【感想・ネタバレ】メルケル 世界一の宰相のレビュー

あらすじ

世界一の権力を握った歴史的なドイツの女性宰相、メルケルの決定的評伝!

東独出身の地味な理系少女が、なぜ権力の頂点に立てたのか?
――その強さの源泉は「倫理」と「科学」にあった。

牧師の娘として、陰鬱な警察国家・東独で育つ。天才少女としてその名を轟かせ、ライプツィヒ大学の物理学科に進学。卒業後は東独トップの科学アカデミーに科学者として勤務する。だがベルリンの壁崩壊に衝撃を受け、35歳で政界へ転身する。

男性中心のドイツ政界では完全なアウトサイダーながら頭角を現す。その過程では、東独出身の野暮ったさを揶揄されたり、さまざまな屈辱的な仕打ちも受けた。40歳で環境大臣に就任すると気候変動に取り組み成果をあげる。51歳で初の女性首相へとのぼりつめる。

首相としてドイツをEU盟主へ導き、民主主義を守り、ユーロ危機も乗り越えた。トランプ、プーチン、習近平ら癖のある各国首脳とも渡り合う。人道的理由から大量の難民を受け入れた。一方で、極右やポピュリズムの台頭にも悩まされた。元科学者ならではの知見を生かし、コロナとの戦いに打ち勝った。

演説では美辞麗句を好まず、事実のみを述べるスタイル。聴衆を熱狂させるオバマのような能力はないと自覚している。SNSは使わない。私生活も決して明かさない。首相になっても普通のアパートに住み、スーパーで買い物をする庶民的な姿が目撃されている。得意料理はジャガイモのスープ。熱烈なサッカーファン。夫の渾名は”オペラ座の怪人”。彼女がロールモデルと仰ぐ意外な人物の名前も、本書で明かされる。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

予備知識ほぼゼロの中で読んでみた本でした。
生い立ちから、東西冷戦を経て、首相となり、その後の人生まで波瀾万丈の政治生活だったと思います。
女性であることを始め、周りはいろんなレッテルを貼ってくるが、メルケルさん自身は自分は自分という想いと自分なりの信念をもって、ドイツはもとよりヨーロッパを率いてきたのだなと感じました。
自分のその時々の居場所、出来事、感情が、後々の自分の人生を作っていくのだと思う。その時々を大切にしたいです。

0
2025年03月17日

Posted by ブクログ

この本を読む前提として以下の2点をまず整理する
・学生時代にサッチャー回顧録を読んでおり同じ「鉄の女」比較を意識した
・メルケル時代のドイツに住んで難民危機の社会の雰囲気も体感していた

メルケルの基礎知識はあるつもりだったが幼少期の話しはへぇという話も多く興味深い。彼女にとって自由という理念がもっとも崇高なものであり、ソ連および社会主義体制への根本的な不信感と裏返しのアメリカへの大きな期待がある。ある意味でドイツの戦後を背負った人物である。さらにいえば、欧州域内で大人しく振る舞うこと、なおかつ欧州の地盤沈下を食い止めるリーダー役を宿命付けられたドイツの悩み・葛藤と向き合った政治家といえる。

サッチャーは新自由主義を旗印に強いリーダーシップのもとに政策を実現していったが、メルケルは違う。スピーチは穏やかで調整型。つまらなさもあるし、彼女の時代の好調な経済はシュレーダー前政権時代の改革の成果との評価もあるくらいだ。著者もメルケルを必要以上に美化していないので読んでいて違和感はない。

だが時にメルケルは脱原発や難民受け入れのような施策を打ち出し与党内でも波紋を呼ぶ。当時メルケルには軸がないのだ、という声もあったが、本を読めば先述の自由に対する思いなど彼女なりの強い信念があったことはうかがえる。

メルケルが重きを置く「自由」の敵ともいえるプーチン、トランプとのやりとりは映画のシーンに使えそう。何度読んでも飽きない。引退を諦めて4期目に突入して訪れたのが新型コロナウイルス危機。移動の自由の貴重さを東ドイツで痛いほど知っている彼女だからこその説得はこの本のハイライト。その分、彼女が最後にやりたかった米中に遅れたデジタル改革と気候変動は手付かずに終わった。そこは残念な面でもある。

