菊地成孔のレビュー一覧
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もしも、ジャズとりわけモダンジャズに興味を持ちながら「何やってるのかよく分からない」から今まで聴いてこなかったという方がおられましたら。あるいは、ジャズの歴史(ビバップに始まりモードに至る)を、それぞれを代表する音源を聴きつつ学びたいという方がおられましたら。さらに、グレゴリオ聖歌からMIDIまでのコード進行を軸とした音楽理論とその流れを体系的に学びたいという方がおられましたら。そしてなにより、菊地成孔は知っているが、その衒学的な文章に酔いしれたことがないという方。とりわけ、この本をこれまで読んでこられなかったという方。もしも、そうした方がおられましたら、今すぐ手に取ってご覧になってみてください。著者の強烈に憂鬱で官能的なブローはのっけからこのように、唐突に、始まります。
「東京大学でアルバート・アイラーがかかることは二度とないだろう」 -
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書店で必ずあるのがNHKテキストのコーナー。そこに「筒井康隆」と大きく書かれた薄い本が山積みで置かれていた。なぜ筒井康隆の本がNHKテキストなのか?と混乱しながら本を手に取ってみたら、別冊NHK100分de名著のシリーズ関連図書とのこと。他にも、有名人の本がいくつも置かれていた。この本は、今年のお正月にNHKで放送された内容を基に纏められたもの。筒井康隆大好き人間4人とカズレーザーが出演していたとのこと。4人それぞれが自分のスタイルで筒井康隆作品を解説する。そう言えば、昨年もNHK-BSで筒井康隆の特集番組が組まれていた。一時期、「残像に口紅を」がSNSで話題になり、どの書店でも文庫本がこれも山積みされ、飛ぶように売れたとのこと。一体、どの様な経緯があってSNSでバズるのか理由を知りたい。
中条省平(フランス文学者)は流石に学者らしく、お題目の「脱走と追跡のサンバ」に関連する様々な外部作品や世界情勢を基に持論を展開し、見事に本作品を説明しきっていた。そこまで広げるか?という点は否めないが、この作品に対する深い愛を否が応でも感じてしまう。
池澤春菜(声優・作家・エッセイスト)の担当は「七瀬三部作(家族八景・七瀬ふたたび・エディプスの恋人)」。NHKでドラマ化(NHK少年ドラマシリーズ)されており、主演の七瀬には当時好きだった多岐川裕美が演じていた。この半年前に「東芝日曜劇場」で「芝生は緑」という題名で家族八景を放送していたとは全く知らなかった。こちらも主演が多岐川裕美だったらしく、見逃してちょっと悔しかった。池澤春菜は中条の様に外部の作品をあまり引用することなく、三作品の文章自体を引用して自分の七瀬愛を深掘りしていた。
菊池成孔(音楽家・文筆家)は18作品の短編集「エロチック街道」の個々の作品について解説をしている。まず、本作品が中南米文学から大きく影響を受けていることは知らなかった。私は単に面白い作品だなと楽しんで読んでいた訳だが、その様な深い背景があったとはね。そしてこの時期、筒井は中央公論社の編集者である塙嘉彦氏にかなり影響を受けていたようだ。実は編集者という仕事がそれほど重要とは思ってはいなかったが、編集という仕事は松岡正剛の様に哲学者の如く文学作品に影響を与えることを知った。実際に、筒井康隆をSFから純文学に舵を切らせたのは塙嘉彦氏とのこと。この本は短編集なのだが18作品の個性がかなりバラバラなので、本全体として評価するのではなく、気に入った作品を集中的に、これも深掘りしていた。
そして最後は、SFだったら何でも首を突っ込んで来る大森望(書評家・翻訳家・アンソロジスト)による「虚構船団」の解説。この解説を読んでいると、本当にこれは純文学なのだろうかと首をひねってしまう。大森望が言う通り、この作品が新潮社から叢書風に箱入りで出すような作品なのか?安部公房「砂の女」や大江健三郎の「同時代ゲーム」と同列の純文学なのか?でも実際にこれら3冊を並べてみると、意外としっくりくる。実に不思議で謎だ。正直に言うと、購入当時は擬人化した文房具の説明に辟易して積読コーナーへ。でも大森望の解説を読んだら俄然読む気が出て来た。でもページ数が多いから、また途中で中止するかもとグダグダ悩み中。
今回の参考に使われた筒井作品をリスト化してみたら、意外と抜け落ちているものがあった。DVDは「日本以外全部沈没」、「ウィークエンド・シャッフル」、それと芦名星の映画版「七瀬ふたたび」の3つを持っていた。買った時点で安心して、なんとどれも見ていなかった、ショック! -
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音楽家にして文筆家で、誕生日がトランプ元大統領やチェ・ゲバラ、山縣有朋、川端康成、大塚寧々と同じな菊地成孔さんの2017年4月〜2020年7月のウェブマガジン連載を単行本化したエッセイ集。
このご時世にタイトルだけ聞くと、社会派エッセイ期待するのだけど、内容はぶっ壊れたおじさんの雑文集(笑)
いいですよ。情報量多くて、でも頭使わなくてよくて、なんていうかフィジカルで。
菊地成孔さんは、僕が鼻垂れ坊主の時に、キラキラ輝いた大人だった人たち。少し上を見上げると眩しかったバブルのお兄さん。
怖いもの知らずで、かっこよかった。
そんな憧れを思い出した。
