志水辰夫のレビュー一覧
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シミタツ節健在!
今現在89歳の志水辰夫氏が、「新蔵シリーズ」第3巻書き下ろしを提げてのお披露目だ。
今回も、「新蔵」は身を粉にしてか弱い女性二人のために一身を犠牲にして守り抜く行動に徹する時代物ハードボイルド物語だ。
簡単な粗筋は⋯
「新蔵」は、山中で3〜4歳の弟を背負った10歳の少女「ゆふ」と出会う。
会った時から「ゆふ」が秘めている不思議な能力を新蔵は感じ取っていた。
その「ゆふ」の能力を見込んだ九州の宇佐神宮から比売巫女(ひめみこ)として迎え入れたいとの願いがあった。
「ゆふ」には、卑弥呼以来の能力を備えている可能性があるとの見込みがあるとの理由で、何としてでも迎え入れたいと切望されたのだ。
そこで「ゆふ」を無事に宇佐神宮に送り届けるため、護衛の任を「新蔵」は任されることになる。
越後の春日から山陰道経由で大阪に向かい、そこから瀬戸内海を渡って宇佐を目指すことになる。
その間、妨害する何者かに襲われ続けることになり、多くの犠牲者が出てしまう。
果たして「新蔵」は「ゆふ」一行を無事に宇佐へ送り届けることができるのか、ヒヤヒヤの連続の物語が綴られていた。
志水辰夫氏のデビュー以来、追っかけを続けている私にとって、この一冊はとても嬉しかった。
相変わらずの美しいシミタツ節を存分に味わった。
ご高齢だとは知りつつも、まだまだ志水辰夫氏には可能な限り書き続けて頂きたいものだ。 -
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志水辰夫『負けくらべ』小学館文庫。
ミステリー、冒険小説作家から歴史小説家に転身し、しばらく歴史小説ばかりを執筆していた志水辰夫が19年振りに執筆した現代小説である。
何とも不思議な魅力を持つ小説だった。登場人物の殆どがその出自や生き様に問題を抱え、ミステリー・サスペンス、スパイ冒険小説の要素も混じったヒューマンドラマになっているのだ。そして、何よりも主人公の三谷孝の持つ類稀な能力や人物像に不思議な魅力を感じるのだ。
対人関係能力、調整力、空間認識力、記憶力に極めて秀でたギフテッドである初老の介護士の三谷孝は、誰もが匙を投げた認知症患者の心を次々と開き、業界では知る人ぞ知る存在だった。また、三谷はその能力で内閣情報調査室の青柳にも協力していた。
そんな三谷にハーバード大卒のIT起業家の大河内牟禮が惹かれ、三谷は雇われ形で大河内の相談相手となり、二人の不思議な交流が始まる。
大河内が経営するベンチャーIT企業は、莫大な富を持ち90代にして権勢を振るう義母の尾上鈴子がオーナーを務める東輝グループの傘下にあったが、尾上家との軛を断ち切り、グローバル企業を立ち上げたい大河内の前に、鈴子が立ちはだかる。そして、大河内をサポートする三谷までもが、金と欲に塗れた抗争に巻き込まれてゆく。
本体価格850円
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「飢えて狼」「裂けて海峡」「行きずりの街」「あっちが上海」「狼でもなく」「今ひとたびの」「君去りし後」など涙腺を刺激するシミタツ節を確立した和製ハードボイルド傑作群の作者が新たに時代小説に挑戦したのが2007年「青に候う」で、本作は時代小説3作目となる。
通し飛脚という職人にスポットライトをあてた4作の短編集です。中でも、「出直し街道」が泣かせる。この1編で、☆4となりました。
解説の北上次郎氏は、時代小説でハードボイルド卒業と評してますが、本作で描かれた飛脚たちのおせっかいは、ただのおせっかいではなく、命をかけたおせっかいに特徴があります。この設定は十分シミタツ節ハードボイルドでしょう。
PS. 校正ミス見つけました。
「よけいなことを知らせる必用などない」(P447)はモノが絡まないので「必要」が正しいはずです。 -
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不器用な昭和の男の話である。今の令和の世になかなかいない自分の戒律に忠実に生きる男、越智。彼は常に安直な道よりも茨の道を進む。
