風間賢二のレビュー一覧
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いわゆる変格物に焦点を絞ったミステリ史。
前半は「オトランド城」を嚆矢とした西洋編で、後半は明治期の黒岩涙香らによる翻案物の隆盛から江戸川乱歩、新本格へという流れ。扱う範囲が広いため記述は教科書的かつ語り口の軽さもあってすいすい読めるのは良いが、扱っている題材と文体とのギャップに若干の戸惑いを感じないでもない。例えば、ウォルポールの紹介が「ケンブリッジ大学で学んだのち、親の七光りで国会議員になります。しかし、政界と頭角を現すことはなく、好きな古物収集や芸術にもっぱら精を出しました。いわゆるディレッタント。今日風に言えばオタクです。」とまぁこういう具合で、ゴシックロマンスの雰囲気とはほど遠い。
全体的な満足度は高い内容だが、広い範囲をコンパクトにまとめた分、どうしても物足りない部分が出てくる(特に乱歩以後の国内の展開は駆け足過ぎる)ので、それを補完するような副読本的なものが欲しくなる。 -
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原著2015年刊のキング短編集の2分冊目。
1分冊目よりも「ホラー以外」の、普通小説的な作品が多いが、やはり語りの面白さは変わらない。キングの大好きな野球の話に、犯罪要素が絡んでくる「鉄壁ビリー」が最も印象的だった。
キングの小説を読むとき、ストーリー展開に惹き付けられながらも、文章の味わいに同時に浸らせられる。地の文の、とりわけ登場人物のモノローグの部分に魅力があって、そこに醍醐味を感じるのだが、従って読むスピードは遅くなる。日本のこんにちのエンタメ小説を読むのよりも、ずっと遅いのである。
ストーリー展開に的を絞り、描写は最低限に抑制する作法がエンタメ系では常識的であり、この面では東野圭吾さんの文体および作法が効率性を精緻に追求していて機能的な美をも思わせるものがあるが、スティーヴン・キングにおいては描写や独白など、必ずしもストーリー展開優先の法則に則らない書き方に味がある。
長い長編小説でストーリーがサスペンスフルに盛り上がってくると、先が気になるあまり読む速度を上げたくなるのだが、キングの短編ではそんな「加速の欲求」が起きるまで至らず、最後までじっくりと読むことになる。だからキングの短編集を読むのは、私の場合、比較的時間がかかるのだということに気づいた。
比較的緩慢な速度となる小説ストリームの流れ方は、どちらかというと芸術的(純文学的)なそれに似ている。モノローグが肉薄してきて、その緊迫に捕らえられストリームの生に没入してしまうこの体験は、やはりドストエフスキーや太宰治のような文学と共通しており、それが得がたい時間、衝迫の体験として記憶される。
スティーヴン・キングを読むことは、やはり映画を見ることとは全然違う、あくまでも小説的な出来事の体感だ。 -
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「1922」と同じ原著の後半で、同様に2つの長い中編小説が入っている。
気になったのは、どちらも主人公が情報収集する際、パソコンでインターネット検索をするところ。グーグルとか、グーグルアースとか、Firefoxとか、なじみ深い名前がそのまんま出てくる。キングはもともと、アメリカ人の日常生活を極めて具体的に描くから、野球選手や歌手、車の名前なども頻繁に出てきた。それと同じ流儀で、今度はいよいよパソコン活用の日常が、流れ込んできたのである。
もうひとつ、キングが描出する危機的状況は、まず「孤独」の輪郭が強調されるという点。まるで他者たちと隔てる四方の壁に囲まれて、そこに当然帰還するとでもいうように、主人公らは「孤独」に戻ってくる。そして、つぶやく。このへんが、現代人の状況を適切に描写していると思った。
この本の2編とも、他者との隔絶がまずあって、主人公は「孤独」のなかに舞い戻る。個室でインターネット検索をすることが、とりあえず彼女らの「やるべきこと」である。壁の向こうの他者は恐怖の対象である。だから個室が必要であり、個室に戻らなければならない。
その意味で、はじめから典型的現代人は「地下生活者」なのである。「地下生活者」の無力感、救済不能性を、この2つの小説は暗示している。 -
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ネタバレ一気読みでした。うーん、さすが巨匠!どちらの中編も女性視点で、スリリングで、感情移入して読みました。
ビッグ・ドライバー。単なる通りすがりの悪意かと思いきや、共犯が2人も!辛くも生き延びたテスが、暗渠の中で出会うものが、彼女に復讐を決意させる…負けるなテス!ラストの告白が、少しだけ救いになるところがいい。
素晴らしき結婚生活。…よかったねダーシー、旦那の帰宅直後に殺されなくて( ;´Д`)。女の感は鋭いので、長く一緒に暮らしていても、夫の正体に気づかなかったとしたら、夫は相当に頭がいい。そしてそんな夫を、確実に仕留めようと思ったら、それを気づかせないことも難しい。でも、やっぱり最後はよくやった!
