森嶋マリのレビュー一覧
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「メルケル 世界一の宰相」。
「私にはいくつか問題があります。女であること、カリスマ性がないこと、コミュニケーションが下手なこと」(P95)。
まぎれもなくこれは名著である。
我が娘が将来仕事をするようになり、社会に貢献したいと願いながらなおその社会の理不尽さに翻弄されるようなときがきたらこの本を贈りたい。
同じようなバックグラウンドを持った同質な集団(西ドイツのエリート政治家集グループ、全員男性)の中に投げ込まれ、異物(東ドイツの田舎者と軽んじられる女性)として孤独を味わったときどうたち振る舞うべきか。
あまりにも多くの利害を調整せねばならず、しかもそのそれぞれの立場から無能をなじられても冷静さを失わないにはどのような鍛錬が必要なのか。
平気で嘘をつく、つまり交渉の前提の成り立たない相手となお平和的に合意するためにどれほどの忍耐が必要か。
そしてもちろん、今この瞬間の国際情勢をどのような基礎知識をもとに理解すればいいか。
「・・・首相に就任してからというもの、メルケルは定期的にプーチンと話し合いを続けてきた。
(中略)
話し合いの最初の三十分は、メルケルが聞き手にまわり、西側諸国によってロシアが被った被害---事実も含まれているが、大半は被害妄想---をプーチンに愚痴らせる。メルケルはそれをプーチンのためのセラピーと考えている。そんなふうにして言いたいことをすべて吐きださせてから、『いい?ウラジーミル、他の国は物事をそんなふうには見ていない。これはあなたにとって得策じゃない』と釘を刺すのだ」(p169)。
このような同時代的エピソード満載の中でも私から見てやはり本書の白眉は、シリア難民の受入(2016 年)をめぐる一章であろう。
「・・・危機というのはリーダーの持つ最も優れた資質を引き出すことがある。アンゲラ・メルケルにもそういうことがたびたびあった。だが、この難民危機のケースに限っては、リーダーとしては最悪ともいえる資質を二つも表面化させることになる」(P287)。それが何かは読んでもらうとして、このときの政治的な苦しみ、それを支えたキリスト者としての倫理観、そして空前の規模の難民受け入れという彼女の決断を最後に国民が受容していく過程の読みごたえは比類ない。
健全財政に固執してユーロ危機を悪化させた、習近平に阿った親中派だと日本でも賛否あるメルケル氏だが、でもこの人の引退でいよいよ世の中はまずいことになるのでは、と感じた人も多かったはずだ。
そして今、その予感が現実になりそうなことに皆が戦慄している。
本書のエピローグにこうある。
「メルケルの他にも、国のリーダーとして優れた指導者ぶりを発揮している女性は数人いる。だが、残念なことにその数はまだあまりに少なく、エゴを抑えられるという理由で女性のほうが最高権力者に向いているかどうか、まだ明確な結論を出すことはできない。ただし、アンゲラ・メルケル一人の例をもってして、一足飛びにそう結論したくなる気持ちも抑えがたい」(P441)。
断片的なデータだけで判断せず、常に集められる限りのエビデンスをもとに意思決定する。
そんなメルケルの特質を繰り返し強調してきた著者の、でもこれだけは言わせて的な迸りに思わず笑ってしまうのと同時に、ふと胸が熱くなるのである。 -
Posted by ブクログ
2005年から16年の長きに渡り、ドイツ初の女性首相として活躍し、自国の欧州盟主国としての地位を確固たるものにしたアンゲラ・メルケル氏の生い立ちや素顔に迫るとともに、様々な危機を乗り越えて多くの偉業を成し遂げた政治手腕の秘密を解き明かした一冊。
著者は、幼少期〜青年期を東ドイツの監視社会の中で過ごし、厳格な両親に育てられながらも共産主義イデオロギーに染まることがなかったメルケルが、ベルリンの壁崩壊を機に優秀な物理学者として地位を捨てて政界に転身し、巨大政党CDUで頭角を表し、要職を歴任後に首相まで登り詰め、国際政治の舞台で活躍した背景には、常に慎重でファクトや論理を重視する姿勢、政治家同士の権力ゲームから距離を置く実直で飾らない性格、男性中心の社会をしたたかに生き延びる並外れた自制心、さらにはどんな難局や難敵であっても諦めない、粘り強い対話力や交渉力があったと分析する。
