加賀乙彦のレビュー一覧

  • 帰らざる夏

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    素晴らしいの一言。
    『フランドルの冬』でも感じだが、全体通し過度な修飾が無くとも音や色が入ってくる。作者の日本語の使い方に巧さと品があり非常に好み。
    国を想う少年達が熱くぶつかり合う描写で、敗戦時の天皇主義に正解などないと率直に感じた。
    当時の“稚児”という特殊な男色関係も、彼らの刹那的な生命における唯一の彩りだと感じ胸を衝かれた。
    1人の少年が激烈な環境を生き抜いた果てに、終わりへと向かう姿に、言葉も無い。

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    2023年06月15日
  • 帰らざる夏

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    大東亜戦争、幼年学校の独特の文化と規律、上級生や同輩との関係、戦時中の思想、死、玉砕、不滅の皇軍と神州、苦しくなる食糧事情、父母からの空襲のたより、疎開先の苦労。少し不器用で感受性豊かな省治が、他人のように無心に思想に入り込めず、逆に終戦で24時間前と真逆のことを出来ず言えない。彼らは彼らなりの論理で戦争と勝利を信じて疑わず、若くして死ぬことを受け入れていて、ひたすら異常な戦争思想の真っ只中に入った、若さと純粋さそしてそれを表す言葉の強さと美しさ、読んでいて戦争を肯定も擁護もできないけど、そういう教訓めいたことも考える余裕はなく、小説にどっぷりと浸かってしまった。死を是と信じ切る閉ざされた環境

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    2022年04月24日
  • 科学と宗教と死

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    科学と宗教や迷信などを絶対に交わらない相反するもの、として譲らない人にこれ読んでほしいなぁといつも思ってます

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    2021年05月08日
  • 殉教者

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    ペトロ岐部カスイという人を知らなかった。
    「日本のマルコ・ポーロ」と呼ばれていて、長崎からマニラ・マカオ・ゴアと旅を続け、日本人で初めてエルサレムへ巡礼した人。

    この物語はペトロ岐部が船で日本を出発するところから始まる。
    日本を脱出し、マカオで司祭を目指すも断られ、ローマで勉強する事を目指し、一路西へ。エルサレムにも立ち寄る巡礼の旅は、故国で弾圧・迫害を受けるキリシタンのために働き、死に、天国へ行くことを目指す死出の旅に変化する。

    ただ病死、事故死、ただ殺されるのではなく、「イエスと同じ苦しみに満ちた死」を求め、故国に戻りキリシタンを導き、その延長で殉教することを望むペトロの信仰による生き

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    2021年02月03日
  • 不幸な国の幸福論

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    著者の人生が詰まっている感じがします。
    著者の御年もあり、説得力があります。

    歳を取っても幸福に生きるために、読んで良い本です!

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    2020年05月28日
  • 悪魔のささやき

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    精神科医、犯罪学者でもある著者が、医務部技官として勤務した東京拘置所で囚人たちと接して、犯罪を起こしたその時の心理を表現した言葉として多かったのが

    「あの時は、悪魔がささやいたんです」
    「どうしてあんなことをしたのか、自分でもわからない。悪魔にささやかれたとしか思えない」

    その「悪魔のささやき」とは何なのか?
    高学歴で将来を嘱望されていた人たちが、オウム真理教のようなマインドコントロールを受けるのはなぜか?
    家族を簡単に殺してしまうのはなぜか?
    見知らぬ人と集団自殺するのはなぜか?
    自殺する勇気のない人が、犯罪を起こすことによって死刑になろうとするのはなぜか?

    昨今は理解に苦しむ事件も多

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    2019年02月17日
  • 不幸な国の幸福論

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    "知り合いから紹介された本。日本の現状を様々なデータも交えながら、的確に言い得ている。知り合いの方も言っていたが、著者の加賀乙彦さんとほぼ同じ風に世の中を見ていたので、ある意味痛快だった。
    不幸な国とは、我が国日本。日本は社会、仕組み、共同体として不幸を生産している。そんな国に生きる人間の幸福とはなんなのか?という問いかけをしているのが本書である。刺激を受けた部分をメモしておく。

    第一章 幸福を阻む考え方・生き方
    「見られる自分」に対する意識の強さと「悩み抜く力」の欠如

    「悩み抜く力」の欠如=「考えずに受け入れる」ことが当たり前になった
    つまり、
    ・新しい技術で生み出された文明の

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    2018年10月19日
  • 不幸な国の幸福論

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     秋葉原で起きた通り魔事件を引き合いに、現代日本の「不幸」を考察する。
     考えない習性や幸せに対する慣れ、他者を気にする日本人の国民性もあるらしい。
     高度成長期から、バブルがはじけた後も、豊かさの幻想を追い求めてしまった日本。リッチな国の不幸な国民。
     介護・医療の崩壊につながる制度誕生のきっかけとなる郵政選挙。当時の庶民心理は戦前・戦中にも似るとの指摘。
     幸福は身分や収入でなく、自分の考え方次第であり、高齢化の時代に、自分の生きる姿勢が幸福を作ると説く。

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    2018年08月05日
  • 科学と宗教と死

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     軍国主義時代に育った著者は、戦争による多くの死を見て、受けた教育との板ばさみに苦しむ。
     精神科医となり、犯罪者の心理学の研究を行う中でも、死についてたびたび考えた。
     学問という科学では、限界がある人間の心の深さを感じる一方、長く人間を支えてきた宗教に思いをはせる。
     死刑囚との交流やフランス滞在、妻の突然の死、日本を襲った震災。著者の体験も交えた実感のこもる思索に、深く納得させられる。