残った問題は右翼・極右の伸長、そして後継者難か。前者はメルケルでなくても欧州の他国で起きていたので彼女がいたから穏やかで済んだのかもしれない。後者は彼女の政治の世界の恩人・コールとの距離感の取り方と、それを知っているが故に寝首を掻きかねない自分の後継者を育てなかったマイナス面があるのかもしれない。

ちなみにメルケルが退任したのが2021年12月。プーチン率いるロシアがウクライナに侵攻したのが22年2月。メルケルが表舞台から去るのを待っていたかのようだ。先日の欧州議会選でも極右・右派が伸長した。ドイツ、および欧州の前途は多難だな、と感じた。

なお、メルケル本人の回顧録が最近出ておりタイトルは「Freiheit (自由)」。日本ではKADOKAWAから出るとのこと。こちらも必読。

0
2024年06月15日

Posted by ブクログ

トランプにもプーチンにもエルドアンにも、その他の曲者にも立ち向かったメルケルさん、お疲れさまでした。フラフラかもしれませんね。歩ける? メルケル…?

0
2023年11月16日

Posted by ブクログ

政治家として16年ドイツの首相を務めたメルケル。それを支えた自分の資質を一つだけ挙げるとすれば何かと著者がインタビューした際に得られた答えは「忍耐力」。その言葉には、途切れぬ集中力やダメージを受けてからの回復力(レジリエンス)も含まれると著者。読み終えて、この意味がよく分かる。

為政者を取り上げた著作には、軸とする好奇の視点に加え、好意あるいは悪意が、どちらかに偏って主張される。本著は明らかに前者だ。メルケルを批判しようにも、隙が無かったとも言えるかも知れない。東ドイツ出身の科学者で女性政治家というマイノリティ。少なからず、そうしたバックボーンは彼女の人格に影響しているだろう。知的で理性的、忍耐強く、プーチンに仕返し、堂々と主張すべきを述べ、一方で涙ぐみながら移民の少女の話を聞くほどに、常識的で優しい感性、道徳に満ちている。

とりわけ、各国のトップとの交友秘話が本著の面白さだ。ブッシュ、オバマ、トランプ、プーチン、サルコジ、マクロン。ギリシアのアレクシス・ツィプラス。例えば、2007年、メルケルが犬を怖がると知ったロシアのプーチンは、自らのソチの豪邸に招き、愛犬のラブラドールレトリバーをけしかけた。対してメルケルは、プーチンのトラウマであるKGB時代潜伏地のドレスデンで意趣返し。メルケルとブッシュ大統領は良好な関係。当初は気候変動に関して懐疑的だったアメリカ大統領を味方につけることができた。ブッシュは気候変動が現実に起きていることを初めて公に認め、2050年までに排出量を半減させることを検討するとG8サミットで。また神経をとがらせていたプーチンを気にして、メルケルはウクライナとジョージア共和国をNATOに加えると言うブッシュの計画に反対し、メルケルの意見が通った。今の世界情勢を見るにメルケルの存在感は大きい。ただ、本著はメルケルを正義、プーチンやトランプを悪者として単純化している印象だ。

読めば読むほど、国のトップの役割の大きさを改めて感じる。日本は大丈夫だろうか。本著の副作用として、その不安が増長してしまった。

0
2023年02月05日

Posted by ブクログ

民主主義を守るためのエッセンスが詰まっています。メルケルの様な政治家が今後も誕生して世界をリードしていって欲しいと心から願う気持ちになりました。産まれた時から自由が当たり前だった戦後生まれの日本人には是非読んでもらいたいです。

0
2022年10月03日

Posted by ブクログ

非常に読み応えがあり、学びが多い一冊でした。

メルケルという人物を知るだけでなく、ヨーロッパの歴史や政治、世界の流れを理解する上で、非常に役立ちました。

メルケルは事実に基づいた粘り強い交渉の人でした。
多くの歴史・文化・思想を持つ難しいヨーロッパの中で、物理学者らしく事実をベースに困難な調整を進めます。そして東独出身の彼女は民主主義や自由の重要性を認識しており、その価値観を世界に訴えていきます。