…とまあ、時に笑いを抑えられないところもありつつ、楽しく読んでたのですが、終盤になるにつれて、この本とんでもない本だと気付きました。
「コスパは突き詰めれば自殺」、「トランプは非戦派大統領」など、なかなか人が認めたがらない真実をズバリと言ったり、2019年の年末に「来年は嫌煙権から派生的に嫌咳権が生じ、あっという間に強い具体性を帯びる」とまるでコロナ流行を予言してみたり…
だんだん恐ろしくなってたら、あとがきで最強と評価していた星野源がガッキーと結婚したり…
背筋がぞぉーっとしました。
そして、東京オリンピックは負ける賭けだという。
ロクなことにならない、と。
でも、東京はまだオリンピックやるつもりなんだよな、たしか。
この本読んで、5月26日の朝日新聞社説は断固支持したい、と思った。 -
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ネタバレバークリーメソッドとは、アメリカのバークリー音楽院で教えられている音楽理論。20世紀商業音楽の作曲、編曲に多大な影響を与えたと言われている。この本は、とにかく二人の講義内容、語り口が面白い。
『さて、商業音楽が発展する起爆剤っていうか、根本的なエネルギーは何か? それは今あるものに飽きるってことです。飽きなければ商業音楽は発展しません。えー、なぜソヴィエト映画はつまらないのか? 「飽きる」という市場原理をソヴィエト連邦が持たなかったからですね。誰も何も飽きない。という前提でソヴィエト連邦は国民に対する娯楽を国家が制作したわけですけれども、国民はそんなのにもう飽き飽きしながら、でも、「これは面白い!」と強制的に信じ込んで、飽き飽きしながらも楽しく観ていたという。えー、何言ってるんだかわかんなくなってきましたが(笑)、そんなことしているうちに国全体が潰れてしまいました(笑)。飽きる。飽きるので新しいことをしたくなる。皆さんもご存知な感覚ですね』(p.131)
『教養主義と近代っていう話についてもちゃんとやると本当に大変で、滅多なことは言えないんだけど。あの、要するに四つあるわけじゃない。「教養があるから、いい」、「教養があるから、ダメ」、「教養がないから、いい」、「教養がないから、ダメ」。これ四つとも嘘だからね。教養といい悪いはまったく何も関係なくて、教養のあるなしと、良し悪しはまったく関係ないってことは、すごく重要です。アート方面ではこういう問題を「アウトサイダー・アート」なんつって区分をつけたりしてるけど(…)無教養によって大胆になることはありますよね。で、教養によって臆病になることも起こるでしょ。んで、それぞれその逆もあると』(p.283-284)
(バークリーメソッドに対立する音楽理論、ジョージ・ラッセル著『リディアン・クロマチック・コンセプト』について)
『リディアン世界、リディアンを中心にして考えた世界においては、目的に到達しろっていう圧力がないから、抑圧がない。だから欲求不満がそもそも生まれない。すでに完成されている状態がまず設定されていて、人はそこで自由に運動できるっていう哲学が根本になっているんです。これはものすごい魅力的です。近代総体に対するアンチって言ってもいい。
近代っていうのは、われわれを欲求不満にして、欲望の発生装置を外部に求めて、街に出るとものが欲しくなって、家に引きこもると何もしたくなくなってしまう、っていうような(笑)、われわれを商業主義に飼いならされている家畜みたいにしてしまう側面を一面では持ってるのね。だから近代が悪いってわけじゃないよ。でもこれは近代の弱点でもあるし、悪い面と言われることも多い。それをこの本はズバッと突いています。欲望の無限循環を生み出すシステム、それが資本主義なんですけど、そんなんでいいの? とこの本は言っているわけです。
「反対にメジャー・スケールは『何かを成し遂げよう』と努力」する、と。「メジャー・スケールは常にその線上のどこかにたどり着こうとし、常に目標に到達し目標と一体になろうと努めています」。で、そんな発想ではダメだ、と。ここのつかみは強烈ですよね』(p315-316)
『完成しているから動かなくていい、ってなっちゃうと、それは非資本主義なんだけど、ま、非近代的にね、欲求不満も何もなく完全に満足された状態のまま、何かの違う事情によって、和声が進んだりメロディーが進んだりする、っていうのが、リディアン・クロマチックのコンセプトです』(p.317) -
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ついにでました。東大講義の後編です。
前回は歴史、今回はキーワードということで
大きく四つのキーワードをもとに書かれています。
1. ブルース ゲスト:飯野友幸
バークリーメソッドだけではうまく説明できない内容と、ラングメソッドの前段階として。
2. ダンス ゲスト:野田努
世界のダンスと、音楽とダンスの関係。
3. 即興 ゲスト:大友良英
即興のいろいろなことから派生する菊地氏と大友氏の対談のような、インプロビゼーション イン ジャパン(?)な話。
4. カウンター/ポストバークリー ゲスト:濱瀬元彦
バークリーに対するリディアンクロマチックコンセプトの秘教性と、ラングメソッドの概要紹介
この赤アイラーではバークリーメソッドでは回収できない最近の音楽の話をたくさんしていて、なおかつちゃんと理論づけて展開されてるので、とても面白いです。
でも本の帯には
「あんま簡単に僕らの話を信用しないようにね、いつも疑ってかかる精神はわすれずに。」
とあります。(笑)