松平千秋のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
没頭してしまった。結末はもちろんわかっているのだが、判官びいきというか、トロイエ方を応援したくなる。ヘクトルがアルゴス方の防壁を破った瞬間は『このままアガメムノンを討て!』と思ってしまった。それ故、アキレウスの本格的な参戦を望みつつ、彼がいなければ或いは、とか妄想したり。理屈はともかく没入感があった。
比喩表現も素晴らしい。本巻の終盤、拮抗する両勢力を『日銭稼ぎの実直な女(糸を紡いで稼ぐ貧しい女)が、子らのため僅かばかりの手間賃を得るために、秤を手にして、両の皿に錘りと羊毛を載せ、持ち上げながら釣合いをとろうとする』などと表現する。羊毛の皿(トロイエ方)が少しでも重くあって欲しいと願うゼウス -
Posted by ブクログ
英雄の帰還、そして復讐。劇的に描かれる、悪漢勢の醜態と家族や家臣との絆は、数千年の古さを感じさせない。
主に冒険譚だった上巻から一転、主要人物が故郷イタケに集結し、本作の悪役となっている求婚者たちと対決するお話になっていく。ほとんどの舞台がオデュッセウスの自宅である屋敷となり、本来の主人自らが正体を隠して悪人成敗の計略をめぐらせる、というのが面白さの軸。エンターテイメントとしてシンプルな構成ながらも、人間味あふれるキャラクターと勢いのある筋書きは、紀元前の作品ということを忘れるほど、現代の我々にも魅力的なものであるといえる。「イリアス」上・下巻から順に読んできて本巻が一番面白かったので、途中 -
Posted by ブクログ
「イリアス」とともにニ大叙事詩と仰がれるギリシア最古の英雄物語。トロイア戦争終結後のオデュッセウスの冒険。
「アキレウスの怒り」がテーマの戦記ものであった前作から一転、オデュッセウスを中心とした冒険ファンタジーとなっている。父の消息を求めてテレマコスが旅立つ冒頭からワクワクがとまらない。神々が介入してくるのはイリアスとも共通するが、本作ではさらに王宮や冥府、魔女や巨人、漂流や裏切りなど、波瀾万丈の要素が盛りだくさん。紋切り型といわれればまさにその通りで、それは長い時を通してこの偉大な古典が愛されてきたことの証明でもある。無双すぎてモテすぎるオデュッセウス、やってることは今のラノベも変わらんで -
Posted by ブクログ
トロイア戦争の最後までは描かれず、アキレウスの物語として幕を閉じる。トロイの木馬が出てこないのは残念。
ゼウスの厳命により神々が人間の戦争に手を出せなくなるなか、ヘレの謀略とポセイダオンの暗躍が目を引く。女神テティスとの約束を守るべく、ゼウスが戦争のシナリオを緻密に組み立てているのには笑った。すべては彼の手のひらの上といわんばかり。
アキレウスが失意から立ち上がり、神ヘパイストスが新たに鍛えた最強武具を装備して戦いに赴くシーンは、ファンタジーとしても戦記ドラマとしても盛り上がるところ。やがて傍観していた神々も戦闘への参加を許され、人神入り交じった戦争のスペクタクルのあと、本作最大の見どころ -
Posted by ブクログ
紀元前8世紀ごろ口頭詩として制作されたとされる長編叙事詩。ギリシャ神話を題材とした、トロイア戦争を描く。
概要は有名な話であるし、2004年の映画『トロイ』も観ていたので、大ざっぱな筋書きは知っているつもりで、原典となる本作に挑戦してみた。すでに戦争が10年経過しているところから始まり、冒頭からアキレウスとアガメムノンのケンカが始まるので、多少の予備知識がないとやや面食らうかも。パリスがヘレネを連れ去ったという戦争の原因についても、知っている前提として話が進む。
映画と決定的に違うのは「神々の介入」。オリュンポスの神々が、それぞれのひいきの軍の動向を見守り、敵軍を支援する神を相手に言い争い