プーチン、トランプ、中国などとも、謙虚な姿勢で対等に謙虚な交渉を続けていきました。

彼女のライフスタイルは、政治スタイルと同様、目立つことはなく、ベルリンの賃貸アパートで、質素に配偶者と暮らしているようです。

今までの私の政治家のイメージは、言葉のパワーを使ったリーダーシップタイプでしたが、メルケルは全く違いました。事実を中心に粘り強い交渉で物事を前に進める。そして信頼感を蓄積し、他国のリーダーや人民との信頼感を築いていく。様々な価値観が衝突する現代において、最もふさわしいリーダーであったと思いました。

謙虚さ、忍耐力、レジリエンス、理性の大事さを学びました。

0
2022年07月10日

Posted by ブクログ

読みごたえのある一冊でした。
2021年首相退任までの様子が書かれているので、現在の世界(EU)情勢がよく分かった。

イギリスのEU離脱に見られるように、決して一枚岩ではないEUの中で重要なポジションにいるのがドイツの首相。
メルケルさんは、35歳まで東ドイツで暮らした女性の物理学博士という西側諸国の政治家としては稀有な存在です。
謙虚で質素、正確で根拠(エビデンス)に基づいた意思決定を信条とする。
どんな時でも、どんな相手でも、地道に辛抱強く合意点を見つけ出し問題解決に取り組んできた。

「日本の女性政治家」といえば、市川房枝さん、土井たか子さん、「日本のお母さん」といえば、京塚昌子さんが思い浮かびます。
メルケルさんは政治家なのですが、「ドイツの肝っ玉かあさん」というイメージもどこかに感じます。
これほど存在感と信頼感があり、親近感すら感じる政治家は他にはいません。

メルケルさんは、戦争に敗れロシアに支配された東ドイツという国で人生の半分を過ごしている。
ベルリンの壁が崩壊の時、そこに35歳のメルケルさんもいた。
壊された壁の向こうは、自由度も経済力も科学技術力も別世界だった。
東ドイツはどうなるのだろうと心配になったが、東西統一だと聞いてびっくりした。
ベルリンの壁が崩壊の時、東ドイツに派遣されていたKGBの諜報活動局のプーチンもいて、(おそらく)苦々しい思いを抱いていた。

今またロシアがウクライナ侵攻を再開しているが、2014年のロシアのウクライナ侵攻に対して粘り強く交渉し停戦に尽力したのがメルケルさんです。
メルケルさんはロシア語が話せる。プーチンはドイツ語が話せる。両者は通訳なしに会話ができる。
メルケルさんは長い間ロシアの監視社会の中で生きてきたので、ロシアの思想も理解しておりプーチンと最善の対応ができる人物として頼られもしたのだ。

ロシアのエネルギー、中国の市場、アメリカとは安全保障と、この3国と特に密接な関係にあるのがドイツという国だ。
アメリカとは、ブッシュ、オバマ時代は友好関係を築いてきたが、2017年にトランプが出現しアメリカが信頼できるパートナーではなくなった。
ドイツにとって最重要3国のトップが、プーチン、習近平、トランプになってしまったのだ。

実は2016年メルケルは首相の座を降りようとしていたが、世界各地での権威主義の台頭がそれを許さなかった。
ISテロ対策と難民受け入れがあり、イギリスのEU離脱が決まり、トランプが西側の秩序を壊しまくる。
プーチンは西側諸国の分断を大いに喜ぶ。習近平は様子を見て弱いところをじわじわ攻めてくる。
このままではプーチン、トランプ、習近平に好き勝手にやられる。世界の秩序を守るためにリーダーの役目を続けるしかない。

メルケルさんは、4期目は特に環境問題対策とデジタル技術の向上に注力するつもりだった。
AIと量子コンピュータの勉強もしていた。中国の技術力に脅威を感じていたのだ。
しかし未知のウイルスのパンデミックにより、コロナ危機管理マネージャーに急遽変身せざるを得なくなる。

コロナ対応に関しては、ドイツ人はメルケルの発する言葉を信じた。
メルケルに嘘をつかれたことは一度もなかったからだ。
15年間信頼を積み重ねてきた首相が、自分の言葉で自分の本心で語っているのが伝わって来たのだ。
日本やアメリカのように、公式な情報が信じられないのとは違っていた。