ブッシュやオバマ、マクロンなど同盟国首脳とのやり取りや、プーチン、トランプ、習近平といった難しい相手に対峙する姿勢からは、民主主義の砦、あるいは他国間連携の要としての責任感や使命感が伝わってくるが、それはまた、ナチスという不幸な歴史から目を背けず、2度と同じ過ちを繰り返さないという強い決意の表れでもある。金融危機対応やシリア難民受入れからコロナ危機まで、ますます分断が進む世界で多くの困難に直面し、時に賛否両論を生みつつも数々の英断によって世界をより良い方向に導いたメルケル氏の実像がとてもよく理解できる良書。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自然の中にいるとリフレッシュする感覚。
自然がこのような人の気分やウェルビーイングだけではなく、思考力にも及ぼす影響を数値で示そうとしている。
記憶し、計画を立て、創造性を発揮し、集中する力、社交能力までもが自然によって左右される。
自然の中で15分過ごせば血圧とストレスが低下して気分がよくなり、45分過ごせば認知機能や活力、熟考する力が増し、3日間過ごせば創造性が50%向上するという実験結果もある。
バイオフィリアとは
人間が他の生きた有機体と情緒の面で生まれつき密接な関係をもっていること
注意回復理論(ART)カプラン夫妻
自然の風景の写真をみた後や実際に戸外で過ごしたあとには被験者の思考が明晰になり、不安感が減る
自然には脳を回復させる力がある。それはトップダウン処理を行う部分が解放されて、そのあいだにじっくり時間をかけて回復できるから。
自然は視覚だけではなく、五感に作用する。
森の香りや鳥のさえずりもリラックスさせる効果がある。
フラクタルパターンとは(数学者マンデルブロ)
一見複雑で混沌としている膨大な配列のなかに単純な幾何学的ルールがあること
荒削りな自然の中によく見られる。
フラクタルパターンが脳を活性化させる
視覚系のフラクタル構造が、視野に入ったフラクタル映像と適合すると、生理学的な共鳴が起こり、ストレスがやわらぐ
うつうつとした気分を改善するには、1ヶ月に5時間自然の中で過ごす。一回あたり30分程度を週に二回過ごせばよい。
スウェーデン、デンマーク、フィンランドは世界幸福度は高いが、自殺率も高い。(長く暗い冬が原因か?)
電話で話しながら歩く人たちは、トップダウン処理を行っている注意ネットワークが休まず動き続けている。歩く、聞く、話すというマルチタスクを行っている。特に話す行為は多大な注意を向けなければならない。
自然の中で過ごすと、反芻思考(うつや不安につながる)が改善される
発達過程にある子供の脳には自然が必要
自然の中で遊ぶと、子供の認知機能と情緒的発達において、運動と探検遊びが強化される。
4才から18才のこどもが体を動かすと、脳内物質の働きが活性化し、知覚能力、IQ、言語能力、数学的能力が向上するうえ、学習に向けた下地もできる。
思春期のこどもの前頭前野は、環境刺激によって形成される
都市部で活かす方法は、身近な場所に自然があること。
都会の隅々まで緑で埋め尽くすには、政府の確固としたビジョンが必要(シンガポールの例)
ところどころに少し野性味を加えると、都会の自然は最大の効果を発揮する。
ネイチャーピラミッド(ビートリー)
毎日;庭、観葉植物、街中の公園で一息つく
毎週;緑豊かな大きな公園、川辺などでリラックスする
毎月;ハイキングや森林浴に出かける
毎年;大自然に畏敬の念を抱く
準備、エネルギー、感性がこの本の源泉
樹木は地球のお役に立つべく、すでに気をつけの姿勢で立っている -
Posted by ブクログ
なぜ私は自然が好きで、走ることや園芸が好きなのか、その理由がわかった。