久々のシミタツの筆致に酔わせていただいた。ビシビシと胸に残るフレーズ、そして愚直なまでの男と女を書かせたら、抜群に巧い。
苦難の末、印南を捕らえ、亡き妻の墓前で打ちのめす彼の、妻とその両親との話。
単なる興味本位で付き合う男女、弘美とヒラリオとの関係に関する述懐―「夢だけ残して気持ちよく別れるには、深く結びつき過ぎているような気がする」は名言だなぁ―。好きな女と結ばれるのにも、過去のしこりを残したままではふんぎれない越智のやるせなさ。これらの越智の台詞にはもうたまらないものがある。
令和の現代に忘れられようとしている信義とか仁義がここにある。
とにかく老人と一途な愛、忍ぶ愛に生きる女、そして不器用で決して富裕でないストイックな男がシミタツ作品には極上のスパイスとなっているのだ。
そして携帯電話が無い時代であるがゆえに生まれるサスペンス。こういう不便さが熱い物語を生み出すのだなあとも思った。
そして主人公の視点から見せる訪れるであろう危機に対する客観的な描写も健在。周辺に停まった車、自分が顔を向けると同時に顔を背ける女、よそよそしい管理人の態度などでこれから起こるであろう危機の予兆を見せ、主人公同様の鬱屈とした不安感を誘う筆致を久々に堪能した。
タイトルの『散る花もあり』。散った花は思いの外、大きかった。通常ならばこの言葉は反語表現として使われ、その前には「咲く花もあれば」となるだろう。しかし、ここではあえて逆にしてこう云いたい。
「散る花もあり。やがて咲く花もあり。」
越智は旅立つ。その先にきっと咲く花、美世が待っているはずだ。 -
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内藤陳さんの「読ま死ね」を読み、あらためて若かりし頃ワクワクして読んだ本作を再読。
シミタツはやっぱりいいな。
初期の作品はほとんど読んでいるが、中期から後期の作品はあまり読んでない。これからはどんどん読みたい。
本作の時代背景の冷戦は終わったが、今の地政学上の緊張感を考えると以前のエスピオナージュも案外と古びてない。
ただし、主人公のようにタフな男は少々現実離れしており感情移入はしにくいが、男としてかくありたいという願望はある。
巻き込まれ型の典型的な物語で、グングン話が進みついていけないところもあるし、ヒロインとの関係などは、もう少し深掘りして描いた方が良いかなと思う所もあるが概ね楽しめました。 -
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世話になっている古書店にかかって来た1本の電話。電話の
主は25年前、この古書店をひいきにしていたという。
関東に戻って来た。実は蔵書を処分したい。ついては昔馴染み
の店に頼みたい。そんな依頼を受けて湯原直子は指定された
横浜市内の住宅へ足を運ぶ。
生憎、老齢の店主は体調を崩して入院中だ。蔵書リストだけを
受け取るつもりだった直子の前に差し出されたのは1冊の本。
預かったのは稀覯本。しかし、それはとある場所からの盗品
だった。ことの真相を確かめる為、再度、横浜に向かった直子
だったが、訪問したはずの住宅はもぬけの殻。何もかもが
直子を迎える為のトリックだった。
そうして、元の持ち主の元に手紙が届く。直子に渡した本以外
にもあなたの蔵書がこちらにある。買い戻す気があるのなら、
幾ばくかの現金と交換だ。
誰が、何の為に仕組んだトリックなのか。物語が進むうちに
隠されていた過去の出来事の真相が浮かび上がって来る。
最近は時代小説の多い著者だけれど、『行きずりの街』や
『背いて故郷』等のハードボイルドな作品が好きだった。
「過去のキズ」がテーマになる作品が多い著者なので、本書
もそうなのだが女性が主人公であるのが異色かな。
謎解きと愛憎劇が展開されて、終幕へ向かうのだがすべての
謎が明らかになっても誰も憎めない。それぞれが背負った
哀しさが余韻として残る。
やっぱりいいなぁ、シミタツ。他の作品を再読しようかなぁ。 -
