加賀乙彦のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
大東亜戦争、幼年学校の独特の文化と規律、上級生や同輩との関係、戦時中の思想、死、玉砕、不滅の皇軍と神州、苦しくなる食糧事情、父母からの空襲のたより、疎開先の苦労。少し不器用で感受性豊かな省治が、他人のように無心に思想に入り込めず、逆に終戦で24時間前と真逆のことを出来ず言えない。彼らは彼らなりの論理で戦争と勝利を信じて疑わず、若くして死ぬことを受け入れていて、ひたすら異常な戦争思想の真っ只中に入った、若さと純粋さそしてそれを表す言葉の強さと美しさ、読んでいて戦争を肯定も擁護もできないけど、そういう教訓めいたことも考える余裕はなく、小説にどっぷりと浸かってしまった。死を是と信じ切る閉ざされた環境
-
Posted by ブクログ
ペトロ岐部カスイという人を知らなかった。
「日本のマルコ・ポーロ」と呼ばれていて、長崎からマニラ・マカオ・ゴアと旅を続け、日本人で初めてエルサレムへ巡礼した人。
この物語はペトロ岐部が船で日本を出発するところから始まる。
日本を脱出し、マカオで司祭を目指すも断られ、ローマで勉強する事を目指し、一路西へ。エルサレムにも立ち寄る巡礼の旅は、故国で弾圧・迫害を受けるキリシタンのために働き、死に、天国へ行くことを目指す死出の旅に変化する。
ただ病死、事故死、ただ殺されるのではなく、「イエスと同じ苦しみに満ちた死」を求め、故国に戻りキリシタンを導き、その延長で殉教することを望むペトロの信仰による生き -
Posted by ブクログ
精神科医、犯罪学者でもある著者が、医務部技官として勤務した東京拘置所で囚人たちと接して、犯罪を起こしたその時の心理を表現した言葉として多かったのが
「あの時は、悪魔がささやいたんです」
「どうしてあんなことをしたのか、自分でもわからない。悪魔にささやかれたとしか思えない」
その「悪魔のささやき」とは何なのか?
高学歴で将来を嘱望されていた人たちが、オウム真理教のようなマインドコントロールを受けるのはなぜか?
家族を簡単に殺してしまうのはなぜか?
見知らぬ人と集団自殺するのはなぜか?
自殺する勇気のない人が、犯罪を起こすことによって死刑になろうとするのはなぜか?
昨今は理解に苦しむ事件も多 -
Posted by ブクログ
"知り合いから紹介された本。日本の現状を様々なデータも交えながら、的確に言い得ている。知り合いの方も言っていたが、著者の加賀乙彦さんとほぼ同じ風に世の中を見ていたので、ある意味痛快だった。
不幸な国とは、我が国日本。日本は社会、仕組み、共同体として不幸を生産している。そんな国に生きる人間の幸福とはなんなのか?という問いかけをしているのが本書である。刺激を受けた部分をメモしておく。
第一章 幸福を阻む考え方・生き方
「見られる自分」に対する意識の強さと「悩み抜く力」の欠如
「悩み抜く力」の欠如=「考えずに受け入れる」ことが当たり前になった
つまり、
・新しい技術で生み出された文明の -
Posted by ブクログ
加賀さんは自伝的小説として「永遠の都」「雲の都」を書いているが、フィクションと実際がどう違うのか種明かしのために自伝を書かれたと言われている。ただ「科学と宗教と死」でもかなり自伝的な話が書かれているし、今回の書はそれを膨らませたものといっても良い。奥さんを突然になくされたこと、東日本大震災のことが大きな契機になっていると思われるが、死刑囚を研究することで若い頃より死に付いて考えてこられ、晩年のキリスト教体験を含め、著者の生き方、哲学の集大成の書物と言ってよいだろう。小説家なので読ませる文章ではあるが、グイグイ引き込まれてアッという間に読めた。読後もずっしり心に残る書であった。
-
Posted by ブクログ
高1か高2のときに、新書レポートの本として読んだものを再読。
読んだ本の内容をはっきり覚えていられない者ながらも、この本はためになった本としてうっすら覚えていました。
おそらく、当時の私はなんとなく法学部志望だったこともあり犯罪心理学に興味があったこともありこの本を手に取ったんだと思います。
本書は、タイトルにある通り「悪魔のささやき」についての事例やその予防策などについての見解が述べられています。
ただ、それのみならず、現代社会における問題を考えさせる要素を含んでいると思います。
社会の刑務所化、という考え方が印象的。
読みやすい文体で難解な用語もなく読み進めることができました。
最後の章