「国家レベルの危機にあっては、首相はそこにいる必要があって、責任者として指揮する姿を人々に見せなくてはならない。」
という当たり前のことをきちんと実践し、頻繁に国民に訴えかけた。

2005年首相になった当時は、東ヨーロッパやロシアとの友好関係維持やドイツ国内の問題改善に注力していたようだが、
2010ギリシャ財政危機からは、ドイツの首相というよりもヨーロッパの代表のようになる。
「自国のことだけを考えていればいいわけではないのです。我々はみな、この世界の一員なのです。」と言わざるを得ない世の中になってしまった。

メルケルさんの考え方や演説での発言内容は、当たり前のことのように思えるのだが、それが絶賛されるような社会は危険な兆候なのだともいえそうだ。

4期目の任期の終盤にきて、「レガシーは何か。」という質問には、そんなことを考えているヒマはないと答えていた。
自分を振り返る(=おおむね自分への言い分けで終わる)ことがじれったく我慢ならなかったようだ。

メルケルさんは、サッカーが大好きらしい。
世界中が平和の中で、純粋にワールドカップサッカーが楽しめる日が来て欲しいものだ。

0
2022年06月12日

Posted by ブクログ

トランプや習近平、そしてプーチンという、権威主義的で信頼の置けない世界のリーダー達と堂々と正面から渡り合ったメルケルは、やはり歴史に残る偉大な政治家だったと改めて感じる。
女性なのに、だからという言葉が意味を成さず、圧倒的な人間力があり、そしてもちろん多少なりとも評価が分かれるところもあるが、人格者なのであろう。
バイデン、マクロンの言葉には、彼女のような重みは感じられない。
そして、メルケルの引退と同時にウクライナへの侵攻を仕掛けたプーチン。
メルケルが抜けた西側諸国に、プーチンと渡り合える人物は果たしているのだろうか?

0
2022年04月29日

Posted by ブクログ

メルケルと関わった人からの証言も多く、メルケルの人物像が浮かび上がってくる。そして、アメリカとEUなどの大国の力のある首相らがどのように現代社会を作っているかが分かる。現代ヨーロッパの政治、近代の歴史書として素晴らしい。ロシアがウクライナに侵攻している時なので、プーチンとメルケルとの戦いが現実感のある身近な事として受けとめることができた。

0
2022年04月02日

Posted by ブクログ

世界最高の権力を持った女性宰相メルケルの決定的評伝!東独出身の地味な理系少女が、なぜ権力の頂点に立てたのか?――その強さの源泉は「倫理」と「科学」にあった。
メルケルのことはあまり知らなかった。東独出身の女性ということくらいしか。結婚していたことも知らない。でも演説などからは自分の理想に近いなと思っていた。
でもこの本を読んで、彼女の冷静さ、女性たちが後に続けるよう声高に叫ぶよりも着実に実績を残すこと、話し合いを諦めず妥協地点を見つけること、全てに感銘を受けた。自分はかっとなりやすさがあるし、立場も仕事も違うけれど、おおいに参考にしたい部分がたくさんある。もちろん欠点もあるけれど人だから当たり前で、それ以上に温かさと理想のために身を尽くす姿勢に頭が上がらない。ロールモデルにしたい女性だし、こんなリーダーがいたら安心して国を託したいと思う。
彼女の生い立ちから人生をなぞるように書かれた評伝は、でも暴くというよりも彼女が徹底したプライバシーを守る姿勢を見せていて、その信頼に足る人物しか周囲には残れないのだという事実を浮き彫りにしていて、だからこそ著者のすごさも伝わってくる。

0
2022年03月27日

Posted by ブクログ

この時期(ウクライナ情勢の懸念からウクライナとロシアの戦争となってしまった)に、この本を偶然読めたことで、もしもメルケルがまだドイツの首相であったなら...
ウクライナ情勢は変わっていたのかもしれないなぁ〜と思いながらワールドニュースを毎日見ていました。というか見ています。

読み応えありです。かなり...

政治の裏(?)話、交渉とは...
文章を読みながらTVで見ていた過去のニュースの画像が目に浮かび、世界の政治がよりリアルに感じられます。

そしてメルケル、そのほかの登場人物(各国の首相など)の
心の動きまでも読み取れる文体で政治音痴の私も本当に十分に興味津々で読み進めることができた。
濃厚で人間像が浮かび上がる文体...。読みやすいです。

EUのことロシアのこと...中国...
世界史って政治って民族って...思想って...
何でしょう...

