志水辰夫のレビュー一覧
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「飢えて狼」「裂けて海峡」「行きずりの街」「あっちが上海」「狼でもなく」「今ひとたびの」「君去りし後」など涙腺を刺激するシミタツ節を確立した和製ハードボイルド傑作群の作者が新たに時代小説に挑戦したのが2007年「青に候う」で、本作は時代小説3作目となる。
通し飛脚という職人にスポットライトをあてた4作の短編集です。中でも、「出直し街道」が泣かせる。この1編で、☆4となりました。
解説の北上次郎氏は、時代小説でハードボイルド卒業と評してますが、本作で描かれた飛脚たちのおせっかいは、ただのおせっかいではなく、命をかけたおせっかいに特徴があります。この設定は十分シミタツ節ハードボイルドでしょう。
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不器用な昭和の男の話である。今の令和の世になかなかいない自分の戒律に忠実に生きる男、越智。彼は常に安直な道よりも茨の道を進む。
久々のシミタツの筆致に酔わせていただいた。ビシビシと胸に残るフレーズ、そして愚直なまでの男と女を書かせたら、抜群に巧い。
苦難の末、印南を捕らえ、亡き妻の墓前で打ちのめす彼の、妻とその両親との話。
単なる興味本位で付き合う男女、弘美とヒラリオとの関係に関する述懐―「夢だけ残して気持ちよく別れるには、深く結びつき過ぎているような気がする」は名言だなぁ―。好きな女と結ばれるのにも、過去のしこりを残したままではふんぎれない越智のやるせなさ。これらの越智の台詞にはもうたま -
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内藤陳さんの「読ま死ね」を読み、あらためて若かりし頃ワクワクして読んだ本作を再読。
シミタツはやっぱりいいな。
初期の作品はほとんど読んでいるが、中期から後期の作品はあまり読んでない。これからはどんどん読みたい。
本作の時代背景の冷戦は終わったが、今の地政学上の緊張感を考えると以前のエスピオナージュも案外と古びてない。
ただし、主人公のようにタフな男は少々現実離れしており感情移入はしにくいが、男としてかくありたいという願望はある。
巻き込まれ型の典型的な物語で、グングン話が進みついていけないところもあるし、ヒロインとの関係などは、もう少し深掘りして描いた方が良いかなと思う所もあるが概ね楽し -
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世話になっている古書店にかかって来た1本の電話。電話の
主は25年前、この古書店をひいきにしていたという。
関東に戻って来た。実は蔵書を処分したい。ついては昔馴染み
の店に頼みたい。そんな依頼を受けて湯原直子は指定された
横浜市内の住宅へ足を運ぶ。
生憎、老齢の店主は体調を崩して入院中だ。蔵書リストだけを
受け取るつもりだった直子の前に差し出されたのは1冊の本。
預かったのは稀覯本。しかし、それはとある場所からの盗品
だった。ことの真相を確かめる為、再度、横浜に向かった直子
だったが、訪問したはずの住宅はもぬけの殻。何もかもが
直子を迎える為のトリックだった。
そうして、元の持ち主の元 -
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これまた志水辰夫の作品。母からもらった本の中に入っていた。
日本国内で「冒険」をさせることにかけては、この人は本当にうまい。
後ろ暗い商売をしている男、青野淳一郎が主人公。事件に巻きこまれつつも東京へ戻ろうとしていた青野は、とある山荘にたどり着く。そこはさながら要塞のように堅固なつくりになっていた。
その要塞の持ち主と彼の妹に接しているうちに、やがて要塞で銃撃戦が始まる。銃撃戦の後、青野と妹の脱出劇が始まる。
うまいとはいえ、やはり日本で普通に冒険の「きっかけ」を作るのは難しい。
今回は要塞の持ち主の敏之は国家機密を握る国家秘密機関の人間ということになっている。そして敏之は自身が握 -
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一度読んだことがあるのだが、何故か突然シミタツ節に触れたくなり、購入(105円でした、すみません)。
ストーリーはオーソドックス。かっこいいヒーローがでてくるわけでもない、美人のヒロインが出てくるわけでもない。ハリウッドばりのアクションシーンがあるわけでもない(あるけれど、主人公はズタボロにされている)。
それでも、あっという間に引き込まれ、読み終えてしまう。
ハードボイルドとは、汚い街をゆく、孤高の男の戦いを描いた男の小説である、というけれど(うろ覚えですが)、そのくだりでいうなら、まさしくこれはハードボイルドの王道。
地方で塾の講師をしていた主人公は、教え子の行方を探しに東京へくる。主