読みごたえのある一冊でした。
2021年首相退任までの様子が書かれているので、現在の世界(EU)情勢がよく分かった。
イギリスのEU離脱に見られるように、決して一枚岩ではないEUの中で重要なポジションにいるのがドイツの首相。
メルケルさんは、35歳まで東ドイツで暮らした女性の物理学博士という西側諸
...続きを読む国の政治家としては稀有な存在です。
謙虚で質素、正確で根拠(エビデンス)に基づいた意思決定を信条とする。
どんな時でも、どんな相手でも、地道に辛抱強く合意点を見つけ出し問題解決に取り組んできた。
「日本の女性政治家」といえば、市川房枝さん、土井たか子さん、「日本のお母さん」といえば、京塚昌子さんが思い浮かびます。
メルケルさんは政治家なのですが、「ドイツの肝っ玉かあさん」というイメージもどこかに感じます。
これほど存在感と信頼感があり、親近感すら感じる政治家は他にはいません。
メルケルさんは、戦争に敗れロシアに支配された東ドイツという国で人生の半分を過ごしている。
ベルリンの壁が崩壊の時、そこに35歳のメルケルさんもいた。
壊された壁の向こうは、自由度も経済力も科学技術力も別世界だった。
東ドイツはどうなるのだろうと心配になったが、東西統一だと聞いてびっくりした。
ベルリンの壁が崩壊の時、東ドイツに派遣されていたKGBの諜報活動局のプーチンもいて、(おそらく)苦々しい思いを抱いていた。
今またロシアがウクライナ侵攻を再開しているが、2014年のロシアのウクライナ侵攻に対して粘り強く交渉し停戦に尽力したのがメルケルさんです。
メルケルさんはロシア語が話せる。プーチンはドイツ語が話せる。両者は通訳なしに会話ができる。
メルケルさんは長い間ロシアの監視社会の中で生きてきたので、ロシアの思想も理解しておりプーチンと最善の対応ができる人物として頼られもしたのだ。
ロシアのエネルギー、中国の市場、アメリカとは安全保障と、この3国と特に密接な関係にあるのがドイツという国だ。
アメリカとは、ブッシュ、オバマ時代は友好関係を築いてきたが、2017年にトランプが出現しアメリカが信頼できるパートナーではなくなった。
ドイツにとって最重要3国のトップが、プーチン、習近平、トランプになってしまったのだ。
実は2016年メルケルは首相の座を降りようとしていたが、世界各地での権威主義の台頭がそれを許さなかった。
ISテロ対策と難民受け入れがあり、イギリスのEU離脱が決まり、トランプが西側の秩序を壊しまくる。
プーチンは西側諸国の分断を大いに喜ぶ。習近平は様子を見て弱いところをじわじわ攻めてくる。
このままではプーチン、トランプ、習近平に好き勝手にやられる。世界の秩序を守るためにリーダーの役目を続けるしかない。
メルケルさんは、4期目は特に環境問題対策とデジタル技術の向上に注力するつもりだった。
AIと量子コンピュータの勉強もしていた。中国の技術力に脅威を感じていたのだ。
しかし未知のウイルスのパンデミックにより、コロナ危機管理マネージャーに急遽変身せざるを得なくなる。
コロナ対応に関しては、ドイツ人はメルケルの発する言葉を信じた。
メルケルに嘘をつかれたことは一度もなかったからだ。
15年間信頼を積み重ねてきた首相が、自分の言葉で自分の本心で語っているのが伝わって来たのだ。
日本やアメリカのように、公式な情報が信じられないのとは違っていた。
「国家レベルの危機にあっては、首相はそこにいる必要があって、責任者として指揮する姿を人々に見せなくてはならない。」
という当たり前のことをきちんと実践し、頻繁に国民に訴えかけた。
2005年首相になった当時は、東ヨーロッパやロシアとの友好関係維持やドイツ国内の問題改善に注力していたようだが、
2010ギリシャ財政危機からは、ドイツの首相というよりもヨーロッパの代表のようになる。
「自国のことだけを考えていればいいわけではないのです。我々はみな、この世界の一員なのです。」と言わざるを得ない世の中になってしまった。
メルケルさんの考え方や演説での発言内容は、当たり前のことのように思えるのだが、それが絶賛されるような社会は危険な兆候なのだともいえそうだ。
4期目の任期の終盤にきて、「レガシーは何か。」という質問には、そんなことを考えているヒマはないと答えていた。
自分を振り返る(=おおむね自分への言い分けで終わる)ことがじれったく我慢ならなかったようだ。
メルケルさんは、サッカーが大好きらしい。
世界中が平和の中で、純粋にワールドカップサッカーが楽しめる日が来て欲しいものだ。