本当に読み応えのある本でした。本当に!

0
2022年03月19日

Posted by ブクログ

「メルケル  世界一の宰相」。

「私にはいくつか問題があります。女であること、カリスマ性がないこと、コミュニケーションが下手なこと」(P95)。

まぎれもなくこれは名著である。
我が娘が将来仕事をするようになり、社会に貢献したいと願いながらなおその社会の理不尽さに翻弄されるようなときがきたらこの本を贈りたい。

同じようなバックグラウンドを持った同質な集団(西ドイツのエリート政治家集グループ、全員男性)の中に投げ込まれ、異物(東ドイツの田舎者と軽んじられる女性)として孤独を味わったときどうたち振る舞うべきか。

あまりにも多くの利害を調整せねばならず、しかもそのそれぞれの立場から無能をなじられても冷静さを失わないにはどのような鍛錬が必要なのか。

平気で嘘をつく、つまり交渉の前提の成り立たない相手となお平和的に合意するためにどれほどの忍耐が必要か。

そしてもちろん、今この瞬間の国際情勢をどのような基礎知識をもとに理解すればいいか。

「・・・首相に就任してからというもの、メルケルは定期的にプーチンと話し合いを続けてきた。

(中略)

話し合いの最初の三十分は、メルケルが聞き手にまわり、西側諸国によってロシアが被った被害---事実も含まれているが、大半は被害妄想---をプーチンに愚痴らせる。メルケルはそれをプーチンのためのセラピーと考えている。そんなふうにして言いたいことをすべて吐きださせてから、『いい?ウラジーミル、他の国は物事をそんなふうには見ていない。これはあなたにとって得策じゃない』と釘を刺すのだ」(p169)。

このような同時代的エピソード満載の中でも私から見てやはり本書の白眉は、シリア難民の受入(2016 年)をめぐる一章であろう。

「・・・危機というのはリーダーの持つ最も優れた資質を引き出すことがある。アンゲラ・メルケルにもそういうことがたびたびあった。だが、この難民危機のケースに限っては、リーダーとしては最悪ともいえる資質を二つも表面化させることになる」(P287)。それが何かは読んでもらうとして、このときの政治的な苦しみ、それを支えたキリスト者としての倫理観、そして空前の規模の難民受け入れという彼女の決断を最後に国民が受容していく過程の読みごたえは比類ない。

健全財政に固執してユーロ危機を悪化させた、習近平に阿った親中派だと日本でも賛否あるメルケル氏だが、でもこの人の引退でいよいよ世の中はまずいことになるのでは、と感じた人も多かったはずだ。
そして今、その予感が現実になりそうなことに皆が戦慄している。

本書のエピローグにこうある。
「メルケルの他にも、国のリーダーとして優れた指導者ぶりを発揮している女性は数人いる。だが、残念なことにその数はまだあまりに少なく、エゴを抑えられるという理由で女性のほうが最高権力者に向いているかどうか、まだ明確な結論を出すことはできない。ただし、アンゲラ・メルケル一人の例をもってして、一足飛びにそう結論したくなる気持ちも抑えがたい」(P441)。

断片的なデータだけで判断せず、常に集められる限りのエビデンスをもとに意思決定する。
そんなメルケルの特質を繰り返し強調してきた著者の、でもこれだけは言わせて的な迸りに思わず笑ってしまうのと同時に、ふと胸が熱くなるのである。

0
2022年03月20日

Posted by ブクログ

2005年から16年の長きに渡り、ドイツ初の女性首相として活躍し、自国の欧州盟主国としての地位を確固たるものにしたアンゲラ・メルケル氏の生い立ちや素顔に迫るとともに、様々な危機を乗り越えて多くの偉業を成し遂げた政治手腕の秘密を解き明かした一冊。

著者は、幼少期〜青年期を東ドイツの監視社会の中で過ごし、厳格な両親に育てられながらも共産主義イデオロギーに染まることがなかったメルケルが、ベルリンの壁崩壊を機に優秀な物理学者として地位を捨てて政界に転身し、巨大政党CDUで頭角を表し、要職を歴任後に首相まで登り詰め、国際政治の舞台で活躍した背景には、常に慎重でファクトや論理を重視する姿勢、政治家同士の権力ゲームから距離を置く実直で飾らない性格、男性中心の社会をしたたかに生き延びる並外れた自制心、さらにはどんな難局や難敵であっても諦めない、粘り強い対話力や交渉力があったと分析する。