というわけで、イヤミス?のわりに読後感の悪くない作品でした。キングが後書きで言う「普通の人が異常な状況におかれる話」、それが面白くて自分の好みなんだなあ、と今更納得。この後も新刊が出待ちしてるようで、大変楽しみ!特にシャイニングの続編〜早く〜( ̄◇ ̄;)誰の訳かな? -
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タイトル通り「ミステリー全史」にはなってるんだけど、「怪異猟奇」という文字に期待して読むとちょっと違うかなあと。さすがその道の専門家だけあってゴシック小説の始祖『オトラントの城』から始まる小説史の流れを当時の思想宗教なども絡めてわかりやすく解説してくれる。大まかに前半が西洋小説史で後半が19〜20世紀初めの日本の探偵小説(幻想小説)史といったところ。ただ、なんというか、まるで講義を聴いてるような感じで、個人的にはお勉強感が強かった。特に期待したエログロ小説に触れた紙幅がさほどなかったのが残念。まあ風間氏もおっしゃる通り美女の切断死体がほとんどだったのだろうけど。作品のあらすじについて触れている部分があまりないのでブックガイド的なものを期待すると肩透かしを喰らいます。
【目次】
第一章 ゴシックこそがミステリーの源流
第二章 恐怖の二つのタイプ
第三章 ポーとセンセーション・ノベル
第四章 スピリチュアリズムとオカルト探偵
第五章 ドイル、そしてフロイトへ
第六章 内なる獣人、吸血鬼、火星人
第七章 黒岩涙香と翻案小説
第八章 ホームズとルパン、そして捕物帖
第九章 日本SFの始祖、押川春浪と武侠冒険小説
第十章 文豪たちの探偵小説
第十一章 雑誌「新青年」と江戸川乱歩、そして〈変態〉
第十二章 乱歩とエログロ・ナンセンスの時代
第十三章 探偵小説から推理小説、そしてミステリーへ
第十四章 〈新本格〉の登場、時代はパラミステリーへ?
参考文献、人名・作品名索引つき -
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ビッグ・ドライバー
プロットはありきたりな感じがしたが一つ一つの表現の仕方がキングっぽくてかなり世界観に浸れた
結局ハッピーエンドな感じがご都合感もあったけどこの物語の1番はどう抜け出してどう復讐するかってところだからまあ仕方ないか
素晴らしき結婚生活
もっとぎりぎりまでバラしてほしくなかったしもっというと背表紙のあらすじを書いてほしくなかった
もう少し長くしていいからおいおい、まじかよって思うための助走がほしかったな
ただ、ラスト辺りのダーシーの決断は素晴らしかったしそこの描写もめちゃくちゃよかった
両作共に映画化してるらしいがまだ観たことはない -
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ネタバレ最愛の妻と娘に恵まれ平穏な生活を送るフォーリーの秘密の悪癖はネットのAV動画で××することだった。ある日、大ファンのAV女優主演作品に汁男優募集の告知を見つけ、撮影が彼の住む町であることを知って応募する。罪悪感に逡巡しつつも家族の目を盗んで、撮影現場である墓場へ向かうが―。
「Z級ホラー」「超絶エログロ・ホラー」等々の煽り文句に、タイトルからして(あちらではR18作品の1ジャンルを示すスラング)お下劣極まりない内容であることは予想に難くなかったが、実際に読んでみてもその通り、だった。特にゾンビが現れて物語が急転直下する直前までの撮影シーンは「この本、“成人向け”にしなくていいのかしらん」てな描写が続くし、この手の映像作品を目にしたことのない読者……特に女性にとってはスプラッタ描写なんかより遥かに不快なんじゃなかろうか。同性からすれば「男ってやっぱりスケベでバカ(自分含め)」という感想だけども。
その後はゾンビ・パニックものの定番、次々現れるゾンビから逃れつつ家族のもとへ帰ろうとするフォーリーの姿が描かれ、そこにネクロフィリアの老人やらカニバリストの集団、強姦魔のグループ等が登場しては、これまたゴアでナスティな場面が再三挿まれるのだけれども、何というのか……強烈なキャラクターは登場するのにそれが活かしきれていないというか(あっさり死んではゾンビになって復活したりしてますが)。フォーリー自身も複雑な生い立ちをしていること、妻ディアドラも何らかの事情を抱えていたようで、それが2人が出会うきっかけになっていたことなどが序盤で語られており、それが後半の伏線になったりするのかと思いきや、それも特になく。
ただ、大概の作品なら終章の描写で幕を閉じ「あー、やっぱり」で終わってしまうであろうところを、終盤に登場したあるキャラクターの視点で描かれたエピローグ(それを「後戯」という銘打つセンスよ)が加わり、その後のフォーリーと家族の姿が語られている。その絶望感漂う静謐さは本編とは異なる雰囲気で、殊更に何とも言い難い余韻を残す。
ということで結論:良い子は読んじゃダメ!ですが、既婚者男性は戒めとして読んでおいた方がいい、のかもw -
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前半部(第一~六章)が欧米編、後半部(第七~十四章)が日本編と分けられてはいるが、実のところメインは後半部の日本編であって、前半はミステリーのみならず怪奇幻想やSF、ホラーの源流たる18世紀のゴシック・ロマンス「オトラントの城」から、明治時代に日本へ輸入されるまでの大まかな流れを述べた、という印象。ウェルズ「宇宙戦争」が出たところで唐突に日本編に入っちゃうし。
帯にある「異端の文化史」として、あるいは「幻想文学史の一側面」として読む分には面白いが、タイトルの“ミステリー”よりも“怪異”“猟奇”というワードに食指が動いた自分としてはやや肩透かし。さすがに20世紀の欧米モダン・ホラーについて触れられるとは思わずとも、“猟奇”とあればサイコホラー系やその周辺について言及されるだろうと期待しちゃうじゃあないですか。
……勝手に期待した自分が悪いんだけど。
著者には『ホラー小説大全』をアップデートした令和版を出してほしいもので。