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これまた志水辰夫の作品。母からもらった本の中に入っていた。
日本国内で「冒険」をさせることにかけては、この人は本当にうまい。
後ろ暗い商売をしている男、青野淳一郎が主人公。事件に巻きこまれつつも東京へ戻ろうとしていた青野は、とある山荘にたどり着く。そこはさながら要塞のように堅固なつくりになっていた。
その要塞の持ち主と彼の妹に接しているうちに、やがて要塞で銃撃戦が始まる。銃撃戦の後、青野と妹の脱出劇が始まる。
うまいとはいえ、やはり日本で普通に冒険の「きっかけ」を作るのは難しい。
今回は要塞の持ち主の敏之は国家機密を握る国家秘密機関の人間ということになっている。そして敏之は自身が握る機密と引き換えに国外逃亡を図っているという設定だ。
その機密を知る人間とみなされて淳一郎や敏之の妹は狙われ、追われる。
要塞を脱出し、なんとか逃げ延びようとするふたりを追う秘密機関の人間がいれば、ふたりをなんとか助けようとする、淳一郎の親族の男もいる。その男は東京で挫折し、田舎に引っ込んできていた男だった。だからこそ、生きることに必死になっている淳一郎と女を救おうとし、そのことが自分の生きる証にしようとする。
ラストシーンは海のシーンで終わる。こういう時は、やはり日本海だ。太平洋の明るく開けた青い波でなく、重苦しく黒い水面と白い波頭。それと対比されるように神々しいほどに落ち着いたふたりの姿。
シミタツ最高傑作! ではないが、もう一度冒険小説書いておくれよといいたくなるような、そんな作品。 -
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一度読んだことがあるのだが、何故か突然シミタツ節に触れたくなり、購入(105円でした、すみません)。
ストーリーはオーソドックス。かっこいいヒーローがでてくるわけでもない、美人のヒロインが出てくるわけでもない。ハリウッドばりのアクションシーンがあるわけでもない(あるけれど、主人公はズタボロにされている)。
それでも、あっという間に引き込まれ、読み終えてしまう。
ハードボイルドとは、汚い街をゆく、孤高の男の戦いを描いた男の小説である、というけれど(うろ覚えですが)、そのくだりでいうなら、まさしくこれはハードボイルドの王道。
地方で塾の講師をしていた主人公は、教え子の行方を探しに東京へくる。主人公は昔、東京の私立高校で教師をやっていたが、とある事件をきっかけに、田舎へひっこんだという経緯があると語られる。
教え子の行方を探るうちに、自分が東京を追われることになった事件を、思い出させる人間と再会する。その男は、教え子の失踪に絡んでいるのか。
主人公は教え子を探して、自分の過去へと戻っていく。
ストーリーはそんな風に、主人公である波多野の一人称で進んでいく。
もちろん、人探しとそれに絡む学校経営にまつわる暗い話など、ミステリーとしても面白く読める。
だが、志水辰夫の作品の一番の魅力は、なんといってもシミタツ節とまで称される、熱くほとばしるように語られる文章だ。そして恋愛小説とでもいえるような、上質な、大人の恋愛を、そのシミタツ節で読める幸せだ。
この物語も、いわゆるミステリーとしてのストーリー展開とは別に、波多野が東京を追われることとなった、過去の恋愛についてがもうひとつの大きな柱として描かれている。
教え子だった雅子との恋愛、結婚を、破廉恥事件として騒がれて、結果、彼らの結婚はダメになってしまう。
その相手であった雅子との再会。そして再びの交歓。
たった一瞬の再会の瞬間を、ここまで濃く描く。
さらに、再び雅子を抱きしめることになるシーンといったらもう。
これは多分、若い男女の恋愛では描けないものであろうし、ライターとして社会と人を見続けてきて、小説家デビューしたシミタツにしか書けない文章ではないかと、本気で思う。
静かな夜に、お気に入りのお酒片手に、ゆっくりと読んでみたい一品。けれどもきっと、読み始めたら「ゆっくり」などといっていられないほどのめりこむこと、間違いなし。
アダルトなあなたにどうぞ。