ブッシュやオバマ、マクロンなど同盟国首脳とのやり取りや、プーチン、トランプ、習近平といった難しい相手に対峙する姿勢からは、民主主義の砦、あるいは他国間連携の要としての責任感や使命感が伝わってくるが、それはまた、ナチスという不幸な歴史から目を背けず、2度と同じ過ちを繰り返さないという強い決意の表れでもある。金融危機対応やシリア難民受入れからコロナ危機まで、ますます分断が進む世界で多くの困難に直面し、時に賛否両論を生みつつも数々の英断によって世界をより良い方向に導いたメルケル氏の実像がとてもよく理解できる良書。

0
2022年02月20日

Posted by ブクログ

TVで見る節目節目の発言に好感を持っていたけど、深く知らないうちに引退されてしまったので後れ馳せながら読んだ本書。明晰な頭脳と考え抜かれた言葉遣い。自分の仕事の局面でも、彼女の姿勢に倣って取り組むと、不思議と落ち着いて考えられることに気付きました。本当に素敵な方です❗

0
2022年02月01日

Posted by ブクログ

恥ずかしながら雲の上の存在なのに、シンパシーを勝手に感じでいました。
この本を読んで絶頂期での引退、倹約、レームダックにならないなど、自分の哲学と相通ずるものがあることを確認できました。
改めて読んでよかったと思います。

0
2022年01月25日

Posted by ブクログ

メルケルという稀有な存在。
著者の洞察力、インタビュー力、文章力が秀逸。
翻訳者の言葉のチョイスが素晴らしかった。

読後、一本の大河ドラマを見終わったような
そんな気持ちになった。

0
2022年01月16日

Posted by ブクログ

 特に派手なパフォーマンスをするわけではなく、確実に、ゆっくりでも成果を上げていく人。功績や人気ではなく、結果を重視する人。
淡々としているため、人間らしさがなさそうに見えるが、実は非常に人間らしさがある。きっと信念を貫く気持ちがあるからそう見えているのか。
 コロナというパンデミックが起きた時に、メルケルの性格が人々に安心感を与え、またその時の、人間味があるメッセージにより人の心を動かすことができた。
 個人的に魅力のある、非常に面白い人だと思った。

0
2023年06月09日

Posted by ブクログ

読む奇きっかけ、ロシアによるウクライナ侵略

世界が直面している問題に関心を向けられる内容

ヨーロッパの一国であるが、近年の独裁、侵略、分断の歴史がメルケルのスター性を自身に求めない人柄を作った

特に気づいた点
•外国目線で世界の歴史を振り返ると、日本など殆ど存在しない。
•プーチンの厄介さをヒットラー独裁の歴史と東ドイツで育ったメルケルはとても理解していた。
•目を引くような事はしないが科学者らしく、着実で正確な措置ができ支持されていた。
•先端分野でトップに立つ中国の脅威

印象的な章
シリア難民の受け入れ
国民の不安、反対の声が相次いでも受け入れる意志を貫いた、生い立ちとも深い関わり感じる章です。

意外に面白い点
サッカー好きとしては熱狂的サッカーファンのメルケルチャーミングさ溢れ話も◎

0
2023年02月15日

Posted by ブクログ

欧州の政治や問題には、詳しくない私ですが、メルケルの人間性に興味があって読見ました。
歴史や宗教、民主主義、共産主義など今まで知らなかったこと少し理解できた。
1人の女性として尊敬に値する人でした。
難しい部分もありましたが、概ね理解できた。