本から
Nature Fix
「どこにいるか」が幸福度を左右する
予測誤差
人間の細胞が環境を敏感に察知するのを知っていた
人はどんな文化であれ時代であれ「見晴らしが良く、かつ安全に身を隠せる」自分の城が欲しいと思っている
自然には人間を元気にする力がある
「自然欠乏症」
「ネイチャー・ニューロン(自然の神経細胞)
自然こそが人のふるさと
芳香性揮発物質、フィトンチッド
土から採取したカビの胞子からペニシリンをはじめ重要な抗生物質を人工的に作ることが出来る。土には人間を癒す力があるのだ。
マインドフルネス その時の自分の内面的・外的経験にフルに注意を向け、あるがまま受け入れること。
スマイスによれば、ごく短時間でも自然に触れるようにすれば、いま脚光を浴びている瞑想などのストレス解消法より大きな効果が得られるそうだ。
ジョン・ワッツラスキン
「静寂なる大気は甘美にあらず。音ともつかぬほどのものがあたりに息ずくとき初めて心地良さが生まれるー鳥が奏でる三連音符、低く高く鳴く虫の音があってこその静寂である」
「聴力は、僕たちのて天賦の才だ。積極的に外に出て、繊細で美しい音を聞き逃さないように努力しなければ、宝の持ち腐れになる」
緑がある環境にいると向社会的行動をとりやすくなり、地域社会との連携感も強まる。
「低木、木立、岩々を眺めていると、人間が欲する共鳴がつ伝わってくる」
べートーベン
新奇性効果
目新しい新鮮な経験をしていると気分が明るくなる
歩き始めると私たちの足はひとりでに草原や森に向かいます。もし庭園や木陰のある散歩道しか歩かないとしたら、どうなるでしょうか。
ソロー
「歩くことで解決する」 聖アウグスティヌス
「真に偉大なる思想は散策の賜物だった」 ニーチェ
「黙想できるのは歩いている時のみである。足を止めると、思考も停止する。私の頭が働くのは、足を動かしている時だけだ。」 ルソー
自然はカフェインのようなものだ。いや、ヘロインのようなものか。もっと、もっと欲しくなる。
一日に四十分間、ゆったりとしたペースでウォーキングを続ければ、加齢による脳の認知機能の衰えを防げるうえ、実行機能と記憶力が向上し、判断力と行動力のスピードが増す。 クレイマー
「賭けてもいい、自然に囲まれていれば前頭前野に負荷がかかり過ぎることなどありえない」 ストレイヤー
スピリチュアルな感覚は信仰心のみから生じるものではない。自然の中での超越的な経験からも生じるのだ。
スウェーデンの研究によれば、自然の多い環境では男子と女子の運動量のさgあ縮まるという。運動量の男女差を、自然が詰めると言ってもいい。森の幼稚園に通う子どもは、室内で過ごす時間が多い園児に比べて病気になりにくく、より多様でより健康的な細菌叢が体内に大量に宿っている。
ADHDの子どもたちはいわば前衛部隊だ。環境をその子どもたちの脳に順応させる方法がわかれば、ADHDでない者にも道が開ける。ひとつだけ、明確なことがある。人間の脳はそれなりの時間を戸外ですごしているときにもっとも成長する、ということだ。
脳は水が好きだ。ゆえに、川などを都市計画の中心に据えるのは理にかなっている。
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Posted by ブクログ
アメリカ人のみならず、立候補表明時には誰もが泡沫候補だと思った
ことだろう。立候補した本人以外は。
ドナルド・トランプである。アメリカ人の大富豪は、並み居る共和党候補者
を次々と撤退に追い込み、民主党のヒラリー・クリントンとアメリカ大統領
というVIP中のVIPの座を目指している。
私にしては珍しく旬の読書なのである。だって、大統領選前に何故、彼が
多くの批判を受けるのと同じくらいに、多くの支持を得ているのかを知り
たかったのだもの。
しかも、調査報道は得意中の得意の「ワシントン・ポスト」取材班。これは
読み逃すわけにはいかないでしょう。トランプ自身も取材班のインタビュー
に応えているっていうしさ。
先般、ヒラリー・クリントンとのテレビ討論会で司会者から「選挙の結果を
