山田昌弘の作品一覧
「山田昌弘」の「「今どきの若者」のリアル」「家族難民 中流と下流-二極化する日本人の老後」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
『希望格差社会』は、単なる経済格差論ではなく、「希望を持てるかどうか」そのものが社会的に分配されなくなった日本の構造を描いた点で、いまなお射程の長い一冊である。著者の**山田昌弘**は、グローバリゼーションと産業構造の転換によって、戦後日本を支えてきた「安心社会」が解体し、若者が将来像を描けなくなった過程を丁寧に追っている。
本書で繰り返し強調されるのは、「五年後の生活も見えない人に五十年後の年金を語っても響かない」という現実だ。かつては努力の先に、安定した職業と家族生活が“だいたいの人”に約束されていた。しかし現在は、成功体験は能力を持つ一部の事例として提示されるだけで、多くの人は不安定な雇用、家族の不確実性、教育のパイプラインからの漏れにさらされ、「負け組」というラベルを内面化していく。結果として生まれるのが、量的・質的・心理的格差、とりわけ**「希望格差」**である。
ここで本書を現代的に読み直すと、著者の言う「社会の変化に制度が追いつかない」という問題の背景には、政治思想の歪みがあるのではないか、という点が浮かび上がる。すなわち、リベラルが本来担うべき再分配や雇用・生活の安定設計から後退し、人種差別やLGBTといった象徴的・文化的課題に軸足を移す一方で、経済面では「自己責任」を前提とするネオリベラルな制度運営を黙認・補完してきたことが、希望の基盤を掘り崩したのではないか、という問題意識である。
多様性や人権の重視それ自体は否定されるべきものではない。しかし、それが**「生活の再安定化」や「リスクの社会的分担」と切り離された瞬間、リベラルは結果的にネオリベラルを下支えする存在**になってしまう。雇用は不安定なまま、家族も教育も個人責任に還元され、「努力が報われない」という感覚だけが広がる。山田が描いた希望喪失の構造は、まさにこの思想的ねじれの帰結だと読める。
本書の結論は悲観では終わらない。公共的支援や職業カウンセリングを「小出しにしない」こと、若年期からの現実的な進路支援など、希望を再構築するための具体策も示されている。『希望格差社会』は、単なる若者論ではなく、経済的安全網を欠いたまま価値の言葉だけが先行する社会が、いかに人のやる気と未来像を奪うかを告発する書であり、今こそ再読されるべき一冊だと感じた。