0
2022年06月16日

Posted by ブクログ

メルケルの生い立ちと功績がまとめられている。
メルケル本人が書いていないためしょうがないが、もっと内面世界を知りたい

0
2022年05月05日

Posted by ブクログ

メルケルのコロナ対応に際して国民に呼び掛けた演説に感動して、どんな人物か少しでも知りたいと思い、読み始めました。
東日本大震災の惨事から原発政策からの完全撤退の決断、ロシアの天然ガスパイプラインへの投資の決断、中国への経済的傾斜への舵取り、ユーロ危機に際してEU支援に背を向けるも、コロナ禍で財政疲弊したEU加盟の国への支援にフランスと共に財政負担を決断等、その時々のドイツやEU、民主主義陣営を守るべく行動の数々がまさにメルケルなのだと思います。
首相の仕事を「私の呪わしい努め」と表現する人物、「努力の人だったと歴史書に書かれたい」と語る人物、本書が言うには「名誉や功績より、結果を求める人物」、国内政治への権限が制約されている連立政権の首相でありながら、世界のリーダーとしての活躍に驚くばかりです。
メルケルの再登場を求める様なロシアのウクライナ侵攻を目にして、この事態を今解決に導いてくれる政治家が居るのだろうかと思いました。

0
2022年04月13日

Posted by ブクログ

メルケルの出自等について日本のメディアは報じてくれないので、その点において貴重。女性であることと、多少の運もあっただろうけど、トントン拍子に権力の座についていく様は痛快。今となっては、プーチンとの関係についても色々と考えさせられます。

0
2022年04月02日

Posted by ブクログ

メルケルの人生と政治家としてのスタンス、実績、他国との付き合い方が分かる本。
日本にいると、欧州のトップ同士の付き合いとか分かりにくいけど、よくそれが理解できる。
メルケルとプーチンは元警察国家出身だから、お互い理解(ただし共感では決してない)できるし、対ロシアとの交渉は、欧州、時にはアメリカも含めメルケルが対応することが多かったよう。
また、アメリカ大統領で1番信頼していたのがブッシュだったらしい。
同じ女性として、ここまで頭が切れて人生を切り拓き、だけど権力に溺れず、家庭を大事にする人は素直に尊敬できる。
勿論かなり良い方に描かれてはいるだろうけど、メルケルと統治下のドイツ政治を知る最適な入門書だと思う。
ドイツは首相の権限がかなり狭く、しかも連立政権なので、実は内政で出来ることはあまり無く外交に力を注いでいた、最後の一年は与党党首を辞めて外交強化のつもりがコロナ対策に追われたなど、よく知らないドイツの政治もなんとなく全体像が見えてくる。

0
2022年03月26日

Posted by ブクログ

著者をあまり意識せずに読み始めたので、誰目線?って感じが強かった。
今でも存命の方の、伝記的要素の強い本なので、どうしてもフラットな書き方はできないのは分かりつつも、賞賛する方の書いた本と言う雰囲気がダダ漏れだったのはちょっと残念。
ただ、日本人が、日本語で、遠いヨーロッパの首相を務めた女性のあゆみを知ることに於いては、決して内容的に劣るものでは無い事も確かです。
この本を日本に出版し、彼女について私たちが知る事はとても有意義な事でしょう。
彼女が引退し、ウクライナとの戦争が始まったのは偶然では無いと思います。彼女の力で今までくすぶりつつも戦争にまで発展しなかったんだと、この本を読み、強く思いました。

0
2022年03月20日

Posted by ブクログ

私達はメルケルの多くを知りません。
確かに、ドイツという欧州で重要な国の一つである以上、日本にいてもメディアを通じて触れる機会は多いです。
しかしそれはあくまで一政治家としてのメルケルです。ドイツ関連の本でメルケルに触れる記述をみても、その人物像に触れる記載はほとんどありません。メルケルは多くの自己顕示欲の強い、派手な各国のトップと異なり、プライベートを徹底して明かさない人でした。
そのためメルケルについて多くを知る、ということは困難なことなのでした。

本書はそんなメルケルについて多くを知ることができます。

牧師の娘として生まれ、冷戦下の東ドイツで育ったメルケル
抑圧された生活の中で自分を巧みに守りながら勉学に励む。名門ライプツィヒ大学(カール•マルクス 大学)へ入学。物理学を選んだ理由の一つが「東ドイツでも基礎的な算術と自然の法則を止めることはできなかったから」。
23歳で結婚し現在まで名乗ることになるメルケルとなるも3年で離婚。ちなみに直後しばらくは荒廃地域のアパートの空き部屋に無断で住んでいたとのこと。
ベルリンの壁が崩壊。
眩い輝く未来が広がっていることを感じ、刺激を求め、また新たな国をつくることにも魅力を感じ、政治家へ転向。
以後現在に至る。