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    2018年08月05日
  • 悪魔のささやき

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    非常に示唆に富む内容。社会全体の緩みが悪魔のささやきにそそ流れる環境を作り出していて、それを克服するには、一人一人が自分で考える事が重要であると。その通りだが、未熟な自分の胸に刺さる。

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    2017年04月26日
  • 死刑囚の記録

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    刑務所内で医師として働いていた筆者の当時の体験をもとに書かれた死刑囚の心理についての考察。仕事柄成し得た様々な死刑囚達との高頻度な交流を通して、その心のうちが精神科医である筆者の鋭い視点によって整然と暴かれていく。死刑囚を知る上での貴重な一冊。

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    2016年03月04日
  • 帰らざる夏

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    裏表紙のあらすじで実に潔くネタバレしてて、「え、ああ…えっ?」って二度見。
    主人公が最初っから抱かれたがっててヤバイ。

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    2015年04月05日
  • 悪魔のささやき

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    程度に差があっても、「魔がさす」ことは起こりうる。その瞬間、理性と抑制を失い、後で思えばなぜとしか言いようのない過ちを犯してしまう。確信犯ではないだけに、極めて分析がしにくい。誰にでも素地があって、どうにか自制しているが、無信仰、無関心な状態で発しやすいらしい。自分に無縁などとは思えないし、残された人生で何が起こるか知れない不安はある。過ちは際限なく重ねてきたし、これからもそうだろう。

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    2014年06月16日
  • 帰らざる夏

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    非常にリアルな、戦争の情景だけでなく幼い青年の心情の極めてリアルさが重苦しく、酩酊を覚える。難関の幼年学校に合格して教育を受け、生徒たちからも感化される。戦争を知らない世代に、当時を異常とは決して思わせないものがある。2.26事件をきちんと処理していれば太平洋戦争に避け得た、というのに興味。調べてみたい。14.1.18

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    2014年01月18日
  • 加賀乙彦 自伝

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    加賀さんは自伝的小説として「永遠の都」「雲の都」を書いているが、フィクションと実際がどう違うのか種明かしのために自伝を書かれたと言われている。ただ「科学と宗教と死」でもかなり自伝的な話が書かれているし、今回の書はそれを膨らませたものといっても良い。奥さんを突然になくされたこと、東日本大震災のことが大きな契機になっていると思われるが、死刑囚を研究することで若い頃より死に付いて考えてこられ、晩年のキリスト教体験を含め、著者の生き方、哲学の集大成の書物と言ってよいだろう。小説家なので読ませる文章ではあるが、グイグイ引き込まれてアッという間に読めた。読後もずっしり心に残る書であった。

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    2013年11月27日
  • 悪魔のささやき

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    とても読みやすい本。医学的見地までとても読みやすい本。
    読んでいても感じる事だが大変な読書家である作者の、その知識を集めて書かれた本書は一読の価値があると思う。
    幻聴の話は目から鱗。言われてみればそうだと、初めて意識しました。

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    2013年04月06日
  • 悪魔のささやき

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    高1か高2のときに、新書レポートの本として読んだものを再読。
    読んだ本の内容をはっきり覚えていられない者ながらも、この本はためになった本としてうっすら覚えていました。
    おそらく、当時の私はなんとなく法学部志望だったこともあり犯罪心理学に興味があったこともありこの本を手に取ったんだと思います。

    本書は、タイトルにある通り「悪魔のささやき」についての事例やその予防策などについての見解が述べられています。
    ただ、それのみならず、現代社会における問題を考えさせる要素を含んでいると思います。
    社会の刑務所化、という考え方が印象的。
    読みやすい文体で難解な用語もなく読み進めることができました。
    最後の章

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    2012年08月23日
  • 悪魔のささやき

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     どんな人にでも、ふとした時に悪魔がささやくことがある。悪魔の誘惑に負ければ、自殺したり、犯罪を犯したりする。
     これは、自他を守るために、「悪魔のささやき」に抵抗する手段を身につけるための指南書である。

     ――と言っても宗教の本ではありません。分類としては精神医学の範疇です。

     昨今続発している、理解し難いほど幼稚で稚拙な動機の凶悪犯罪が起きる要因について知りたい、という方にお薦めします。

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    2012年03月05日
  • 科学と宗教と死

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    加賀乙彦先生は最も尊敬する作家の1人です。

    「永遠の都」は2度読みました。

    沼野先生とのドストエフスキーについての対談もお聞きしました。

    本書を読んで初めて知ったこと。

     陸軍幼年学校の御卒業であること。

     最愛の奥様を亡くされたこと。

     心臓ペースメーカーをつけられたこと。

     昔、フランスで自動車ごと断崖に転落されたこと。

    加賀先生は「死」と真摯に向き合った最高の作家だと思います。

    『悪魔のささやき』も感動しました。

    まだ81歳。頭脳明晰。本郷に住むなんて羨ましいです。

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    2012年03月04日
  • 不幸な国の幸福論

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    特に教師という職業に従事されている方には必読書にして頂きたい一冊。
    小学校の道徳やホームルームの時間に充てて欲しい。

    齢八十を超えた精神医学者が著書であるが、そのせいか語り口がとても柔らかい。また、戦争を経験している世代でもある。

    もちろん、教師以外の方にも推薦図書です。

    近年稀に見る良書。

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    2012年02月15日