立原透耶のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ断片的に時系列や場所が変わり、慣れない中国人の名前が山ほど出てくるので、全体像を掴むのが難しかった。
文化大革命で物理学者の父を同じく物理学者の母が告発し、処刑されるところを目の当たりにした葉文潔。その後も田舎の労働所?で働かされ、心を通わせかけた人にも裏切られ、人類への圧倒的な絶望感を募らせていく。半ば幽閉に近い形で仕事することになった天文軍事基地では、太陽を電波を増幅させる鏡のように使い、他の文明に地球を変革してほしいと訴えるメッセージを送ってしまう。
絶望感が、なぜ国に向かず人類全体への憎悪に直結するのか、謎。学もあるんだから、普通は国を出る発想になりそうだが‥
石油会社の御曹司ながら環境過激派のエヴァンズの場合は、その辺りがなんとなく理解できた。
もう1人の主人公はナノマテリアル研究者の王ミャオ。基礎研究の有力科学者達の自殺が相次ぐ中、王ミャオもある日突然、目の前にカウントダウンのような数字が見えるようになる。
並行して、3つの太陽により過酷な環境で文明を発達させる奇妙なゲーム、「三体」に参加することになる。三体世界では、気候や温度が安定せず、文明はは比較的温暖な恒紀(ただし、いつ終わるかは誰にもわからない)で発達し、突然訪れる乱紀には滅亡し、を繰り返していた。乱紀には、個体は死滅するか脱水して倉庫に入れられることを繰り返し、200回近く勃興を繰り返しながらも着実に進化を遂げていく。
やがて、ゲームの「三体」は、葉文潔が発信した電波を受け取り、環境の安定した楽園のような地球を乗っ取ることを目論む三体文明を模したものであり、三体文明によって人類を管理してもらう/滅ぼしてもらうことを望むETOという組織が、同じ志を持つ者を集めるためのものだったことがわかる。ETOの象徴的人物が葉、資金源と実働上のリーダーがエヴァンズ。
三体文明との交信はETOのみを通じて行われ、その拠点は洋上に浮かぶ巨大な船「審判の日」号にあった。地球を守りたい勢は、交信内容を奪取するための大胆な作戦に出る。王ミャオのナノマテリアルワイヤーを、審判の日が通る日にパナマ運河0.5メートル間隔に仕掛け、乗務員もろとも輪切りにし、データを奪取する。
そこには、
葉のメッセージを受け取った三体文明は地球をはるかに凌駕する文明を築いていること、
それでも乱紀に怯え新たな移住先の惑星を探していること、
三体文明が地球に到達するまでの400年間に地球文明が三体文明を追い越さないように陽子に11次元のスーパーコンピュータを埋め込んだ智子(ソフォン)を送り込み、地球の文明の発達を妨げさせていること
三体人は思考を隠すことができず、人類の「嘘をつく」という能力を恐れていること
などが記録されていた。
三体人はもはや自らの存在を隠そうとせず、全人類の網膜にこう表示させる「お前達は虫ケラだ」
王ミャオらエリート達が絶望する中、無学だが勘も頭もよく回る警察官「大史(ダーシー)」はイナゴの害に苦しむ畑を見せる。「人間と虫ケラの知性は隔たっているが、それでもなお人間は虫ケラに悩まされている」
人間と三体人が簡単に言葉の壁を超えてコミュニケーションを取れてしまう点や
11次元の陽子に全地球を監視できるほどのスパコンを詰め、わずか数年で地球に到達させられるほどの文明なら、とっくに三体世界を脱出できるのでは‥と多くの違和感があったが、細かい点は気にせずぐんぐん読み進めるタイプの作品。話のスケール感やダーシーの人物造形など、日本や欧米の作家ではない異質性を強く感じた。
文系なのでどこまでがサイエンスでどこまでがフィクションなのか、次元の話など何を言っているのかさっぱりわからないところもあったが、大筋がわかれば気にしなくてOK。
続きが楽しみ。 -
Posted by ブクログ
最初の文革のところは知らない単語が多くて難しかったが、それ以降は大丈夫だった。翻訳がとても上手い気がする。風景や感情の描写も、科学の話も読みやすかった。
ストーリーは絶望的な出来事が次々と起こって、かなりスリルがあった。後半は三体世界に関する情報がどんどん出てきて、話のスケールが徐々に地球から宇宙へと広がっていくのを感じられた。
登場人物も一人一人がすごく魅力的だった。みんな知性があるか、自分なりの思想や軸を持っている。ゲームの中の環境や歴史上の人物も想像しやすかった。
科学に関しては、天体の相対的な位置や通信の話は普段仕事でよく触れていることもあって、読んでいて面白かった。一方で、最後の方に出てくる次元の話は理解するのに大分時間がかかった。
-
Posted by ブクログ
【長安のライチ】 馬 伯庸 著
「6月1日の楊貴妃の誕生日に、嶺南(広東省)の新鮮なライチを、長安(西安)まで運び献上せよ」という「命」を受けた下級役人(できなければ「死」)。これをどう遂行するかを書いた中国版“ミッション・インポッシブル”。すでに映画化されているようですが、まさに映画に打ってつけの内容です。
「楊貴妃の何気ない一言から始まり、そして楊貴妃の一つの笑みで終わった」のですが、この二つの間に、どれほど多くの人の辛苦があるかを描いています。著者はパンデミックのときに、「決算! 忠臣蔵」「殿、利息でござる!」などの日本映画で下級役人から見た歴史を知り、その後、皇帝がライチを楊貴妃のために取り寄せたという唐の杜牧の七言絶句「一騎紅塵紀子笑(一騎の紅塵 紀子笑う)」で着想を得て、一気に書き上げたようです。
「宮使えはつらいよ」の世界と、中国ならではのお話し(権力が絶対、渡る世間は金次第)もあって、あっという間に読み終えました。帯には「中国のエンタメ王が贈る」「社畜アドベンチャー」とありますが、最終章では清々しさも感じさせる一冊です。 -
Posted by ブクログ
『西遊記事変』の“お仕事小説味”+『両京十五日』の“決死行味”をミックスした味わい(なんだそれ)。面白いし読みやすい。
唐の玄宗皇帝の天宝14年(755)2月。長安の下級官吏・李善徳は途轍もない仕事を押し付けられる。楊貴妃の誕生日6月1日に嶺南産の茘枝を長安に届けろというのだ。その距離2500km!生の茘枝は3日で腐るという。絶対に不可能な使命に李善徳が取った行動とは…。
著者は「後書き」に、インスピレーションを得た日本の映画を幾つか挙げています。確かに“社畜”とか“官僚主義の不合理さ”など、現代と相通じるものを感じます。
ましてや現代の“かの国”では、ここで描かれた以上に“官僚機構の理不尽さは当たり前になっちゃってる”と、よく聞きますし…。色々と考えさせられる所がありました。
でも、エンターテイメントと割り切って読んでも面白いです。いい読書ができました。
【余談】
『西遊記事変』や『両京十五日』は齋藤正高さんの訳で早川書房刊。これが脚注が多くて実に参考になった。本書は別の訳者で文藝春秋刊。脚注無し。「エンタメ小説だから」と、割り切った翻訳という事かな。ま、すらすら読めるからいいんだけどね。ちょっと、物足らないと言うか、もったいない感じもするんだよな〜。例えばこの年(755)11月に「安史の乱」が始まる。物語は最終章でその事に触れてはいるけど、脚注とかでフォローしてあると、歴史的な視点がより広まって、面白さも倍増していくと思うんですけどねぇ。もったいない!