松平千秋のレビュー一覧
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ネタバレ血なまぐさい戦争英雄譚だった「イリアス」とはうってかわって、戦後のオデュッセウスが散々苦労して国へ帰る冒険譚。様々な民族や怪物、海の難所を超えて最終的に部下たち全員と船を失うことになるまでを語っている。イリアスはひたすら英雄たちが戦いあって臓物やら脳、脳髄やら飛び散りまくっていたが、こちらではそういった現実的なグロ描写はかなり抑えられてファンタジー的な趣が強い。もともと神たちが人間に話しかけ、力を貸したり罰したりという世界観がベースにあるから、ファンタジーな怪物もそんなに違和感なく地続きに受け止められているのだろうか。
オデュッセウスが知恵や工夫で怪物たちに立ち向かうのも面白いのだが、長年に渡 -
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ネタバレ読み終わって、えっここで終わり!?という感じ。戦争の途中から始まって、途中で終わってしまう。主人公というべき存在のアキレウスの怒りから始まる物語ではあるが、再三予言されるその死までは語られず…と、ちょっと消化不良感がある。食事や火葬の手順が細かく書かれていたり、麦の刈り入れや野獣に食われる羊など、当時の風俗をうかがい知れる例えの描写は相変わらず面白いけども。
アキレウスがかなり頑固で残忍なので(特に仇の死体を何日も馬車で引きずり回すのはドン引きした)、個人的には敵方の完璧兄貴ヘクトルのほうが好感度が高い。親や嫁の嘆きようも哀れを誘うが、お父さんたら他の子に「お前らがヘクトルの代わりに死ねばよか -
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この前読んだユスティノスの著作にけっこうホメロスの引用があったので、当時のギリシア語教養としてその辺を抑えておくのも必要なのかなと思い、この際読んでみることにした。
もっと退屈なものを想像していたけど、思った以上にダイナミックで臨場感あふれる感じで面白かった。しかし、人間の戦いや生き死にに私情で適当なちょっかいをかけて干渉してくるギリシア神たちの残酷さは恐ろしいけど、神とて決して完ぺきではなく、騙し騙されたり親に泣きついたりとなかなか憎めない。人間にしても、自分の女を取られたという理由だけでこんなに大規模な戦争を10年もしたり、すねて参戦をやめたりしているのだからしょうもない。そんな神・人間の -
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ロシア軍のブチャにおける蛮行のニュースを観た後で、「血湧き肉踊る」クライマックス・シーンを読んだ。
平時なら、僕だって楽しく読めたのかも知れないが、今読むと悍ましさが鼻を突く。
どうみても、求婚者達の攻撃に対するオデュッセウスの反撃(復讐)の刃は過剰であり、あまりにも悦びに満ち満ちている。
やはり、ロジェ・カイヨワが『戦争論』で書いた通り、人間は戦争が好きなのだ。人間とは、ホモ・プグナ(戦う人)なのかも知れない。
いずれ、遅かれ早かれ、その脳内に埋め込まれた致命的なプログラムゆえに、人間は滅びるだろう。
同族を殺戮する悦びに打ち震えながら。
残念ながら、蝶とちがって人間は決して「変態」できな