多様性と自由を尊重する、寛容である、感情的にならずに冷静に理性的に人と接し物事を取り組む、物事をじっくり考え慎重に行動を起こす、そのようなメルケルの姿勢がその生い立ちを背景にして染み入る様に理解できます。

著者のカティ•マートンは旧東欧のハンガリーで生まれ育ち、ユダヤ人の祖父母をアウシュビッツでなくした背景をもつ女性の元記者とのこと。
ドイツ、欧州、米国のかつての政権周辺の重要人物にも多く取材をしており、メルケルが関わった年代のドイツ国内、国際政治の裏側の一部を垣間見ることができるのも、本書の面白いところです。

尋常ではない体力で、国内、欧州、世界と大小の差はあれそれぞれの深刻さを抱えた問題に、焦らず、感情的にならず対処していく様は、ドラマチックと言う類のものではないにしても驚きを持って受け止めるべきものです。

2014年のロシアによるウクライナ侵攻以降のプーチンとの闘いについて。このあたりの話題は現在のウクライナ戦争にもつながるものであり、情報としても重要かつ価値があるものでしょう。
自由と民主主義の世界代表として話し合いで解決を目指すメルケルと、権威独裁主義で嘘を交え(真実を交え、の方が適当か?)争いで抑えつけようとするプーチンの闘い。政治的な描写だけでなく人間的な側面も交えて生々しく描かれています。
とはいえメルケルは、プーチンに対しても極めて冷静に(心の中ではともかく)、事実やデータを踏まえて、粘り強く対応していきます。十数時間のぶっ続けの会議の末に結ばれたミンスク合意も(内容とその後の現実はともかく)、それまでのメルケルの粉骨砕身の努力によるところが大きいのだということがよくわかります。

スキャンダルとは無縁で、自由、民主主義、人権の尊重などの確固たる信条を持ちながらも、様々な利害関係の中で多くの妥協をしてきたメルケル。こんなすごい人でも完璧にこなすことはできないんだ、と社会と世界が安定して存在することの絶望的な難しさをつくづく感じます。
と同時に多様な人々の間で一致点を探ろうとして、それが一時的にでも生まれた瞬間の輝きに触れると、人を信じて対話をしていくことを諦めてはいけないという思いにもさせてくれます。

首相時代からずっと賃貸マンションに夫と住んでおり、自分でスーパーへ買い物に行って料理を作る(洗濯は夫)メルケル。
現欧州委員会委員長かつメルケル政権元国防相であるウルズラ•フォン•デア•ライエンに手を添えられながら彼女を見つめるメルケルは、とても慈愛に満ちたチャーミングな表情をしています。

0
2022年03月02日

Posted by ブクログ

電気を読むに相応しくないと思いつつも、深く感動し、胸が熱くなる想いで読み終える。彼女が4期歩んだドイツへの想い、東ドイツ出身なればこそ、牧師の娘、科学者という幾つかの運命的なモチーフを痛感する。2021末で表舞台から去った彼女は最後まで謙虚の姿勢を崩さなかった。良し悪しの評価は無責任な後世へ委ねるとして、個人的には世界最高の女性指導者にリストアップされると思える。

伍した中でもプーチン、習近平は権威主義の権化、とても並では太刀打ちできないと思うし、一旦退いたとは言えトランプ主義の残影は残って何時牙をむくやもしれぬ。

最後の時間で「やっと」訪れたアウシュヴィッツ収容所、彼女の想いの片鱗に触れるだけでも涙が出た。
フランスと組する想いの欧州合衆国構想は複雑な世界政争の一こまを見るようである・・マクロンとの頬を寄せ合う姿が興味深い。
最後に彼女が去る決定打となった「荒れて行くドイツ政界・・極右政党の台頭」のシーンはひりつく想いだった。

0
2022年01月23日

Posted by ブクログ

女性で首相、ニュースで見聞きするだけでも存在感を感じた彼女の経歴に興味があり、手に取る。
この本の位置付けを語れるほど知識を持っていないが、彼女の経歴・考え方について知る。

0
2022年08月11日

「社会・政治」ランキング