受け入れるか」と問われて、頑なに「自分が買った場合は受け入れる」と
繰り返していた姿こそ、本書でもトランプ自身が言っている「ドナルド・
トランプは負けたことがない」との現れなんだ。
でも、実際はいっぱい負けているんだけどね。憧れのニューヨークのプラザ
ホテルを買収したはいいが結局は手放す羽目になっているし、手掛けた
カジノは倒産している。自分のことが書かれた記事が気に入らないから
と高額の賠償請求訴訟を起こしても判事に却下されてるし。
でも、本人にしたら「負け」ではないらしい。誰かに似ていると思って考えた
ら、子ブッシュ政権時代の国防長官ラムズフェルドだった。ラムズフェルド
の自伝の感想に「究極のポジティブシンキング」と書いたけれど、トランプ
もまさしくそれ。
あ、偶然にもラムズフェルドのファーストネームも「ドナルド」だったわ。
ラムズフェルドは戦争屋だったけれど、トランプはアジテーターであり、
ショーマンである。
選挙戦では一貫して「ブルーカラーに共感する大富豪」として、国民の
不満のはけ口になるような言葉を連発し共感を呼んでいるものね。
大衆が何を求めているのか。それを嗅ぎ付ける嗅覚は非常に鋭いの
ではないかと思うわ。
しかも、既存の政治家が使う分かり難い言葉ではなく、感情に直接訴え
る分かりやすい言葉ばかりなんだよね。だから、他の候補者の誰よりも
一般の支持を得たのだろうな。
「俺はドナルド・トランプをやっている」
本人にとっては「ドナルド・トランプ」自身が既にブランドなのである。だから、
メディアを批判しながらもメディアに出続け、詐欺まがいの行為と恫喝で
イメージを守り抜く。
実際、トランプの純資産がどれくらいあるのかは不明だそうだ。本人のその
時々の「感覚」で資産額が変動するらしい。純資産は本当のところ、どれ
くらいあるんだろうな。
「アメリカは選挙を注視して私を大統領にするべきだ」なんて発言もあった
けれど、もし、まかり間違ってトランプが大統領になったら大統領専用機で
あるエアフォース・ワンの尾翼に「T」とか書いちゃうんじゃないのか。ホワ
イトハウスは「トランプハウス」に名称変更して、挙句には国名まで「ユナ
イテッド・ステイツ・オブ・アメリカ」から「ユナイテッド・ステイツ・オブ・トラ
ンプ」にして国からライセンス料を踏んだくろうとするかもしれん。
アメリカ大統領候補を様々な方面から描いた優れた評伝である。この膨大
な仕事を僅か3か月で仕上げた「ワシントン・ポスト」取材班に敬意を。
そして、間近に迫った大統領選挙の結果が楽しみである。トランプが負け
たらきっと「不正選挙だ」ってまたひと騒動なんだろうけれどね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ[監督,脚本,主演,大統領]先日のアメリカ大統領選で革命的とも言える勝利を収めたドナルド・トランプ次期大統領。その生い立ちから,共和党全国大会における大統領選候補の指名受諾までを追ったワシントン・ポスト取材班による力作です。計20人以上の記者を投入し,謎とブランドによるヴェールに包まれた次期米国大統領の生涯と世界観を明らかにしていきます。訳者は,野中香方子,池村千秋ら5名の翻訳家。原題は,『Trump Revealed: An American Journey of Ambition, Ego, Money and Power』。
2016年を飾る人物を評した2016年を飾る1冊。「不動産王」と紹介されることの多いトランプ氏ですが,本書を読むとそれは一側面に過ぎず,捉えきれないほど多様な顔を有することがわかります。語弊を恐れずに本書から浮かび上がってくるトランプ氏を簡潔に表現しようとすれば,「自ら暴風を起こすことのできる目利き風見白頭鷲」といったところでしょうか。
〜自分の職業について,彼はぶっきらぼうにこう述べている。「俺はドナルド・トランプをやっている」〜
トランプ氏自身は本書を「退屈だ」と(高く?)評価したようです☆5つ