何者かに襲われ肋骨を折ったステラの夫フランク。「黄泉の国の判事たち」と呼ばれた父とフィリップ。皆が語りたがらない3人目の判事マラの謎。
『悪魔がやってくる時間』
友人のリン修道士から何者かに殺害されるかもしれないと助けを求める手紙を受け取ったサイモン・アーク。彼の目の前で転落死したリン修道士。リン修道士が中国から連れて帰った3人の修道士。中国の政策で5年間監禁された3人の修道士。
『ドラゴンに殺された女』
オンタリオ湖で起きた事件。焼けた船。被害者の1人の女性マージの死ぬ間際に言い残した「ドラゴンにやられた」という言葉からドラゴンがいると噂が広まったオンタリオ湖。マージのかつての恋人だった「私」の調査。被害者のギャリー・ブラックの遺体に残された弾痕。射殺されたブラックの同僚クリング。
『切り裂きジャックの秘宝』
切り裂きジャック事件の真相はヴィクトリア女王に送られるはずだったダイヤがちりばめられたライオン像の強奪と隠し場所に関する地図をめぐるものだったというスラックリーの日記。その日記を売りに出した孫のグレンダ・コックス。日記をめぐるセリスタ・ヴァッツとマーティン・ルードの対立。殺害されたグレンダの叔父ネズベット。サイモン・アークが発見したライオン像。
『一角獣の娘』
ネプチューン・ブックスの「私」のオフィスに原稿を持ち込んだハーヴィー・クロスが「私」の目の前で飛び降り自殺をした。彼の作品である「一角獣の娘」に興味を持ち彼の妹ヘイゼル・フェニックスを訪ねるサイモン・アーク。その町で殺害されたネプチューンブックスのアッシュ・グレゴリー。アッシュの悲報を伝えたマーサ・スケイン。想像上の生き物の名前を持った人々の謎と森に棲む少女の秘密。
『ロビン・フッドの幽霊』
「ロビン・フッドの迷宮」と呼ばれる庭園にやってきた「私」とサイモン・アーク。庭園で殺害されたジェフリー・バーロウ。20本の矢を刺されての殺害。庭園の持ち主ミルズの骨折と前の殺人事件の被害者クラッパーとの関係。過去に起きた少女たちの行方不明事件の謎。
『死なないボクサー』
何年も前に新聞に同じ姿の写真が掲載されているボクサー・ドラゴン・ムーア。ドラゴンの噂を調べていた記者ロジャー・ラッセルの殺害事件。上半身裸で死んでいたロジャー。
Posted by ブクログ
サイモン・アークの第四作。
興味深かったのは「黄泉の国の判事たち」。
このシリーズの語り手、「私」の父と妹が自動車事故で亡くなった話。
サイモンにお願いして、事故を調べてもらうことに。
事故に真相は明らかになるが、
「私」の過去に何があったのか、何故家出したかの謎は記されなかった。
話として面白かったのは、「切り裂きジャックの秘宝」。
あの有名な切り裂きジャックの事件は、
ヴィクトリア女王五十周年に献上されるはずだった
黄金のライオン像の隠し場所をめぐる事件だったという話。
隠し場所の地図が売春婦たちの肌にタトゥーとして彫られていたため、
内臓をえぐるという猟奇的な事件になってしまったという話が織り込まれていた。
詳しい立証はなかったが、面白い説だ。
Posted by ブクログ
・エドワード・D・ ホック「サイモン・アークの事件簿」(創元推理文庫)はこれまでのとは違 ふ。もちろん、物語すべてはサイモンの謎解きである。違ふのはこれまではホックの自選短篇集であつたこと、つまり今回は自選ではないのである。「ホックは 短編集三巻分の作品しか選ばなかった」(307頁、木村仁良「“わたし”はだあれ?」)といふ。そこで「訳者厳選の作品集」(同前)の登場となつた。それ が本書である。「一九五〇年代から四編、七〇年代と八〇年代と九〇年代と二〇〇〇年代からそれぞれ一編ずつの、合計八編を」(同前)収める。幅があるので、語り手も最後は出版社退職の身である。それほど長く書き継がれてきた。しかし変はらぬのはサイモン・アークであつて……。
・本巻5作目「切り裂きジャックの秘宝」はよくある切り裂きジャックは何者かといふテーマにも通じる作品なのであらう。例の如くサイモンが語り手に誘ひの 連絡をする。これが始まりである。さうしてロンドンに飛び、切り裂きジャックの秘宝探しを始める。ポイントは切り裂きジャックの手記である。これが古本屋 に持ち込まれ、その真贋等を確かめるためにサイモンの登場となつたのであつた。持ち込んだのは若き女性、ジャックの血縁者であるらしい。これにジャックの連続殺人の謎と秘宝の在処が書かれてゐるといふ。結論から言つてしまへば、殺人は秘宝の在処を示す地図を得んがためになされたものであり、その地図は殺された娼婦の刺青としてあつたといふ。つまり、娼婦がその地図を渡すことを承知せねば殺してその刺青を剥ぐしかないのである。だから猟奇的な殺人を装ふことになつた。本当のジャックは「けちな泥棒で」(187頁)、「一度喧嘩をした相手の男をナイフで刺した」(同前)以外の暴力はふるつてゐないらしい。殺人 狂でも異常性愛者でもないのである。しかし、秘宝の地図のために娼婦を殺し、それを猟奇殺人に見せかけた、それが切り裂きジャック事件であるといふ。これ は物語であつて切り裂きジャック探求の書ではない。このジャック像、専門家から見ればをかしなところがあるに違ひない。しかし、個人的にはおもしろいと思 ふ。地図を4等分して4人の娼婦の刺青にするなどといふ発想、なかなかできるものではない。どうしてもそれがほしいといふことになれば殺さざるを得ないで あらう。そんな殺人の動機や猟奇殺人とせざるを得なかつた理由も、これで説明がつく。分かり易い。明快である。これが切り裂きジャック探求史の中でどのや うな位置を占めてゐるのか、これは興味あるところであるが、サイモンとは関係ない。物語はあくまでサイモンの名推理を楽しむことである。実はこの「秘宝」、その秘宝の在処を示す地図をいかに読み解くかといふ点が推理の中心である。ところが、サイモンはこれをいとも簡単に解いてしまふ。この作品、もしか したら彼の推理より切り裂きジャックの方に作者の関心があるのかもしれない。さうでなければあまりに簡単に解決しすぎる。安直な発想でありすぎると思ふ。 かういふのはこのシリーズでは、といふより、たぶんこのやうな推理を中心とする作品では珍しいものであらう。それでも切り裂きジャックであるがゆゑに、私 はこれをおもしろく読んだ。さういふ作品だと思へば、それはそれでおもしろいものである。それゆゑに、一日も早く、この続きで更に5が出ることを期待した い。さうなると、そこにはインターネットを縦横に駆使するサイモンがゐるのであらうか。本書でもその片鱗はうかがへるが……といふことは、いかに2000 歳であれ、サイモンも時代に合わせて変はつてゐるのであつた……。